起業家のみなさん、こんにちは。小原と申します。
私は現在23社にエンジェル投資をさせていただいているものです。
出資先が1社上場しており、来年再来年に3社上場予定・そして何人かの起業家は元気がありません。(頑張りましょう!)
このように私なりにエンジェル経験を積んだことで、エンジェルをうまく活用できている起業家とそうでない起業家が見えてきています。
そこで2020年が近づいている今日、"初めての起業にあたりエンジェルにどうアプローチし、どう活用するのが良いか"の考察をしてみたいと思います。
「もし私がいま起業していたらエンジェルをこう使う」ということでもあります。
このページの目次
まずスタートアップ市場の整理をしてみましょう。
2012年〜2018年スタートアップによる調達額・買収件数ともに拡大しております。(entrepedia・レコフ調べ)
2013年=調達額850億円(1社平均0.7億円)・買収件数10件
2016年=調達額2,300億円(1社平均1.3億円)・買収件数20件
2018年=調達額4,200億円(1社平均2.4億円)・買収件数50件
※いずれの数字も"約"
出典元:entrepedia
出典元:日本経済新聞
私の肌感覚ですが、2013年はVCのファンドサイズは10億円を超えれば大きかったでしょう。
ですから、1億円以上の調達をすると起業系メディアでかなり目立っておりました。はじめての調達=ほぼシリーズA、が多かったと思います。
そして、身の回りで売却をした起業家と言う存在はほぼいませんでした。
それが、2018年になるとVCのファンドサイズが数十億円規模は当たり前で、数百億円規模のものも珍しくありません。
その結果、スタートアップ1社あたりの調達額は驚くほど大きくなり、
シード、プレシリーズAなど調達ラウンドが細分化されています。
そして、売却をした起業家はみなさんの身近にいませんか?直接知らなくても、知り合いの起業家の知り合いは売却した起業家がゴロゴロいると思います。
最近のラウンドと出資する投資家をまとめてみます。
ところで、かくいう私はスタートアップでどう生きてきたか。
私は2013年にAppBroadCastという会社を創業し、スマホゲーム紹介メディアを提供した後、同年シリーズAを7,000万円で実施。
スマホゲーム紹介メディアとして国内最大規模になった後に、特定領域でトップシェアを確保し、2016年にKDDIグループに売却をしています。
先ほどの過去の調達・買収件数と照らし合わせてみると、いわば、ステレオタイプのキャリアをもつスタートアップ起業家といえるでしょう。
そして、私の後に売却した起業家が、いまの日本にはどんどん増えているのです。比例してエンジェル投資家が増えているということでもあります。
一方、VCはどうでしょうか。多くの優秀な人材が集まるようになっていると思います。
ファンドサイズが"膨張"したことで、年2%と言われる管理報酬額も巨額になり人件費を十分支払えること、そして独立系VCが増えたことで成功報酬(キャリー)20%を手にしやすい。
働く方にとって、基本給与も高く・夢も見れるということです。
それにより採用がしやくなったのは想像に難くありません。わかりやすい例では、戦略系コンサルからVCに入社する方も見るようになりました。
2012年くらいから2018年にかけてのスタートアップのエコシステムはこのように拡大していったと理解をしています。
日本の好景気によって大企業のお財布は潤い、一方でスマホを中心とした新たなIT社会にキャッチアップすることは得意ではなくイノベーションのジレンマを抱えています。
そこでVCのファンドに出資をしたりCVCをVCと共に作ったりすることで、情報収集をしたり、資本業務提携先を探し、特に成長市場においてニッチナンバーワン領域を持つスタートアップについては買収しグループに組み入れるというのはリーズナブルな方法です。
イグジット件数が増えることでファンドのリターンが生まれ、それによりVCの次ファンドにさらに大企業のお金が集まることで、投資環境が良くなり、スタートアップはJカーブを乗り越えやすくなる。そしてイグジットした起業家が増える。
その先輩起業家がエンジェル投資を行うことで、新たな起業家が生まれやすくなっている。
日本もシリコンバレーの後を追っていると言えるでしょう。
エンジェルもVCもCVC(事業会社)も、投資するという視点では同じく投資家なのですが、
私のエンジェル投資経験から、その役割は全く違うと感じています。
イグジットした手金をもとにその場で出資の意思決定ができます。
しかし、お財布は小さい。売却の中央値は4億円と言われているからです。
そこから起業家の持株比率と税金とを考えると、エンジェルが使えるお金は大したサイズではないことが想像つくと思います。
そのような事情から、出資先のバリュエーションは3億円未満のスタートアップへの出資が多いでしょう。
自分だけで出資の意思決定ができるため、起業家に共感すればまだ事業がなくてもその場で出資してくれるでしょう。
ところで、起業家から「エンジェルとアポイントがとりづらい」とよく聞きますが、それは構造的な問題です。キャピタルゲイン以外の投資収益が無いためです。
ご自身がエンジェルになったと考えてみてください。
よほど、自分が会うべき起業家でないと投資活動に時間を割くのは難しいと思いませんか?
