資本金と税金|何税がどの位?今さら人に聞けない疑問をやさしく解説

資本金と税金|何税がどの位?今さら人に聞けない疑問をやさしく解説

記事更新日: 2021/04/07

執筆: 奥谷佳子

法人を設立するにあたって最初に決めなければならない項目の一つに「資本金」があります。

例えば資本金1億円と聞いたとき、どのような企業を想像するでしょう。資本金の意味は分からずとも、なんとなく大企業であるイメージを持つ方が多いのではないでしょうか。

資本金は会社の事業規模を表す指標であり、税金とも密に関係しています。

そこで今回は「そもそも資本金とは何か?」「資本金に対して税金が発生するのか?」という疑問について簡単に解説していきます。

資本金とは何か?

元手となる資金

資本金とは「事業を始める際の元手になる資金」です。

販売する商品の仕入や事務所、車両の準備、当面の運転資金など、事業を始めるにはまず「資産」を準備しなければなりません。

資産を揃えるためには元手となる「資金」が必要となりますが、株式会社の場合は資金を株主からの出資により集めることとなります。これが「資本金」です。

集めた資本金額が多ければ多いほど、調達できる資産も多くなりますので事業規模も必然的に大きくなります。

資本金0円でも会社を設立できる

以前は、会社を設立する際の最低資本金が商法や有限会社法などで定められていました(株式会社1,000万円以上、有限会社300万円以上)

しかし、平成18年の新会社法施行により最低資本金制度が廃止され、現在では「資本金1円」の会社や現物出資による「資本金0円」での会社設立も可能です。

しかしながら、法人を設立する際のハードルが大幅に下がったからといって、安易に資本金0円で起業することにもリスクが伴います。

会社に対する評価に影響

事業を進めていくなかで、得意先や金融機関に対して取引調査票や決算書を提出することがあります。

これらの資料を通して、相手先は「資本」をチェックして会社を評価します。

「資本」は別名「自己資本」とも呼ばれ「資産-負債」の差額として表されます。

自己資本が大きい会社は、買掛金や借入金などの他人資本が多い会社と比べ、資金ショート(資金が足りなくなること)による倒産のリスクが少ない企業であるとされます。

「資本」の中核をなすのは「資本金」ですので、資本金が大きい会社はそれだけ安定した企業であると評価されます。

つまり、企業評価の観点からいえば「資本金」は多いほうがよいということです。

このように資本金は事業規模を表す指標の一つであり、実は税金とも密に関係しています。

資本金と税金

法人税額に及ぼす影響

法人税は会社の利益(所得)に対して課税されます。

資本金は利益(所得)ではありませんので結論として、例えいくらであっても資本金自体に税金はかかりません。

ただし、税金の計算をするにあたって「資本金額」を基準として税額が決定される項目や税法上の特典が数多くありますので、代表的なものを列挙してみましょう。

1. 法人税の税率は資本金額1億円以下の会社については軽減税率(所得800万円まで15%)を適用

法人税の税率は原則23.2%ですが、資本金額1億円以下の会社については800万円までの所得について税率が15%に軽減されます。

例:所得1,000万円に対する法人税額

資本金 税額
1億円超

232万円
1,000万円×23.2%

1億円以下

166.4万円
800万円×15%+200万円×23.2%


結果、資本金1億円以下の企業は65.6万円の軽減。

2. 都道府県民税や市町村民税の均等割は資本金額と従業員数により税額を決定

都道府県や市町村によって違いはありますが、資本金が多くなると赤字決算であっても支払わなければならない最低限の税金(均等割額)が増加します。

例:東京23区内に事務所があり従業員数50人以下の法人の場合

資本金 均等割額
1,000万円超 180,000円
1,000万円以下 70,000円


年間110,000円の増加ですから10年で110万円、30年で330万円…と決して無視できる金額ではありません。

3. 交際費の損金不算入制度では資本金1億円以下の企業について800万円まで全額損金算入

資本金が1億円を超える大企業については、交際費のうち飲食費の50%しか経費(損金)にすることができません。

それに対して資本金1億円以下の中小企業については「交際費のうち飲食費の50%」、「800万円」のいずれか大きい金額を上限として全額損金とすることができます。

飲食代が年間1,600万円を超えるようなケースはまずありませんので「上限800万円」と覚えておいてもよいでしょう。

例:所得1,000万円 交際費500万円(うち飲食費300万円)の場合

資本金 税額
1億円超

313.2万円
飲食費300万円×50%=150万円(交際費の限度額)
交際費500万円-150万円=350万円が経費として認められない
所得1,000万円+350万円=1,350万円で税額を計算
1,350万円×23.2%=313.2万円

