製造業にとって質の高い作業により自社製品の品質を保持し取引先企業やお客様に満足し続けていただくというのは重要な課題です。
その品質管理のために欠かせないのが「QC工程表」です。この記事ではQC工程表とは何か、それを作成する目的やメリット、品質管理などの分野におけるQC工程表の実際的な活用方法を紹介します。
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QC工程表は英語では「Quality Control Chart」といい、訳すと「品質管理チャート図」という意味です。
(社)日本品質管理学会 品質関連用語一覧の中では以下のように説明されています。
”1 つの製品について部品材料の供給から完成品として出荷されるまでの工程を図示し,この工程の流れにそって誰が,いつ,どごで,何を,どのように管理したらよいかを定めたもの,つまり各工程での管理項目と管理方法を明らかにしたものである”
ものづくりの企業では、いくつもの製品を製造しています。
QC工程表は、その中のひとつの製品に関する設計書です。その製品の部品材料の受け入れから、製造の各工程での作業や検査、出荷までのすべてのプロセスを網羅しています。
ものづくりを行なう企業がQC工程表を作成するとどのようなメリットもしくは効果が得られるのか次に紹介します。
QC工程表では、ひとつの製品を製造するためのすべての工程が網羅されています。
いくつもある工程のそれぞれに対し、作業内容・動作・手順などを定めてマニュアル化したものが作業標準書です。
作業標準書の目的は誰が作業を行なっても同じ結果が出るようにすることであり、それにより製品の品質や安全が保証されます。
QC工程表があれば、その中のひとつの工程をピックアップして作業標準書をすぐに作成できます。
QC工程表は材料の受け入れから、製造のすべての工程、出荷までのすべてを網羅しているので、新人作業員は自分はどんな製品のどの部分を作る作業をしているのかすぐに理解できます。
作業員は自分の作業が、次の作業にどのようにつながるのか、最終的にどんな製品になるのか把握することにより、自分の作業に意味を持てるようになり、製品の品質維持にもつながります。
QC工程表には、各工程での作業方法・検査方法・検査基準・使用する設備や工具などが記載されています。
もし不良部品や不良品が発生すれば、どの工程で、なぜ不良品が出たのかその原因をすぐに調べることができます。
作業現場の監督は製品が工程通りに製作されることにより品質が維持できるよう見守ることです。
さらに従業員がマニュアルが守ることで安全に作業できるようにも監督しています。
各工程の作業内容と必要な設備や工具などが記載されているQC工程表があれば、監督者は全体・個々の従業員両方の監督がしやすくなります。
QC工程表を作成しそれを現場で活用していくと、製造過程における無駄を発見することができます。
例えば、不具合が起こりやすい作業、定められた工程作業時間(タクトタイム)に間に合うのを難しくさせる工程などが見つかります。
これによりQC工程表の記載事項が変更されますが、この作業は「変更管理」と呼ばれます。変更管理によりQC工程表が改訂されたなら、それに対応する作業標準書も同時に変更します。
工程の見直しや、材料の変化、設計の調整などで変更管理が行なわれますが、QC工程表を作成しておけば、工程の変更がいつ・なぜ行なわれたのか記録として残せます。
仕入先の企業や顧客は高い品質が保証された製品の納入や購入を期待しています。
自社の品質管理体制を取引先や顧客に説明する際に、QC工程表の必要な部分を資料として提示できます。
さらに、企業がISO(国際標準化機構)によって制定された品質保証のための国際規格である「ISO9000シリーズ」を取得しようとする場合、品質計画書を提出する必要があります。QC工程表もその品質計画書のひとつに該当します。
QC管理表のサンプルの表ですが、この中の「管理項目」と「管理方法」の意味を理解することで、QC工程表と品質管理のつながりが理解できます。
管理項目の下には「管理特性」と「管理基準」の2項目があります。まずはそれぞれの意味を説明します。
管理特性とは品質を左右する要因となる加工条件のことです。
例えば、部品加工のための切削条件・回転速度・加熱時間・加圧荷重・電流などです。
サンプルでは、ハンダゴテのコテ先の温度、バルトを占めるトルクがそれに該当します。
管理基準とは該当する管理特性の基準となるものです。
例えば、加熱時間であれば”〇〇±〇秒””など一定の範囲を設定した数値で表します。
サンプルでは、ハンダゴテの温度”〇〇±〇度”、ボルトを締めるトルク”〇〇±〇kgf”で表示されています。
