投資事業有限責任組合とは|組成のポイントやメリット・デメリットも

投資事業有限責任組合とは|組成のポイントやメリット・デメリットも

記事更新日: 2021/04/15

執筆: 編集部

ファンド組成時にはさまざまなスキームを選択できますが、そのうち最も有益な形態の一つといわれるのが「投資事業有限責任組合」です。

投資事業有限責任組合とは、どのようなものなのでしょうか。

投資事業有限責任組合のメリットやデメリット、組成時に知っておきたいポイントなどを紹介します。

投資事業有限責任組合とは?

投資ファンド設立を検討する際、主な選択肢としては「信託型」「会社型」「組合型」があります。このうち、組織の運営や税法上でのメリットが多いといわれるのが組合型です。

一口に組合型といっても「民法上の組合」「有限責任組合」などさまざまな組合がありますが、「投資事業有限責任組合」とはどのようなものなのでしょうか。

1. 投資事業を行うための組合

投資事業有限責任組合(Investment Limited Partnership):LPS

投資事業有限責任組合は投資事業組合の一種です。組合員である投資家から資金を集め、出資先企業に対して「出資金」として資金を提供します。

経済産業省の「投資事業有限責任組合契約に関する法律【逐条解説】」では、投資事業有限責任組合を次のように定義しています。

この法律において「投資事業有限責任組合」とは、次条第一項の投資事業有限責任組合契約によって成立する無限責任組合員及び有限責任組合員からなる組合をいう。

ここでいう有限責任・無限責任というのは、「組織が何らかの債務を負った際、責任を取るべき範囲」を指します。

有限責任組合員であれば、債務に対する責任は限定的です。万が一組合が負債を出しても、出資額以上の負担を負わされることはありません。

一方、無限責任組合員は、組織の債務に対し際限なく責任を負わされます。自己資金の投入も必要となり、最悪自己破産するケースもあり得るでしょう。

民法上の組合は、通常「全ての組合員が無限責任組合員」です。しかし、投資事業有限責任組合では、出資者は「有限責任組合員」とされます。

組合員が多大な負債を負うリスクは少なく、投資家が出資しやすい形態といえるでしょう。

2. 投資事業有限責任組合法成立の背景

投資事業有限責任組合の基盤となるのは、「投資事業有限責任組合に関する法律(投資事業有限責任組合法)」です。

平成16年4月に制定されたこの法律が、投資事業有限責任組合のすべての要件を定めています。ファンド組成の基盤となる法律であることから、「ファンド法」ともよばれます。

しかし、投資事業有限責任組合法には、前身があります。それが、平成10年に制定された「中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律(中小有責法)」です。

前述した「組合員の有限責任」を認めたのもこの法律で、ベンチャーファンド組成の活性化を促すために制定されました。

2-1. 中小有責法から投資事業有限責任組合法へ

なぜこの法律が投資事業有限責任組合法に変わったのかというと、投資事業が活発になるにつれ、投資のパターンが多様化してきたためです。

もともと中小有責法では、投資対象を中小企業に限定していました。

しかし、投資パターンの多様化によって大企業や広く株式一般への投資が求められるようになると、中小有責法ではカバーしきれなくなってしまいます。

ついには、多くのファンドが国外の法律で設立されるようになり、国は中小有責法に代わる新たな法律として「投資事業有限責任組合法」を制定したのです。

これにより大企業への投資や融資活動なども可能となり、ベンチャーファンドの投資パターンは多様化しました。

2-2. 投資家保護の目的もある

大企業や名の通った上場企業の株式等への投資が認められるようになると、投資知識を持たない投資家に対しても資金の融資を求めやすくなります。

このような投資家はリスクを知らないままに投資に参加してしまう可能性があり、法改正と同時に一定の投資家保護ルールが必要となりました。

平成16年2月、国は「証券取引法等の一部を改正する法律」を成立させます。これにより、投資事業有限責任組合に証券取引法における投資家保護ルールが適用されるようになったのです。

投資事業有限責任組合のメリット・デメリットは

ファンドを組成する際の「組合型」には、投資事業有限責任組合のほかにも「民法上の組合」「有限責任事業組合(LLP)」などあります。

このなかから投資事業有限責任組合というかたちを選んでファンドを設立することには、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。

1. ファンド組成の例外を利用しやすい

・適格機関投資家等特例業務

ファンド組成の高いハードルを下げてくれるのが、「適格機関投資家等特例業務」という特例措置です。

通常、ファンドを作る際には、「金融商品取引法」上の「第二種金融商品取引業」に登録せねばなりません。

この登録は時間がかかる上、金融庁からの検査を受ける必要もあります。検査のための資料作りも求められ、かかるコストも少なくはありません。

また、「第二種金融商品取引業」への登録と同時に、「投資運用業」への登録も必要です。登録には最低でも純資産5,000万円が必要となるため、小さなファンドなら、資金集めが難航するでしょう。

ところが、適格機関投資家等特例業務の届出が認められれば、第二種金融商品取引業と投資運用業の登録は不要となります。

通常は数カ月かかる登録手続きが数週間で済む上、書類の作成も必要ありません。通常よりも迅速かつ低コストでファンド組成を行えるのです。

投資事業有限責任組合は、運用形態が「適格機関投資家等特例業務」の条件にマッチしており、特例措置の条件をクリアしやすいといわれています。

1-1. 適格機関投資家等特例業務の条件

適格機関投資家等特例業務の条件としては、次のとおりです。

  • 適格機関投資家以外の有限責任組合員(LPS)が一定の資格要件を満たすこと
  • 1名以上の適格機関投資家の出資
  • それ以外の出資者の数を49名以下とする