1億円以下

166.4万円
上限800万円であるため交際費500万円全額が経費として認められる
所得1,000万円で税額を計算
800万円×15%+200万円×23.2%=166.4万円


結果、資本金1億円以下の企業は313.2万円-166.4万円-※65.6万円=81.2万円の軽減

※中小企業の軽減税率=800万円×(23.2%-15%)=65.6万円

交際費の特典とは関係ない税率の違いによる金額なので比較する為に控除しています。

4. 資本金1億円以下の企業について、特別償却や少額減価償却資産など固定資産に対する優遇措置を受けることができる

資本金1億円以下の中小企業に対する投資促進税制

1. 取得した固定資産の減価償却費を上乗せ(取得価額の30%)することが認められる。

2. 30万円未満の少額な固定資産の取得について上限300万円に達するまで全額経費とすることができる。

例:所得1,000万円 機械装置1,000万円を取得した場合

資本金 税額
1億円超

232万円
投資促進税制の特典なし 
1,000万円×23.2%=232万円

1億円以下

105万円
機械装置1,000万円×30%=300万円の減価償却費の上乗せ
所得1,000万円-300万円=700万円で税額を計算
700万円×15%=105万円


結果、1億円以下の企業は232万円-105万円-※57.4万円=69.6万円の軽減。

※中小企業の軽減税率=700万円×(23.2%-15%)=57.4万円

減価償却費の特典とは関係ない税率の違いによる金額なので比較する為に控除しています。

5. 繰越欠損金の控除限度額(所得の全額を繰越欠損金と相殺可能)

青色申告をしている会社の場合、赤字(欠損金)を翌期以降に繰り越すことができ、翌期以降に黒字が出た時にこの赤字と相殺して所得を減らすことができます(繰越欠損金控除)。

資本金が1億円を超える大企業は相殺額が黒字の50%に制限されますが、資本金1億円以下の中小企業については制限がなく、黒字全額を相殺することができます。

例:所得1,000万円 繰越欠損金1,000万円の場合

資本金 税額
1億円超

116万円
所得1,000万円×50%=500万円を繰越欠損金と相殺できる
所得1,000万円-500万円=500万円で税額を計算
500万円×23.2%=116万円

1億円以下

0万円
所得1,000万円が全額相殺できる
所得1,000万円-繰越欠損金1,000万円=0円


結果、1億円以下の企業は116万円-0万円-※41万円=75万円の軽減。

※中小企業の軽減税率=500万円×(23.2%-15%)=41万円

繰越欠損金控除の特典とは関係ない税率の違いによる金額なので比較する為に控除しています。

消費税の課税事業者判定

消費税を納める義務のある会社のことを「課税事業者」と呼びますが、新規設立した企業については原則として2年間、納税義務がありません(免税事業者)。

ただし、資本金1,000万円以上の会社については設立初年度から「課税事業者」として納税義務が生じます。

例:設立後の取引から計算した消費税額が年間100万円だった場合

資本金 1年目 2年目 3年目
1,000万円以上 100万円 100万円 100万円
1,000万円未満 0円 0円 100万円

 

登記費用の違い

資本金の額は新会社法上「登記事項」として定められており、会社設立や増資、減資など異動があった場合にはその都度、法務局で登記手続きをとらなければなりません。

設立時にかかる登録免許税は「資本金額の0.7%(15万円未満になる場合は15万円)」となりますので、資本金額が多ければ多いほど登記費用は増加します。

また、増資についても同様に「増資額の0.7%(3万円以下になる場合は3万円)」となりますので注意が必要です。

まとめ

・資本金とは会社の元手金

・資本金が多いほど会社としての評価は上がる

・法人税の計算では資本金額を基準として税額が決定される項目や税法上の特典がある

・資本金額により設立後1年目から消費税を支払わなければならない

・設立時の登録免許税は資本金額が大きいほど増加

資本金はそれ自体に直接税金がかかるものではありませんが、税額を決定する際の目安とされるケースが数多く見受けられます。

財務の健全性・安定性を高めるという観点からいえば、自己資本を充実させることは決して悪いことではありません。

資本金額を大きくすることは自己資本を充実させる一番ストレートな方法であるといえます。

しかし、資本金の増加により手放さなければならない税法上の特典、発生するデメリットがあるということも十分考慮し、自社にとって最適な資本金額を決定しましょう。

画像出典元:o-dan

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