会社の役員の中でも、何をしているのかよく分からないのが監査役です。
たまに顔を見かける温厚そうな年配者、というのが社員の印象かもしれません。
わが社にも監査役をおくべきかどうか迷っているベンチャー企業の経営者もいることでしょう。
この記事では監査役とは何のためにあって何をする人なのか、必ず置かなければならない役職なのか、など監査役の役割や権限を分かりやすく解説します。ぜひ参考にしてください。
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監査役とは、会社が法令違反をしない(不祥事を起こさない)ように見張る役目の人です。
監査役の報酬は会社から出るので、会社はお金を払って自分を見張る人を雇っていることになります。
これは、会社は経営者のものではなく、第一義的には株主のものだという考え方にもとづくものです。
つまり、会社経営者が株主に損害を与えるような違法行為をしないように監視するのが監査役の役目です。
マスコミなどで話題になる会社の法令違反、不祥事には次のようなものがあります。
このような不祥事を起こすと会社は、法的制裁を受けるだけでなく「コンプライアンス意識が低い」「ガバナンスはどうなっているのだ」という非難を浴びることになり、それによって会社は業績が下がり、ときには存続に関わることもあります。
それを未然に防ぐのが監査役の役目です。
コンプライアンス(compliance)とは、企業などが法令や社会的倫理を守ることで、訳語としては「法令遵守」です。
ガバナンス(governance)とは、コーポレイト・ガバナンスの略で、企業の統治能力、管理能力のことです。
近年ではとくにコンプライアンス違反を起こさない統治能力を指します。
企業が不祥事を起こすたびに、監査役が機能を果せなかったことが指摘され、「監査役なんてお飾りにすぎない」という声も少なくありません。
では、監査役がうまく機能したために不祥事を未然に防いだというケースはないのでしょうか?
残念ながら、それは探しても見つかりません。「発生しなかった不祥事の記録」というものはないからです。
大多数の企業が不祥事を起こさないのは監査役がうまく機能している証拠だ、とも言えません。
一般の人が近くに警察官がいなくても悪事をはたからないのと同様に、多くの会社は監査役の存在の有無に関わらず、コンプライアンス意識を持って仕事をしているからです。
現状ではたしかに、監査役は「法律で義務づけられているから置く」というお飾りに近い存在かもしれません。
しかし、近年、企業のコンプライアンスが注目されていることから、監査役を正しく機能させることの重要性も指摘されています。
会社法では、株式会社が監査役を設置するかどうかは任意とされています。ただし、取締役会を設置している会社は監査役を設置しなければなりません。
取締役会を設置する義務があるのは株式公開会社なので、監査役を置かなければならないのは株式を公開している会社ということになります。
また、株式公開会社で資本金5億円以上(または負債額200億円以上)の「大会社」は、監査役が3人以上の監査役会を設置しなければなりません。
公開会社とは、多くの場合株式を上場している会社ですが、会社法上は上場しているかどうかに関わらず「株式の譲渡に制限を設けていない会社」を指します。
上場前の会社は普通は経営上好ましくない人物(競争相手、反社会的勢力など)に株式が渡らないように、譲渡を制限しています。
監査役になるために必要な資格は特になく誰でもなることができます。
監査役になることができないのは、現在その会社に勤務している役員や従業員です。会社のコンプライアンスを監視する立場なのですから、これは当然ですね。
しかし、その会社の業務について全く知らない人が監査役になってもあまり役に立たないので、実際には元役員や元従業員がなることがほとんどです。
監査役には社内監査役と社外監査役の2種類があります。
・社内監査役ー以前その会社の役員や従業員だった人
・社外監査役ーその会社に勤めたことがないか、辞めてから10年以上たつ人
監査役会を設置するときは、半数以上が社外監査役でなければなりません。
過去に自己破産したことがある人でも監査役になることはできます。ただし現在自己破産の手続き中の人はなることができません。
したがって、現在監査役の人が自己破産の手続きに入った場合は、自動的に退任になります。
監査役は株主総会で選任されます。
株主総会で取締役が議案を提出して、過半数の賛成(普通決議)で決定されるという流れです。(監査役を解任するには三分の二以上が同意する特別決議が必要です)
監査役会を設置している会社では、選任議案について株主総会の前に監査役会の同意を得ておく必要があります。
監査役の任期は4年間です。ただし公開会社でない場合は、会社の約款に定めることで任期を10年間まで伸ばすことができます。
監査役の役割は、取締役の職務に不正がないかを監査(監視・調査)して、不正が見つかったときは取締役会にその行為の差し止めを請求したり、株主総会で報告したりすることです。
これをもう少し詳しく述べると次のようになります。
「監査役は、取締役会と協働して会社の監督機能の一翼を担い、株主の負託を受けた独 立の機関として取締役の職務の執行を監査することにより、企業及び企業集団が様々な ステークホルダーの利害に配慮するとともに、これらステークホルダーとの協働に努め、 健全で持続的な成長と中長期的な企業価値の創出を実現し、社会的信頼に応える良質な 企業統治体制を確立する責務を負っている」(監査役監査基準2①)。
ステークホルダーとは、広い意味での利害関係者のことで、役員や従業員はもちろん、顧客や地域社会も含まれます。
画像引用元:日本の監査役制度(図解)(監査役制度)
監査役が監査するのは、法令違反にあたる行為があるかないかで、会社の利益のための経営判断が適当かどうかなどは監査の範囲外です。
監査役は業務監査と会計監査の両方を行ないますが、非公開会社は定款に定めれば会計監査に限定することができます。
監査役の権限は会社法で下記のように定められいます。
このように監査役には大きな権限がありますが、これらの権限が発動されるのは株主に損害を与えるような法令違反が疑われる場合です。
権限には責任が伴いますが、実際に株主に損害が生じた場合は損害賠償責任を負うのは監査役ではなく取締役です。
ただし、監査役は株主から提訴請求を受けた場合は調査をして60日以内に取締役の責任を追及するかどうかを決めなければいけない責任があります。
監査役は「会社法で決められているから置く」という意識の経営者が多い中で、法的には監査役を設置する必要がない非公開会社が監査役を置くことに、どんな意味やメリット・デメリットがあるのでしょうか?
法的な義務がないのに監査役を置くメリットとしては、次のようなものが考えられます。
監査役は会社の経営者が法令違反をして株主に損害を与えないように監視するのが役目です。
しかし、現実にはその役目を充分に果たせていない「お飾り」的な存在である場合も少なくありません。
企業のコンプライアンスが求められている現在、監査役を実効あるものにする努力が求められています。
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