メンター制度とは、先輩社員(メンター)が後輩社員(メンティ)のキャリア形成や課題解決をサポートする制度です。
本記事では、メンター制度がいらないと言われる理由、うまくいかない時の対策、メリットとデメリットについて解説します。
メンター制度で成功している企業事例も紹介しているので、ぜひ最後までご覧ください。
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多くの企業で導入されているメンター制度ですが、実際には「形式化している」「効果が感じられない」という声も少なくありません。
メンター制度がいらないと言われる理由には、下記5つの要因があります。
メンター制度は、業務指導や研修制度とは異なる特徴を持つ人材育成プログラムです。
しかし、多くの企業では他の制度との違いを十分に理解しないまま導入してしまい、本来の効果を引き出せていません。
ここでは、メンター制度と混同しやすい4つの制度について解説します。
OJT(On the Job Training)は、実際の業務を通じて必要なスキルや知識を習得する研修方法です。
OJTが特定の業務遂行能力を向上させることに重点を置いているのに対して、メンター制度は業務スキルの向上だけでなくキャリア形成や精神面のサポートといった包括的な育成を目的とします。
エルダー(elder)とは、年長者や先輩を意味する言葉です。
エルダー制度は、先輩社員が主に新入社員の早期即戦力化を目的とした研修制度であり、企業によっては「OJTリーダー制度」「ブラザー・シスター制度」「チューター制度」とも呼ばれています。
エルダー制度は実務に直結した指導であるため、同じ部署の先輩社員が指導を行います。
メンター制度は、精神面のサポートが主な役割であるため、気軽に相談しやすい他部署の先輩社員を担当につけるのが一般的です。
コーチングは、対話を通じて相手の潜在能力を引き出し、目標達成を支援する方法です。
コーチは答えを教えるのではなく、適切な質問によって相手の気づきを促します。
そのため、具体的なアドバイスは行いません。
一方のメンター制度は、メンターが自身の知識や経験をもとに具体的なアドバイスを行います。
また、メンター制度が包括的な育成を目的としているの対し、コーチングは特定の課題解決を目的としているという点でも違います。
ティーチングは、知識・技能・問題の解決方法などを直接教え、目標達成を支援する方法です。
教える側の中で明確な正解があり、その成果を効率的に学習させることを目的としています。
一方、メンター制度では、メンターとメンティ双方のコミュニケーションを重視し、主体的な成長を支援するため、ティーチングと目的が異なります。
メンターに求められる具体的な役割や責任が明確化されていないと失敗しやすくなります。
ガイドラインや評価基準がなければ、メンター・メンティは制度をどのように活用すればよいのか理解できません。
その結果、形式的な面談のみで終わってしまうケースがあるのです。
実務上で優秀だからといって、メンターに向いているとは限りません。
コミュニケーション能力など、メンターとしての素質を持ち合わせていなければ、効果的なメンタリングを行えず、メンティの成長機会を逃してしまう可能性があります。
メンターには、時間的・心理的な負担がかかることがあります。
通常業務にメンター業務が追加される場合、メンティとの時間を確保するためには、通常業務の時間を削って取り組むしかありません。
また、メンティが自己成長できるように引き上げていく役目を、重く感じてしまう人もいるでしょう。
メンター制度では、メンターとメンティの相性がとても大切になります。
双方の年齢や性格などを考慮せずに機械的に決めてしまうと、個人の特性が無視され、効果的なコミュニケーションが生まれない可能性があります。
メンター制度で効果的な人材育成を実現するためには、適切な運用体制の構築が不可欠です。
ここでは、メンター制度がうまくいかない時の対策について解説します。
目的が曖昧なまま制度を導入してしまうと、メンターによって対応に差が生まれ、十分に役割を発揮できません。
具体的な目的と目標を設定し、組織内で共有しましょう。
例えば「若手社員の定着率向上」や「リーダー人材の育成強化」など、数値化できる具体的な指標を設定することで、効果測定が可能になります。
どれだけ業務経験が長くても、会話を通じてメンティの成長を支援できなければメンターとしての役割を果たすことができません。
メンターに求められるスキルがあるかどうかを確認した上で、人選を行うようにしましょう。
スキルの基盤となるのは、メンティと信頼関係を構築するためのコミュニケーション能力です。
傾聴力や共感力といった基本的なコミュニケーションスキルがあってこそ、メンティは安心して相談することができます。
また、テレワークの浸透により、テキストベースやオンラインでの対話能力も求められます。
適切な質問を投げかけ、気づきを促すコーチングスキルも必要です。