管理方法の項目の下には、「測定方法」「測定頻度」「測定者」「責任者」の項目があります。
サンプルの例を考えれば、ハンダ付けの工程ではハンダを使います。不良品を出さないためには、そのハンダの先の温度を一定の頻度で検査しなければなりません。
「測定方法」は専用温度計による検査、「測定頻度は」1日3回、「測定者」は各作業員で「責任者」である作業長が決められた時間にそれが行われているかどうか確認するということになります。
管理特性で加工の条件もしくは方法、管理基準でどれくらいの数値の範囲内でその加工を行うのか、管理方法で測定器・測定の頻度が標準化されています。
これにより、誰が作業したとしても基準が統一されているので、品質のばらつきが抑えられ、高い品質が維持できるというわけです。
QC工程表では作業工程の管理特性の項目で、だれが・何を・どんな道具を使って・どのように行なうかが標準化されるます。それにより加工工程の中で品質管理が行えます。
さらに製品の品質管理には、出来上がった部品や製品の結果から品質を判断する「品質特性」という方法もあります。
出来上がった部品や製品が規定範囲内の寸法・重量・硬度・粘度などを満たしているか、外観にキズや汚れがないかどうかで品質を判断するという方法です。
QC工程表を作成すれば、加工の各段階と最終的な出来上がりという数段構えの構造で品質維持に取組めます。こうした理由でQC工程表は品質管理に必要なツールであるといえます。
QC工程表がいかに品質管理に役立つツールとなるか説明しましたが、実際にQC工程表を作成する手順を次に説明します。
手順は以下の通りです。
1. QC工程表の書式を決める
2. QC工程表を作成したい製品情報の収集
3. その製品の製造工程の情報収集と記入
4. それぞれの工程の管理項目の記入
5. それぞれの工程の管理方法の記入
6. 最終チェックと関係部署による承認
自社の製品や製造方法に適したQC工程表はExcelなどで作成できます。
製品設計書・製品規格書・仕様書・部品表などを参考にQC工程表を作成したい製品の情報を入手します。
工程設計書などから該当する製品の製造工程の情報を入手できます。
工程の流れを把握できたなら、QC工程表の「工程記号」「工程名」の欄に順番に工程を記入できます。
「工程記号」は「日本工業規格 工程図記号」を参考にできます。
工程記号図の基本図記号の参考例です。
工程記号 | 工程名称 | 内容 |
⚪ | 加工 | 原料・材料・部品または製品の形状もしくは性質に変化を与える過程 |
⬜ | 数量検査 |
原料・材料・部品または製品の量もしくは個数をはかる過程 |
◇ | 品質検査 |
原料・材料・部品または製品の品質特性を試験する過程 |
▽ | 貯蔵 | 原料・材料・部品または製品を計画により蓄えている過程 |
〇 | 運搬 |
原料・材料・部品または製品の位置に変化を与える過程 |
それぞれの工程の管理項目を記入します。加工の各段階で品質管理を行なうための重要な項目です。管理特性・管理基準の記入漏れに注意します。
管理方法の測定方法や測定の頻度、作業者などをきちんと記入します。
管理基準から外れた部品や製品が見つかった場合の「異常処置」の方法も該当欄に記入します。
製造部門の長などが完成したQC工程表が現場で実施できるかどうかチェックします。
採用可能であれば品質管理部や品質保証部等の関係部署の承認をもらいます。
正式に採用が決まったQC工程表は関係部署すべてで共有され、製造現場で運用されるようになります。
ものづくり企業がQC工程表を活用すれば品質管理を効果的に行なえます。
品質管理ツールを導入すればQC工程表をタブレットに表示させることができ、ペーパーレス化・品質管理工程の可視化も可能です。
複数の製品を製造している中小企業などでは、品質管理に加えて、製造にかかる人員・設備・工数を見直し一元管理できれば便利です。クラウド型の生産管理ツールを導入すれば、導入・運用コストを抑えてものづくりの現場環境を改善することができます。
QC工程表とは品質管理チャート図のことです。ひとつの製品に関し、部品の受取・製造の各工程・検査方法・納品までのすべての工程が網羅されたいわばその製品の設計図のようなものでした。
これを作成すれば、加工段階から品質管理を行なうことができます。最終的な製品の出来から品質を判断する品質特性と合わせて、より確実に製品の高い品質を保証できます。
またQC工程表は、不良品が出た原因の追究、作業工程の改善、監督者の作業内容や作業者の管理にも利用できます。
QC工程表はExcelで簡単に作成できるので、もしまだ作成していなければこの機会に作成されるのはいかがでしょうか。
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