投資の世界では、ベンチャー企業の育成や支援を目的として投資を行う投資家のことを「エンジェル投資家」と呼びますが、実はベンチャー企業に対する投資は、投資家向けに税制上の優遇措置が用意されています。
今回は、ベンチャー企業に対する投資における税制上の優遇措置「エンジェル税制」について、その仕組みから確定申告までを詳細に解説していきます。
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エンジェル税制とは、一定の要件を満たしたベンチャー企業に対して個人が投資を行ったときに、その個人投資家に対して税制上の優遇を行う制度です。
「投資時点」と「売却時点」との2つのタイミングで優遇措置を受けられるという特徴があり、個人投資家による節税対策の選択肢の一つとして活用されています。
最近できた制度のように思われがちですが、実は創設は平成9年と古い制度です。
平成22年に寄付金控除が改正され(後述)、平成27年度にはエンジェル税制を利用した投資額は約25億円に達したといわれています。
エンジェル税制の根拠となっている法律は「租税特別措置法」および「中小企業等経営強化法」の2つです。
租税特別措置では第37条の13でベンチャー企業が発行した株式の取得に要した金額を控除する旨が定められており、中小企業等経営強化法では第7条でベンチャー企業の株式取得に際して譲渡損失等が発生した場合に所得税の優遇措置を受けられる旨がそれぞれ定められています。
先述の通り、エンジェル税制は「投資時点」と「売却時点」との2つのタイミングで優遇措置を受けられ、これが個人投資家にとっては大きなメリットとなっています。
まず、ベンチャー企業への投資時に受けられる2種類の優遇措置について説明しましょう。
創業(設立)3年未満の中小企業等に対して投資を行った際に受けられるのが「優遇措置A」です。
優遇措置Aの内容は、「対象企業への投資額ー2,000円を、その年の総所得金額から控除できる」というものです。
なおこの際、控除対象となる投資額の上限は、総所得金額の40%か1,000万円のどちらか低い方となります。
優遇措置Aは、創業(設立)3年未満の中小企業の他、下記の要件を満たす企業への投資も対象となっています。
参考:経済産業省「エンジェル税制のご案内」
簡単にいうと、投資額のほとんどから税控除の対象になるのが「優遇措置A」で、これはなかなかない破格の優遇措置だといえます。
創業(設立)10年未満の中小企業等に対して投資を行った際に受けられるのが「優遇措置B」です。
優遇措置Bは、「対象企業への投資額全額を、その年の他の株式譲渡益から控除できる」という内容となっています。優遇措置Aとは異なり控除対象となる投資額に上限はありません。
優遇措置Bは、創業(設立)10年未満の中小企業の他、下記の要件を満たす企業への投資も対象としています。
参考:経済産業省「エンジェル税制のご案内」
エンジェル税制の特徴は、ベンチャー企業への投資時だけではなく、株式売却時にも優遇措置を受けられる点です。
具体的にいうと、ベンチャー企業の株式を売却する際に損失が生じた場合、その損失をその年の他の株式譲渡益と相殺でき、かつその年に相殺しきれなかった分の損失については翌年以降3年にわたって株式譲渡益と相殺ができる、という優遇措置が受けられます。
それでは、具体的な例をひとつ挙げて優遇措置のシミュレーションをしてみましょう。以下のような条件でベンチャー企業の株式を取得したと想定します。
まず、ベンチャー企業への投資時点で、優遇措置AかBを選ぶことになります。
優遇措置Aの場合は、「総所得金額700万円×40%ー2,000円=279万8,000円」を総所得金額から控除します。
優遇措置Bの場合は、ベンチャー企業への投資金額400万円が他の株式の譲渡益200万円を超えているので、そのまま200万円全額を株式譲渡益から控除する、ということになります。
次に、ベンチャー企業の株式を100万円で売却し損失が発生した場合の優遇措置です。
優遇措置Aを利用していた場合は、総所得金額から控除した279万8,000円を取得価額から引き下げた120万2,000円が取得原価となります。
よって、100万円で売却したとなると20万2,000円の損失が発生したことになります。この損失をその年と翌年以降3年間、株式の譲渡益から繰り越しで控除することが可能となります。
優遇措置Bの場合は、株式譲渡益から控除した200万円を取得価額から引き下げた200万円が取得原価となります。
よって、100万円で売却したとなると100万円の損失が発生したことになります。この損失をその年と翌年以降3年間、株式の譲渡益から繰り越しで控除することが可能となります。
エンジェル税制を利用するためには直接投資する方法と、認定投資事業有限責任組合、あるいは証券会社経由に投資する方法があります。
直接投資を行う場合には、自分でエンジェル税制に該当するベンチャー企業を探す必要があります。
中小企業庁のウェブサイトにエンジェル税制の対象に該当するか否かの確認を行った企業が一覧として掲載されていますが、それも企業数も限られているため、直接投資は基本的には非現実的な方法です。
認定投資事業有限責任組合経由および証券会社経由による投資とは、基本的には株式投資型クラウドファンディングサービスを通した投資のことを指します。
一般的に、個人投資家がエンジェル税制の活用を検討する場合は、この株式投資型クラウドファンディングサービスを利用する手段の一択です。
株式投資型クラウドファンディングサービスには、投資を募集しているベンチャー企業の情報を掲載されているので、それを見ながら興味を持った会社に投資することができます。
責任組合および証券会社を経由して投資を行った後、責任組合および証券会社から「確認書」などの書類を受け取ることになります。これらは確定申告にて使用するので保管しておいてください。
エンジェル税制に該当する投資を行い優遇措置を受ける場合、直接投資の場合は投資先のベンチャー企業から、それ以外の方法による投資の場合は責任組合もしくは証券会社から送付される以下の書類を、確定申告の際に提出する必要が生じます。
場合により提出書類については、投資方法や受けたい優遇措置の種類などによって細かに必要書類が変わってきます。
中小企業庁のウェブサイトでパターン別に解説されているので、確定申告前にしっかり確認するようにしましょう。
エンジェル税制とは、ベンチャー企業に投資を行った際に受けられる税制上の優遇措置です。投資を行う時と売却する時との2つのタイミングで優遇措置を受けられる特徴があります。
特に投資を行う時の優遇措置には2つの種類があり、どちらを選べばよりメリットを享受できるかは投資金額や総所得金額などにより変わってくるので注意が必要です。
そもそも、エンジェル税制はベンチャー企業を支援するために生まれた制度ですから、税制上の優遇措置はもちろんのこと、成長する可能性が見込まれるベンチャーであったり、あるいはぜひ育ててあげたい起業家がいる場合には、積極的に活用を検討してみることをオススメします。
画像出典元:写真AC、PEXELS