「公開会社」や「株式譲渡制限会社」など法律や制度って文章や用語が難しくて敬遠してしまう…、という方も多いかと思います。
法律の専門家ではないので全部を覚える必要はないですが、本記事では、中小企業の経営者が知っておくべき「株式譲渡制限会社」のメリット・デメリットを分かりやすく解説していきます。
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株式譲渡制限会社とは「すべての株式に譲渡制限に関する規定がある株式会社」をいいます。株式会社には公開会社と非公開会社があり、株式譲渡制限会社と非公開会社は同じ意味です。
公開会社では、株主は自分の持っている株式を自由に他の第三者に譲渡できますが、株式譲渡制限会社では、株主が第三者に株式を譲渡をする場合には、取締役会または株主総会で承認を得なければ株式を譲渡することはできません。
平成18年に新会社法が施行されるまでは、大企業は株式会社、中小企業は有限会社という住み分けを想定して法人の種類が分かれていました。
有限会社は最低資本金が300万円から(株式会社は1,000万円)、決算公告を行わなくてよい(株式会社は決算公告を行わなければならない)など、中小企業でも負担にならない簡易的な規制を選択できることにメリットがありました。
しかし、有限会社は株式会社に比べて信用力がないというイメージから実態は中小企業であっても株式会社の形態をとる会社が増え、制度が形骸化していった背景から、新会社法では有限会社制度を廃止し、株式会社に一本化されました。(新たに有限会社は設立できなくなりました)
株式譲渡制限会社は株式会社に分類されますが、有限会社の規定に準じた中小企業向けの規定が適用されるため、新会社法のもとでは、大企業は公開会社、中小企業は株式譲渡制限会社という住み分けが想定されています。
中小企業にとってメリットとなる規定は主に以下の5つです。
公開会社では、通常、役員の任期は取締役・会計参与が2年、監査役が4年です。任期満了後は、同じ人が同じ役職に就く場合でも、改めて株主総会で役員として選任される必要があり、就任の登記費用(登録免許税や司法書士に依頼する手数料など)が1万円~3万円かかります。
しかし、株式譲渡制限会社では、定款に定めれば、それぞれ10年まで延長することができます。そのため、役員の異動がないような少人数の会社では、手続きの手間と登記にかかる経費を節約することができます。
公開会社は、取締役会を設置義務があります。取締役会は取締役3名以上、監査役(または会計参与)1名以上置く必要があるため、その分役員が必要になります。
しかし、株式譲渡制限会社では、取締役会の設置義務がないため、取締役が1名以上いればよくなります。
株式譲渡制限会社では、「取締役・監査役は株主に限る」などと定款に定めることによって、役員になる人=経営権を持つ人を限定することができます。家族経営などをしていて他人に経営に口を出された良くない場合などに有効です。
なお、公開会社では、このような規定を設けることはできません。
株式譲渡制限会社では、定款に定めることにより売渡請求権を利用できます。売渡請求権とは会社が望まない相手に株式が渡ってしまった際に、3分の2以上の株主の賛同を得られれば売渡を請求できる権利です。
売渡請求権を行使することにより、相続による株式の分散や、経営にとって不都合な人物が相続により株式を取得することを防ぐことができます。
通常、株主総会の招集は原則開催日の2週間前までに書面またはメールにて通知が必要です。しかし、株式譲渡制限会社では、原則開催日の1週間前や口頭による召集が認められています。
そのほかのメリットとして「監査役の業務を会計監査に限定できる」、「株券の原則不発」などがあります。
株式譲渡制限会社にすることによって発生するデメリットもあります。
創業期で株主が少ないうちは気にする必要がないものですが、ある程度会社が成長してきた際は注意が必要です。
特に注意が必要な株式譲渡制限会社のデメリットは主に以下の2つです。
株式買取請求権とは、株主が会社に対して公正な価格での株式の買い取りを請求できる権利です。
先ほども説明したように、株式譲渡制限会社では取締役会または株主総会で承認を得なければ株式を譲渡することはできません。
このとき、会社が株式譲渡を承認しなかった場合に限って請求できる権利が株式譲渡請求権です。
株式買取請求権を行使された場合、会社は別の買取人を用意するか、自社で株式を買い取るかを選択しなければなりません。
また、株式買取請求があってから2週間以内に会社が何の返答もしなかった場合や、40日以内に買取人または会社が当該株式の買い取りをしなかった場合、「みなし承認」扱いとなり、株式譲渡が認められてしまいます。
ここで問題になるのが、「買い取り時の公正な価格」と「買い取りのための原資」です。
買取価格については、株主と会社との間で折り合いがつかず、裁判に発展するケースも珍しくありません。また、買い取りのための原資は会社法上、内部留保(株主への配当に回すことのできる利益)から出す必要があるため、株式数が多く捻出できない場合は株式の譲渡を承認せざるを得なくなってしまいます。
メリットの一つとしてお伝えした売渡請求権ですが、これはデメリットになる可能性もあるのです。なぜなら、請求対象になっている株主は、売渡請求権を行使するか否かの決議に参加できないからです。
たとえば、事業承継を行う際に、経営者が選んだ後継者に株式を譲渡したとします。しかし、その他の株主が後継者(または現経営者)を快く思っていなかった場合、結託して売渡請求権を発動させ、クーデターを行うことが可能になってしまいます。
たとえ後継者が議決権の50%以上の株式を譲渡されたとしても、決議において売渡請求に反対票を投じることができないのです。
経営者だけが株主の状態であれば心配する必要はありませんが、経営者以外にも株主がいる場合は注意が必要です。
株式譲渡制限会社はデメリットもありますが、公開会社にしたからといって解決できるものではありません。また、デメリットは起きそうなときに定款を変更してしまうなどの対策を立てることも十分可能です。
デメリットを上回るメリットがたくさんあること、定款はいつでも変更可能なことから、中小企業、とりわけ創立期では、株式譲渡制限会社にしておくことを強くオススメします!
では自分の会社を株式譲渡制限会社にするにはどうすればよいでしょうか。
株式譲渡制限会社にするには、「当会社の株式を譲渡により取得するには、取締役会(株主総会)の承認を受けなければならない」などの株式譲渡制限の規定を定款で定める必要があります。
「取締役会(株主総会)」としているのは、株式の譲渡を承認するかどうかは、通常、取締役会で決定しますが、株式譲渡制限会社では取締役会を設置しないこともできるのでその場合は株主総会で決定するためです。
創業期の会社や中小企業の経営者にとってメリットがいっぱいの株式譲渡制限会社。後から定款を変更することも可能ですが、定款の変更には登記費用もかかることから、設立時に株式譲渡制限を設けておきましょう。
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