指名委員会等設置会社は、通常の監査役の代わりにコーポレートガバナンス(株主のために企業経営を監視する仕組み)強化のために、経営の監督と実際の業務執行を分離させている組織形態のことをいいます。
この記事では、指名委員会等設置会社とは何か、メリット・デメリットを含めて徹底解説していきます!
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指名委員会等設置会社とは、欧米では比較的なじみのある組織形態の1つで、コーポレートガバナンス強化のために、経営の監督と実際の業務執行を分離させている組織のことをいいます。
具体的にいうと、企業の経営を監督する取締役会の中に、社外取締役が過半数を占める3つの委員会「指名委員会」「報酬委員会」「監査委員会」を設置し経営の監督を行い、実際の業務に関しては執行役が行う形を取っています。
指名委員会等設置会社は、「株主総会」「取締役会」「3つの委員会」「執行役」の組織から構成されています。
3つの委員会は、3人以上の取締役の設置、及び過半数は社外取締役である必要があります。
また指名委員会等設置会社では、法律で監査役(監査役会)の設置ができない一方、常に会計監査人の設置が義務付けられています。
日本で指名委員会等設置会社が設置された背景として、最も大きな理由は企業のグローバル化に対応するためです。
元々、欧米では指名委員会等設置会社の形態が広く採用されており、監視役と業務執行を明確に分離し、業務執行者に対するコーポレートガバナンス強化に有効とされてきました。
かつての日本企業の取締役は、社内から昇進した人が多く、代表取締役と取締役が上司・部下の関係にあり、適切な監視が難しくコーポレートガバナンスの機能が十分ではありませんでした。
日本でも、平成15年の商法から会社法への変更の際に導入され、日本企業のグローバル化と共に、国際競争力を強化する意味でも、指名委員会等設置会社の形態をとることで、海外からの信頼を確保したいという思惑があります。
指名委員会等設置会社には「指名委員会」「報酬委員会」「監査委員会」の3つの委員会を設置する必要があり、各委員会の役割は違います。
指名委員会は取締役や会計参与の選任・解任を決定します。
指名委員は取締役会で選任され、3人以上の取締役、過半数は社外取締役である必要があります。
報酬委員会は取締役・執行役・会計参与の報酬を決定します。
報酬委員は指名委員と同様に、取締役会で選任され、3人以上の取締役、過半数は社外取締役である必要があります。
監査委員会は取締役・執行役・会計参与の職務執行の監査と会計監査人の選任・解任を決定します。
監査委員も各委員と同様に、取締役会で選任され、3人以上の取締役、過半数は社外取締役である必要があります。
監査委員は執行役、子会社の執行役、業務執行取締役などを兼任できないので注意しましょう。
指名委員会等設置会社に監査役は設置できません。
通常の会社であれば監査は監査役が実施しますが、指名委員会等設置会社では監査は監査役ではなく監査委員会が実施します。
そのため、監査役の設置ではなく、会計監査人の設置が必要になります。
会計監査人は会社の決算が正しく行われているか監査する人のことです。「監査役と同じでは?」と思うかもしれませんが、会計に関しての専門家です。
監査役は基本的には誰でもなれますが、会計監査人は「公認会計士」または「監査法人」以外、なることができません。
指名委員会等設置会社においては取締役ではなく、執行役が業務を執行します。
日常業務を執行するのは取締役ではなく執行役になります。
取締役会は業務を執行しないため、経営の基本的な方針を決定し監督することに専念できます。
取締役会と執行役が分離されているため取締役会の監督機能の強化がされます。
指名委員会等設置会社には「執行役」「代表執行役」があり代表取締役は存在しません。
指名委員会等設置会社の最大のメリットは、欧米などの海外の投資家の信頼を得やすいことです。
欧米では指名委員会等設置会社が一般的で、指名委員会等設置会社は監査役設置会社などに比べて経営の透明性が高く、欧米のガバナンスに近いため、海外の投資家に良い印象があります。
通常の監査役と異なり、過半数が社外取締役でしめる3つの委員会が監督・監視しているため、より適切な会社運営を行うことができるようになります。