特徴としては、多くのエンジェルは起業家出身です。
ですから、出資後には起業家の気持ちに寄り添って良いメンターになってくれるポテンシャルがあります。
なぜならば自分の起業時と起業家にシンクロするからです。
"起業直後は業界に認められていなかったけれども、一点突破でイグジットした経験がある"のがエンジェルなので、出資先の起業家に対して外部(起業家の家族・友人・前職・投資家含む)から否定的な声があっても振り回されないように起業家の心を守ります。
エンジェルは起業家に自信を与えるのです。
そして、次のVCラウンドに向けて、半年後にどのようなピッチを行うのか逆算して、事業のトラクションを作っていくことを起業家に提案していきます。
ほぼ1人会社(あるいは共同創業者との2名)の会社に対して、エンジェルはいわばバディになります。
ファンドサイズが大きくなったことで優秀な人材が集まっているのは良い点なのですが、
その反面、ビジネスモデルとしてはファンド期限である約10年で3倍以上のリターンを出さなければならないビジネスですから、基本的には出資先に出来るだけ大きくイグジットしてもらう必要が増す一方です。
「ユニコーンになる企業に出資しなければならない」と思うのは当然です。
必然的にIPOを前提にするスタートアップに出資が限定されます。
なぜなら、日本において売却の中央値が4億円と小さいからです。
VCの持株比率が10%だとして4,000万円(優先株の場合8,000万円)の収益しか生まれません。
50億円のファンドであれば10年後に150億円にする必要があると考えると、
IPOするスタートアップを相手にしないと商売が成り立ちません。
そして、大企業や機関投資家など他人からお金を集めているため、出資の意思決定はKPIなどロジック中心にならざるを得ません。
起業家がよく「キャピタリストから"数字を作ってから持ってきてください"と相手にもされなかった」ということを聞きますが、それは仕方のないことです。
しかし、出資されると起業家にとってこれ以上心強く、IPOに向けた様々な支援をしてくれる存在はいません。
これらのエンジェルとVCの違いを、私はこのように理解しています。
「地方の実家(エンジェル)で陰日向に見守られて成長し、大学生となり上京(VC)し人生経験を重ね目指すべきものが見えたときに、社会人(イグジット)として羽ばたき世に貢献する人材になる」
あくまでもイメージですが。
ここで少し具体的に考察してみます。
「2020年にどんなエンジェルに巡り会えたら良いか?」と問われたら、
"エンジェルがスタートアップビジネス思考法やスタートアップのインナーサークルへの先導役になって起業家をフックアップする。そしてプロのVCにバトンを渡す"
という役割を担えるエンジェルと一緒になれたら最良だと回答します。
実は多くのエンジェルはそこまで出資先に時間をかけられていません。
前述の時間をかけづらい理由もありますし、もうひとつは"金は出して口は出さないのが良いエンジェルの態度"と考えているところもあるためです。
後輩にバトンを渡すという美徳です。
しかし私は、結局のところ起業家から見たエンジェルの良さはお金以上に、スタートアップ経営経験・様々な人脈だと確信するに至りました。
そして、出資先と向き合っていかないと起業家のためにもならないと理解が進んでいます。放置すると立ち上がったばかりの起業家は無駄に詰まることがあり、美徳と放置は違います。
ですから著名なエンジェルだけではなく、起業家のあなたと相性が良く、ちゃんと時間をかけてくれるエンジェルが見つかると良いということです。
(著名なエンジェルにいてもらえることで、次の資金調達がしやすくなるのでエンジェル複数人に出資されるのがベストです)
そのためには最初アポイントをとるときに手当たり次第に連絡するのではなく、
ちゃんとエンジェルのプロフィールを調べて、必然性をもって一本釣りで連絡をしてあげてください。
それは起業家である前に、大人としての礼儀であり、ひいてはエンジェルからのアポイント確度と出資確度を引き上げます。
「急がば回れ」ということわざを思い出しましょう。
最後の項です。
「もしも私が起業家だったら、エンジェルをこう活用する」という話をします。
(ありがたいことに、今まで知恵をいただいたエンジェル仲間や起業家の話をミックスしたものです)
仮に創業直後の自分にスタートアップ人脈がなく、知り合いにエンジェルがいないとします。
その場合は、まず「自分の事業にとって必要なエンジェルが誰か」、スタートアップにいる他の人に相談してみます。
