記事更新日: 2025/05/15
昨今、人材の確保や定着が難しくなる中で、人事業務はますます複雑化しています。
採用活動や人事評価、労務管理など、人を相手にする業務は属人化しやすく、担当者のスキルや経験に依存してしまうケースも少なくありません。
さらに、慢性的な人材不足によって、業務負荷の偏りや対応の遅れといった課題も顕在化しています。
本記事では、こうした人事業務が抱える主な課題を整理し、効率化を実現するための具体的な手順やポイントについて解説します。
このページの目次
人事業務とは、企業が成長するために必要な経営資源のひとつである「ヒト」にまつわる管理や運用を担当する仕事です。
多くの企業では、採用・育成といった「人事管理」と、給与計算や勤怠管理といった「労務管理」の2種類に分けて、それぞれを別の担当者が行います。
主な業務は下記の通りです。
【人事管理】
| 採用活動 | 企業の成長に必要な人材を見極め、最適なタイミングで採用する |
| 人材育成 | 社員のスキルや能力を高めるための教育や研修を実施する |
| 人事評価 | 適切な報酬や昇進に繋がる評価制度を運用する |
| 人員配置 | 社員を適切に配置し、組織の生産性を高める |
| モチベーション管理 | 社員のやる気を引き出し、維持するための取り組みを実行する |
【労務管理】
| 給与管理 | 勤怠データをもとに給与計算や支払い処理を正確に行う |
| 勤務管理 | 出退勤、残業、休暇などの勤務状況を把握・記録する |
| 社会保険対応 | 健康保険、年金、雇用保険などの手続きと管理を行う |
| 労働環境整備 | 法令を遵守し、ワークライフバランスの確保やメンタルヘルス管理を行う |
人事業務は、企業の人材計画に基づいて具体的な施策を考案し、実行していく必要があります。
人事部門の業務範囲は幅広く、日々さまざまな課題に直面しています。
ここでは、特に多くの企業で共通して見られる3つの課題について解説します。
人事業務は、応募者や社員といった人を相手にする仕事であるため、属人化しやすく、自動化が難しい業務が多く存在します。
採用活動を通して自社にあった人材の選定をしたり、社員の個性を見極めて適切な教育を計画したりするためには、担当者の判断や経験に基づく対応が求められます。
さらに、履歴書や職務経歴書のデータ入力、面接日程の調整といった個別対応が必要な作業も多く、業務の効率化を阻む要因となっています。
人事業務は手作業が多いため、データ入力や管理の過程でヒューマンエラーが発生しやすく、注意が必要です。
例えば、PDFで送られてきた履歴書や職務経歴書を目視で確認しながらシステムに入力する際、入力ミスがあると面接での評価に影響を及ぼす可能性があります。
さらに、採用業務だけを見ても、求人票の作成や掲載、応募者情報の管理、面接調整、書類確認、評価内容の整理など多くの管理コストが発生するのです。
近年、日本では少子高齢化の影響により労働人口が減少しており、多くの企業で人材不足が課題となっています。
人事部門も例外ではなく、採用・育成・労務といった幅広い業務を限られた人数で担わざるを得ない状況が続いています。
さらに、人を相手にする業務が多く自動化が難しいため、手作業の負担が大きくなり、経験やスキルのある一部の担当者に業務が集中しやすいという点も大きな課題です。
企業にとって必要な人材を確保し、長期的に活躍してもらうためには、人事業務の効率化が欠かせません。
続いては、人事業務を効率化するための流れを5つのステップで紹介します。
人事業務の効率化を成功させるためには、現状の課題を明確にすることが重要です。
まず、「誰が、どの業務を、どのように、どれくらいの時間をかけて行っているか」という点を可視化しましょう。
業務を細かく分析することで、工数がかかりすぎている部分や重複している作業など、非効率な部分を洗い出すことができます。
人事業務の課題を細かく洗い出せたら、次は改善する業務を絞り込みましょう。
限られたリソースを有効活用するには、全ての課題を一度に解決しようとせず、業務の重要度や負荷の大きさに応じて優先順位をつけ、段階的に取り組むことが大切です。
改善すべき業務が決まったら、実際にどのような手法で効率化するかを決めます。
課題に応じて、以下のような方法が考えられます。
手法によっては、導入費用や期間が必要となるため、費用対効果や運用のしやすさも含めて検討しましょう。
自社の経営戦略や予算などをもとに最適な手段を選定し、具体的な施策の実行に移します。