指名委員会等設置会社で設置する指名委員会・報酬委員会・監査委員会は取締役会で選任されます。
3つの委員会はそれぞれ3人以上の取締役で構成され、半数以上は社外取締役である必要があります。
単純に考えると3つの委員会で合計9人以上の取締役(取締役3人・社外取締役6人)が必要です。
各委員は兼任することができ、兼任した場合は取締役1人と社外取締役2人の取締役の合計3人でいいことになります。
しかし現実に委員を兼任することは難しいので、多くの取締役の確保が必要になってきます。
社外取締役が増えれば、取締役会の議論が活性化するメリットがあります。
社外取締役には経営や会社の事業に精通した人が好まれますが、適任者を確保することは困難になります。
通常の株式会社に比べて指名委員会等設置会社は役員が多くなります。役員が増えれば当然報酬が増えます。
監査役設置会、監査等委員会設置会社に比べて負担が大きくなります。
通常の株式会社であれば、取締役の指名や報酬は株主総会や取締役会で決定されることが多いです。
しかし指名委員会等設置会社では取締役の指名は指名委員会、報酬は報酬委員会が決定します。
指名委員会や報酬委員会は過半数が社外取締役になるので、取締役の指名・報酬は社外取締役に委ねることに抵抗を感じる人も少なくないのではないでしょうか。
上場企業の間で指名委員会等設置会社の組織形態は少ないです。
上記の図は日本取締役協会が公表している組織形態の比率ですが、指名委員会等設置会社は東証1部の企業の中では約3%です。
指名委員会等設置会社が少ない理由は大まかに2つの理由があります。
まず1つ目は、3つの委員会を設置し、さらにはその構成メンバーである取締役の過半数は社外取締役を確保しなければならない上、取締役が増えた分、役員報酬が増加するなどの負荷が多いからです。
特に役員報酬が増えるということは、大企業や経営が堅調な企業でなければ導入に踏み切ることが難しいと感じることでしょう。
平成26年に会社法が改正され新たに監査等委員会設置会社制度が導入されました。
これには、社外取締役の確保や役員報酬の増加をしなければならない欧米型の指名委員会等設置会社に対し、日本の経済界からより日本に合った柔軟な機関設計を求められたという背景があります。
監査等委員会設置会社に必要な組織は、「株主総会」「取締役会」「監査等委員会」「会計監査人」で、指名委員会・報酬委員会はありません。
指名委員会等設置会社と同様に、過半数の社外取締役を含む取締役3名以上で構成される監査等委員会が、取締役の実務執行の組織的監査を行いますが、執行役が存在せず、実務執行と監督機能が分離していません。
指名委員会等設置会社より、コーポレートガバナンスという点では劣りますが、委員会の設置数も少なく負荷が少ないため、上場会社の間で急速に広がっています。
2021年8月に日本取締役会が行った調査によれば、現在日本企業の中で指名委員会等設置会社は、合計82社、その内訳は、
という割合で、圧倒的に東証一部上場企業が多く割合をしめています。
以下に、指名委員会等設置会社の一覧の中で、直近で指名委員会等設置会社に移行した企業を抜粋して記載します。
社名 | 移行年 | 上場場部 |
日本ペイントホールディングス株式会社 | 2020 | 東証一部 |
(株)三越伊勢丹ホールディングス | 2020 | 東証一部 |
関西電力(株) | 2020 | 東証一部 |
(株)ジャパンディスプレイ | 2020 | 東証一部 |
(株)スマートバリュー | 2020 | 東証一部 |
味の素(株) | 2021 | 東証一部 |
本田技研工業(株) | 2021 | 東証一部 |
東京ガス(株) | 2021 | 東証一部 |
(株)グルメ杵屋 | 2021 | 東証一部 |
2020年からの2年間だけでも、指名委員会等設置会社に移行したのは全て東証一部上場企業です。
指名委員会等設置会社は投資家からすると経営の透明性が高い会社になります。
海外投資家の信頼を得やすいメリットがありますが、社外取締役の確保など導入のハードルが高いです。
上場を目指していない会社や、法的に業務執行が移行することに抵抗がある経営者にはオススメしません。
指名委員会等設置会社は他社事例が少ないため移行する時は、会社規模、人材、組織体制を十分検討して適切な機関設計をしましょう。
画像出典元:写真AC、O-DAN