ここまでは必ずたどり着けるので努力しましょう。
そして、エンジェル候補を複数ピックアップします。
なぜならば1人だけでは相性が悪かった時にバディとして相談相手には出来ないからです。
そして、仮にエンジェル5人にアプローチするとして、 5人のメディア記事を探し、どのような人か、なぜアポイントをとるのか整理します。
そして5人の中で3番目くらいにアプローチしたい人から打診です。
その方のFacebookを見て、"共通の友人"を確認します。
もしいれば、その友人から紹介してもらいます。
もしも誰もいない場合は、StartupList・ANGEL PORT・Twitter・Facebookなど、全ての媒体から同じ方に連絡します。本気度を伝えるためです。
また、アポイントメッセージはコピペ的なものではなく、その方に完全にカスタマイズした文章にします。
運良く、その方にエンジェル出資してもらうことが決まったら、
その方から他の4人を紹介していただけないか相談します。
「自分が出資するから紹介する」というのが何より強力だからです。
また、5人から出資していただけるとなった場合、このエンジェルが出資している先の起業家にどんな支援をうけているか評判の確認を行います。(前述のマッチングサービスに登録しているエンジェルであれば出資一覧が確認できるはずです)
それを経て、2人〜3人から出資していただくとして、エンジェルラウンドの株式放出は10%以下に抑えます。
この3人のエンジェルとは個別にやり取りを行い、レスの速さや内容を見て、相性を見極めていきます。
もっとも相性がよいエンジェルが見つかれば、「オンラインで良いから毎週30分と毎月1回報告させて欲しい」とリクエストをします。
前述の通り、著名なエンジェルである必要はありません。 相性が良く、時間をとってくれるエンジェルを選びましょう。
それ以降は自ら能動的に報告を行うようにします。
実は、エンジェルに報告するのが目的ではありません。起業家である自分の頭の整理です。
そして毎月報告するという習慣をつけ、 近い将来実施しはじめる、月次社内全社会や、シリーズA以降にVCが社外役員になった時の取締役会の練習をしていきます。
このように起業家自身が誰にでもホウレンソウをする習慣をエンジェルとのコミュニケーションで磨いていければ、社員・取引先・VC株主に対しても適用ができ、 それにより的確な事業成長が望めるということです。
次に、毎週の打ち合わせでは「海老で鯛を釣る」作戦を展開します。
(エンジェルを使ってVCからまとまったシードマネー獲得を目指します)
相性が良いエンジェルに毎週報告を行う中で、 VCラウンドに向けたピッチ資料をどう作るのか・そのエンジェルがどのVCと協調投資を行なっているか確認をし、 それに合わせて事業成長の方針を作り、事業トラクションを戦略的に作ります。
投資家は特にトップシェアを持っていることに魅力を感じるので、 切り取れる領域を探し、シェアを積み上げていきます。
当然すぐにトップシェアを持てないため、シェア拡大の成長率が先行者よりも高い状況や、客観的に競争優位なプチ爆発が作れたら、いよいよエンジェルからVCを紹介してもらって調達をします。
運良くVCから出資を受けることができれば、そこから先はエンジェルよりもVCが起業家を鍛えていきます。
前述のとおりキャピタリストはIPOに向けたスペシャリストです。起業家と会社を冷静に、専門家チームを従えて支援してくれます。
その段階になるとエンジェルは、牽引役というよりも実家の父母役として、起業家の心に寄り添っていきます。
ユニットエコノミクスが回り、事業拡大させ、目安として毎年2倍ずつ企業価値を成長させて調達シリーズを進めます。
市場の脅威に晒されることがなければ、結果としてイグジットは「早く小さいか(バイアウト)」、「辛抱しながら大きいか(IPO)」の違いになるでしょう。
スタートアップがイグジットすることで全ての投資家の支援が現実利益に結実します。
私はスタートアップとは一石二鳥・三鳥で、3年くらいで売却かIPOか決断できるように経営していくべきものだと捉えておりますので、
私が2020年に創業するのであれば以上のようにエンジェルをフル活用していくでしょう。
さて、本稿『エンジェルの活用法2020』は以上です。
起業家のみなさまのお役に立てますと幸いです。
こちらの件で質問などありましたら、
スタートアップ起業家Q&Aコミュニティ「StartQounter」にて承ります。
寄稿者プロフィール
小原聖誉