手法によっては長期的な運用が必要になるため、導入前にメリット・デメリットを比較し、現場の体制やスケジュールも含めた計画を立てることが重要です。
人事業務の効率化施策を実行した後は、定期的に成果を測定し、その結果をもとに改善を重ねていきましょう。
実行して終わりではなく、PDCAサイクルを回しながら、必要に応じて軌道修正を行うことで、継続的な効果とさらなる業務改善に繋がります。
人事業務の効率化を実現するには、業務の特性に合ったツールを活用することが有効です。
ここでは、現場で広く使われている代表的なツールとして、Excelと人事管理システムの2つを紹介します。
Excelは、すぐに導入できる低コストなツールとして、特に社員数が少ない企業に適しています。
マクロや関数といった自動処理機能を活用すれば、単純作業の自動化や、グラフや表といった視覚的なレポート作成もできます。
ただし、マクロの構築には一定のスキルが必要であるため、担当者の離職や異動があった際に、メンテナンスに支障をきたす恐れがあります。
また、複数人で同時に編集する場合は、競合の発生による上書きミスやデータ破損、バージョン管理が煩雑になるなどのリスクにも注意が必要です。
人事管理システムは、企業規模を問わず、幅広い人事業務を効率化できるツールとして活用されています。
社員の氏名や年齢、入社年度といった基本情報だけでなく、システムによっては採用管理、人事評価、勤怠管理など幅広い情報の一元管理が可能です。
一方で、初期費用や月額費用といったコストがかかるため、導入にあたっては費用対効果を検討する必要があります。
人事業務を効率化するにはさまざまな方法がありますが、ここでは人事管理システムを導入して効率化に成功した企業の事例を紹介します。
資産運用サービスを提供する三井住友DSアセットマネジメント株式会社は、人事管理システムの導入により、評価業務にかかる工数の削減に成功しています。
同社では、基本情報や勤怠管理データ、評価情報などが別々に管理されていたため、情報の確認や分析に時間がかかるという課題がありました。
人事管理システムを導入したことで、各種情報の一元管理を実現し、必要な情報をリアルタイムで確認できるようになったのです。
また、従来は外部に委託していた目標管理シートのフォーマット変更も、システム上で簡単に対応できるようになり、コストの削減に繋がっています。
包装資材や物流機器販売事業を展開している株式会社トヨコンは、人事管理システムの導入により、人事業務の効率化と納得度の高い人事制度の構築に成功しています。
同社では、人事評価をExcelで管理しており、評価表のバージョン管理や最新データの把握、資料共有の煩雑さといった課題を抱えていました。
また、制度自体にも「評価基準が曖昧」「項目が多く煩雑」などといった根本的な問題があり、外部コンサルの協力を得ながら1年かけて制度を再設計しました。
新しい制度を運用する仕組みとして人事管理システムを導入したことで、社員番号・部署異動歴・等級や評価などの情報を一元管理できるようになりました。
また、管理職の手入力作業や、紙での評価記入→転記といったアナログな工程も削減され、現場からは「システムを導入してよかった」との声が上がっています。
参考：脱エクセルで、人事業務効率化と従業員の納得度向上を両立
セレクトショップ事業を展開している株式会社ハピネス・アンド・ディは、人事管理システムを1つに絞って導入したことで、業務の効率化と年間160万円のコスト削減に成功しています。
同社では、紙ベースでの手続きや複数システムの併用によって、業務が煩雑化し、申請ミスや手作業の負荷が課題になっていました。
人事業務を1つの人事管理システムで運用する方法に変えたことで、ペーパーレス化や年末調整などの業務効率化に加え、年間160万円の経費削減に繋がっています。
従来は共有パソコンで行っていた申請作業も、社員が個人のスマートフォンから利用できるようになり、利便性が向上しています。
参考：人事システムをSmartHRに1本化。蓄積したデータを活かし、従業員の自走を促す環境へ
人事業務を効率化すると、業務の属人化を防ぐことができ、ヒューマンエラーの防止にも繋がります。
人事管理や労務管理といった幅広い業務は、Excelや人事管理システムといったツールを活用して自動化させることが重要です。
自社にとって最適な方法を選定し、人事業務の効率化に取り組んでください。
画像出典元：O-DAN
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