この条件を、「民法上の組合」「有限責任組合」「投資事業有限責任組合」に適用した場合を比較してみましょう。

まず、組合員全員が「無限責任組合員」となる「民法上の組合」は、適格機関投資家からの出資が困難と考えられます。

投資家の多くは、リスクの高い投資で無限責任を負わされることを嫌忌するためです。

また、「有限責任事業組合」の場合、業務執行の意志決定は「組合員全員」の同意が必要です。

ファンド主催者が自由に運営・管理するのは困難なため、こちらも適格機関投資家等特例業務の適用は難しいかもしれません。

「投資事業有限責任組合」は、適格機関投資家が無限責任組合員になる必要はなく、賛同を得やすいといえます。

一人の無限責任組合員がイニシアチブを取れるため、ファンドの運営も自由に行えるでしょう。

実際のところ、適格機関投資家等特例業務を利用するベンチャー企業は、投資事業有限責任組合というかたちでファンドを組成することがほとんどです。

1-2. 適格機関投資家とは

適格機関投資家とは、いわゆる投資の「プロ」です。個人ではなく法人や組合でも構いません。

たとえば、次のような法人・組合・個人が適格機関投資家に該当します。

  • 証券会社、銀行、保険会社
  • 有限責任事業組合
  • 金融庁長官に適格機関投資家の届出を行った個人又は法人 など

適格機関投資家等特例業務を利用するには、上記のような適格機関投資家から最低でも1口以上出資してもらうことが必要です。

2. 税のメリットがある

投資事業有限責任組合には、法人格がありません。組合そのものには課税されず、利益の分配を受けた構成員が課税対象となります。これが、「パススルー課税」と呼ばれるものです。

投資によって得た利益を分配前に課税すると、組合員が受け取るのは税金を差し引いた残りということになります。

その後、個人に分配された時点でさらに課税されるため、二重に税金を納めることになってしまいます。

このとき、投資事業有限責任組合なら、課税は個人への利益分配後の1度切りです。

利益が大きくなればなるほど、「パススルー課税の恩恵を受けるか、受けないか」は収益に大きな影響を及ぼすでしょう。

3. 投資事業有限責任組合のデメリット

投資事業有限責任組合のデメリットとしては、契約の手続きが煩雑になりやすいという点です。

投資事業有限責任組合を組成するには、組合員全員とそれぞれ組合契約を締結せねばなりません。人数が多ければ、書類の準備や書類のやりとりが大きな手間となるでしょう。

また、組成後は財務諸表等の作成及び備置きが必要なほか、金融庁や経済産業省による監査も受けねばなりません。登記の必要もあり、組成から運用までにそれなりに手間がかかります。

投資事業有限責任組合でファンドを設立する際のポイント

投資事業有限責任組合というかたちでファンドを組成する際、気をつけておきたいポイントがいくつかあります。ファンド設立ではどのような点に注意しておくべきなのでしょうか。

1. 無限責任組合員の選定に注意

投資事業有限責任組合では、誰を「無限責任組合員」にするかが重要なポイントです。この場合、個人以外の法人や組合を無限責任組合員とした方が、リスクは少ないでしょう。

というのも、法人や組合を無限責任組合員とした場合、何かあっても債務負担の範囲は法人が持つ財産範囲に限定されます。

一方で、個人を無限責任組合員にすると、個人が無制限に債務の負債を負わされることになります。運用の際思い切ったリスクを取りにくく、大きな利益を逃してしまう可能性もあるでしょう。

個人が無限責任組合員となるリスクを回避する場合、近年は別に「有限責任事業組合(LLP)」を組成し、これを無限責任組合員にする、という手法が使われます。

法人格の無い有限責任事業組合を無限責任組合員にすれば、負債の範囲が個人までは及ばない上、パススルー課税の恩恵も受けられるというわけです。

ただし、有限責任事業組合を無限責任組合員として登記できるかどうかは、個々の条件によって左右されます。不安な場合は、都度法務局に確認するのがベターです。

2. 有限責任組合員の選定も慎重に

2016年3月1日施行の金商法等の改正により、有限責任組合員、つまり「一般投資家」についても一定の要件が設けられました。

投資に対する確かな知識と判断能力が不可欠とされ、無限責任組合員と係わりが深いことが条件となったのです。

主な一般投資家とは、次のような者を指します。

  • 上場会社又は法人(資本金又は純資産の額が5千万以上、かつ有価証券報告書提出)の役員
  • 過去5年以内に提出された上場時の有価証券届出書において、上位50名の株主として記載されている者
  • 過去5年以内に提出された有価証券届出書又は有価証券報告書において、上位10名の株主として記載されている者
  • 組合、匿名組合、有限責任事業組合又は外国の組合等の業務執行組合員等である法人(業務執行組合員等として保有する投資性金融資産が1億円以上) など

また、「特定投資家」に該当しない人が有限責任組合員に含まれると、締結前交付書面及び締結時交付書面の作成が必要となります。

この場合、組成までの手間が大幅に増えることには注意しましょう。特定投資家とは、以下の4者を指します。

1. 適格機関投資家

2. 資本金5億円以上が見込まれる株式会社

3. 上場会社

4. 金融商品取引業者(法人)、特例業務の届出者(法人)

これらに該当しない人が有限責任組合員に含まれる場合、書面を作って取引に伴うリスクなどをきちんと教えねばなりません。

まとめ

ファンドの組成では、投資事業有限責任組合という形態を選択する人が増えています。本来なら無限責任となる組合員の責任を有限とした形態は、出資を募りやすいのが魅力です。

ただし、組織の組成には金融庁などへの登録が必須となり、ハードルが低いとはいえません。

無限責任組合員の選定条件や有限責任組合員の条件などしっかりと確認し、無駄なく効率的にファンド組成に取り組みましょう

画像出典元:Unsplash、Pixabay

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