インターネットバンクや電子決済の普及に伴い、商取引の環境も少しずつオンライン化されつつあります。
けれど、まだまだ手形や小切手を使って決済をしている中小企業も多いため、手形や小切手の知識がいつ必要になるかはわかりません。
どちらも金銭と同等価値があるものとはいえ、使い方がわからなければ、その扱いを誤ってしまうこともあります。
手形や小切手を使うケースは、比較的大口取引が多いこともあり、扱いをミスすれば、大事な取引に傷がついてしまうことも。
そこで、今回は手形と小切手の違いについて、特徴や仕組み、振出し方、換金方法に分けて解説していきます。
知らないからでは済まされない手形や小切手の扱い方を、この機会に覚えておきましょう。
このページの目次
手形も小切手も、どちらも有価証券。お金の代理として使われるものです。
手形には、「約束手形」「為替(かわせ)手形」の2種類があります。為替手形は、さらに取引方法によって「他人宛為替手形」「自己受為替手形」「自己宛為替手形」と形態が変わります。
本記事では、約束手形に焦点を当てて解説しています。
画像引用:全国銀行協会『お金に代わる働きをする手形・小切手』
そもそも手形とは、現時点では現物としてのお金がなくても、支払いを可能にするシステムであり、期日として決めた日に支払うことを約束する証書として使われるものです。
そのため、手形を振り出す(発行する)と、手形法によって定められた権利と義務が発生します。
画像引用:全国銀行協会『お金に代わる働きをする手形・小切手』
小切手は、小切手帳(正式名称:統一小切手用紙)を銀行から購入して発券(振出し)できる有価証券です。
現金を持ち歩く代わりに、小切手を振り出すことで、振出した相手に代わりに代金が支払えるシステムです。
小切手を振出すと、振出した人に小切手法に基づいた権利と義務が発生します。
手形と小切手は、用語や振出方などの点において共通するところはありますが、大きな違いは現金化のタイミングです。
小切手は、受け取ったらすぐに銀行で現金化の手続きができるのに対して、手形の場合は支払期日を迎えないと現金化できないところです。
そのほか、約束手形と小切手では、それぞれの用紙に記載される内容にも違いがあります。
約束手形の必須記載事項 | 小切手の必須記載事項 |
約束手形であることを示す文字 | 小切手であることを示す文字 |
金額 | 金額 |
支払約束文句 | 支払委託文句 |
支払期日 | 支払人(金融機関の名称) |
支払地 | 振出日 |
受取人または指図人 | 振出地 |
振出日 | 振出人の署名 |
振出地 | |
振出人の署名 |
手形と小切手の仕組みは、似ている部分もありますが、異なる点もあります。
手形と小切手の仕組みは、一見同じように見えますが、細かいところで異なる部分が見えてきます。
約束手形の基本的な流れ | 小切手の基本的な流れ |
大工が銀行に当座預金口座を開設し、約束手形の交付を受ける。 | 家を建てたい客が銀行に当座預金を開設し、小切手帳の交付を受ける。 |
大工は、材木屋から木材を仕入れ、その代金を現金の代わりに約束手形で支払う。 | 家の建築代金の支払いに必要な資金を当座預金口座へ預け入れる。 |
支払期日がきたら、材木屋が大工の取引銀行に手形を持って行く。 | 客が建築代金の現金の代わりに、大工に小切手を渡す。 |
銀行は、約束手形と引き換えに、大工の口座から材木屋に材料(木材)代を支払う。 | 大工が家を建て始める。 |
- | 大工が客の取引銀行に小切手を持って行く。 |
- | 銀行は小切手と引き換えに、客の口座から大工に建築代金を支払う。 |
手形では、大工が材木屋に手形を渡して、材木屋が銀行から代金を受け取ります。一方の小切手では、顧客が大工に小切手を渡して、大工が銀行から代金を受け取ります。
お金の動きで見ると、大工は材料を仕入れる際に現金を持っておらず、顧客は家を建てるときには現金を持っています。
つまり、小切手では取引時に支払いに必要となる資金を銀行に事前に預けておくのに対して、約束手形は取引時に支払いに必要な資金がなくても取引ができるところが違うのです。
取引上は手形や小切手を振り出した時点で、決済は終わっていないが支払いは済んだことになっています。
手形や小切手を使うと、現金決済のときとは決済のタイミングが違うので、クレジットカードを使用した決済と同じと考えておくとわかりやすいでしょう。
手形も小切手も、当座預金口座が必要です。振出す際の違いは、手形は口座に資金が入ってなくても振出せますが、小切手は口座に資金がなければ振出すことができないところです。
手形では支払期日までに口座に資金を預け入れ、小切手の場合は振出す前に口座に資金を入れておく必要があります。
もしも、このタイミングを過ぎてしまうと、資金がないために決済ができず、不渡りが起きてしまいます。
約束手形の書き方については、次の記事を参考にしてください。
小切手の書き方については、次の記事を参考にしてください。
手形と小切手では、現金化するタイミングも異なります。手形では、支払期日を含む3日間のうちに支払場所として指定されている銀行に支払いを求めます。
この期間を過ぎてしまうと、手形の法的効力が失効してしまい、振出人に直接請求することになるので注意しましょう。
小切手の場合は、小切手を受け取ったらすぐに現金化することが可能ですが、振出日を含む11日間のうちに支払場所として指定されている銀行に支払いを求めることになります。
この期間を過ぎれば、小切手の法的効力が失効しますので、手形と同様に振出人に直接請求せねばなりません。
手形と小切手の取り扱いには、大きな違いが一つあります。
約束手形は、小切手のようにすぐに現金化できるわけでもなければ、すぐに決済できるものではありません。
小切手に比べて不渡りのリスクが高いため、振出人・受取人の間に信用がなければ成り立たない取引です。そのため、「信用証券」とも呼ばれています。
手形と小切手は、似ているようで非なるものです。どちらも銀行に当座預金口座を必要としますが、一番の違いは現金化できるタイミングです。
手形は銀行で支払を受けられる期間が3日間であるのに対して、小切手は11日間です。
また、手帳についても、それぞれで必須となる記載事項に違いがみられます。記載事項に不備があったり、呈示期間を過ぎれば振出した手形や小切手は無効になってしまいます。
違いを認識し、正しく取り扱うようにしましょう。
画像出典元:Unsplash