メンターに選任された社員にとって、通常業務がある中でのメンター業務は、大きな負担となります。
過度な負担はメンタリングの質を低下させるだけでなく、メンター自身のパフォーマンスやモチベーションを下げてしまいます。
通常の業務量を減らしたり、繁忙期と被らないように期間を調整したりするなど、メンター業務にも十分な時間を割けるようにサポートしていくことが大切です。
メンター制度は、メンターとメンティ双方のコミュニケーションによって進んでいきます。
効果を最大化させるためには、メンターの業務経験値だけでなく、メンティとうまく信頼関係を築き、会話を通して能力や成長を引き出せるかという点が重要です。
必要に応じて双方の希望や要望を聞いた上で、相性の良い組み合わせを見つけてください。
メンター制度には、メリットとデメリットがあります。
企業側と社員側、両者の視点から解説するので、導入する際の参考にしてください。
まずはそれぞれの立場におけるメリットについて解説します。
メンター制度を導入することで、人材定着率の向上と組織全体の活性化が実現します。
新入社員は、環境や業務に慣れるまでの間、多くの不安や悩みを抱えやすい状態です。
メンターが信頼できる相談相手になることで、早期退職を防止する効果が期待できます。
業務上の課題をスムーズに解決することは、組織全体の生産性向上にも繋がります。
メンター制度は、メンターとなる社員自身のスキルを育てることができます。
他者の成長支援を通じて、指導力とコミュニケーション能力を磨くことができることは大きなメリットです。
将来の管理職としての素質が養われるので、キャリアアップにも繋がるでしょう。
効率的に職場適応と成長機会が得られるという点が主なメリットです。
メンターという信頼できる相談相手が確保されることで、気軽に不安や悩みを相談することができるようになります。
業務や会社に対しての理解も深められるので、職場に馴染みやすくなるでしょう。
続いては、それぞれの立場におけるデメリットについて解説します。
メンターを選び、育成し、マッチングするためには、時間や人材など一定のコストがかかります。
また、適切なマッチングをしないと、メンター・メンティ両方の離職に繋がってしまう可能性もあるでしょう。
メンターは、通常業務に加え、定期的な面談時間の確保、報告書作成、メンティのフォローなど、メンター業務への時間と労力が発生します。
また、メンター制度が人事評価の基準に設定されていない企業では、メンター業務が評価や給与に反映されないこともあるでしょう。
メンター制度は、メンターによってやり方や指導能力に個人差が発生するため、メンティが不満を感じてしまう可能性があります。
コミュニケーションを通じて進められるため、双方の相性によってはストレスを感じてしまうこともあります。
並行して上司や他の先輩社員に相談できる環境作りも大切です。
最後に、メンター制度を取り入れて成果を上げた企業の事例を2つ紹介します。
食品事業を展開している同社は、約34,860名の社員がおり、2030年までに女性の役職者比率を30%にすることを目標にメンタープログラムを導入して成功させています。
メンターの選定方法を細かく決めており、幅広い視野を持てるようなマッチングに注力しているほか、メンター向けのガイドブックやチェックリストを用意しています。
また、2020年より女性社員の育成を目的とした「AjiPanna Academy」を実施。
メンタープログラムだけでなく、キャリアワークショップやリーダー研修など様々な取り組みを実施し、女性管理職の比率が10%未満から12%まで増加しています。
参考:厚生労働省|女性社員の活躍を推進するためのメンター制度導入・ロールモデル紹介・地域ネットワークへの参加 マニュアル・事例集
化粧品事業を展開する同社は、「人材こそ重要な資源である」という考えのもと、メンター制度に力を入れています。
若手社員がエグゼクティブオフィサーや部門長のメンターとなって意見交換をする「リバースメンタリング」では、2017年〜2021年にかけて684名の社員が参加しました。
リバースメンタリングを通して、上下関係に縛られず、気軽に意見を交わせる風土が広がり始めています。
また、2020年〜2021年には、女性役員と女性社員が直接キャリア開発について対話する「Speak Jam」を実施。
こうした取り組みを通して、女性管理職の比率は2022年の時点でグローバル全体で58.3%、日本では37.3%と成長し続けているのです。
メンター制度がいらないと言われる理由、うまくいかない時の対策、メリットとデメリットについて解説してきました。
メンター制度は、目的を明確にした上で、適切な人選・マッチングのもと実施することが大切です。
通常業務に加えてメンターを担当する際は、周囲からも業務調整などのサポートを行いながら、組織全体でメンター制度に取り組んでいきましょう。
画像出典元:O-DAN