給与前払いサービスは、近年注目が集まっている「FinTech(フィンテック)」を活用したサービスの一つです。
FinTech(フィンテック)とは、金融(Finance)と技術(Technology)から派生した造語。
金融サービスとITを融合させることにより、スマホを使った決済やお金の貸し借りなど、幅広い金融サービスの活用が容易になりました。
しかし、なぜ現在、給与前払いサービスが高い注目を集めているのでしょうか。本記事では、給与前払いサービスの概要や仕組み、メリットや注意点、導入のポイントなどを紹介します。
今後急速に増えていくであろう給与前払いサービスに興味のある方は、ぜひ詳細を確認しておきましょう。
このページの目次
給与前払いサービスとは、そもそもどのようなものなのでしょうか。具体的に見ていきましょう。
給与前払いサービスとは、その名の通り従業員が「給料日を待たずに給料を受け取れる」サービスです。従業員の申請があれば、システムを通じて給料が支払われます。
多くの企業では給料日は厳密に規定されているのが一般的です。個々の事情に対応していては、担当者への負担が大きすぎる上、勤怠管理などの手間も増えてしまいます。
しかし、給与前払いサービスを導入すれば、従業員の申請があったとき給料は自動的に支払われます。
個々の事情に合わせて、日払い・週払いも可能となるのです。
給与前払いサービスが普及する背景としては、「働き方が多様化していること」「サービス導入による企業の負担があまりないこと」などが挙げられます。
近年の「働き方改革」により、勤務形態の異なる従業員を雇い入れている企業は少なくありません。
外国人労働者を雇っている企業も多く、給与の受け取り方法についてもさまざまなニーズが出てくるようになりました。
こうしたニーズに応えるべく、給与前払いサービスの導入を急ぐ企業も増えています。
また、導入の企業負担が少ないことも給与前払いサービスの普及に一役買っているといえます。
選択するサービスにもよりますが、企業側の料金負担がほぼなかったりあってもわずかだったりするものが少なくありません。
従業員のニーズに応えられる上負担も少ないということであれば、導入を検討する企業が多いのも当然といえるでしょう。
古くからある「給与の前借り」と給与前払いサービスの違いは、「企業の義務」か「企業の福利厚生」かという点です。
給与の前借りは、労働基準法で認められた労働者の権利の一つです。しかし、従業員が好き勝手に前借りできるわけではありません。
労働基準法の第25条では「労働者が、出産、疾病、災害等の非常の場合の費用に充てるために請求する場合は、賃金支払期日前であっても、使用者は、既に行われた労働に対する賃金を支払わなければならない」と定めています。
つまり、企業が責任を持って対応しなければならないのは「非常時」のみ。従業員の要請が「非常時」に該当しない場合、企業は前借りの申し出を拒否できます。
一方、給与前払いサービスは従業員が好きなときに給料の前払いを受けられるサービスです。これは企業の福利厚生の一つといえ、義務ではありません。
給与前払いサービスの導入は企業のためというよりは「従業員のため」という意味合いが強いといえるでしょう
給与前払いサービスは「預け金方式」「立替方式」に大別されます。それぞれ仕組みや特徴が異なるため、導入の際はそれぞれの違いについて理解しておくことが必要です。
給与前払いサービスの預け金方式、立替え方式について見ていきましょう。
企業が給与前払いサービス会社に「預託金」を預けておく仕組みです。給与前払いサービス会社は従業員からの申請があった場合、企業の預託金から給料を支払います。
ただし、これを実施するためには預託金以外にも従業員の勤怠管理情報を給与前払いサービス会社に渡さねばなりません。
一方、給与前払いサービス会社も、企業が従業員の前払い状況を把握できるよう、前払いの実績情報を企業側に提供します。
預け金方式は「自社の資金を使う」という点でリスクが少ないといえますが、「残高不足」にならないよう資金管理を適切に行わねばなりません。
立替え型は、給与前払いサービス会社が立替えた資金から、従業員の前払い要請に応じる仕組みです。企業は前払いされた金額と手数料を「前払い実施後」に給与前払いサービスに支払います。
立替え型は残高不足の恐れがありません。「従業員に前払いした分だけ」を給与前払いサービス会社に支払うため、管理も容易です。
昨今の給与前払いサービスは、どちらかというと立替え方式をとる会社が多いようです。
給与前払いサービスの導入は、従業員にとってのメリットが大きいといえます。しかし、それを実施する企業のメリットも少なくはありません。
給与前払いサービスを利用することで、どのような効果が期待できるのでしょうか。給与前払いサービスを利用するメリットを紹介します。
「希望するタイミングで給与を受け取れる」というのは、従業員にとって望ましい制度です。
「働きやすい労働環境を提供できる」ということで、導入すれば福利厚生の一つとしてアピールできます。しかも、給与前払いサービスの多くは導入コストやランニングコストがかかりません。
企業は低コストで福利厚生を充実させることができ、社外的・社内的にも「従業員中心の組織作りができている」ことを印象付けられます。
アルバイトやパートを多く雇い入れている企業などは、従業員の確保に頭を悩ませることが多いのではないでしょうか。
このような場合にも、給与前払いサービスを導入していることは大きなアピールポイントとなります。
「給与の前払いが可能」ということが応募者の増加につながり、より質の高い従業員を雇い入れやすくなるでしょう。また、福利厚生の充実は従業員に働きやすい職場環境を提供します。
従業員が「この会社は従業員のことをきちんと考えてくれている」と実感できれば、離職率も低下するはずです。
給与前払いサービスは比較的最近登場したサービスのため、「違法性」を心配する企業担当者も多いようです。
しかし、結論からいうと、業者選びを間違えなければ給与前払いサービスに法的な問題はありません。
給与前払いサービスの違法性について見ていきましょう。
なぜ給与前払いサービスの違法性が問われているのかというと、立替え型には次のポイントがあるためです。
「お金を貸す」と見なされた場合、これは「貸金業」に該当します。貸金業法に従って登録が必要となりますが、これがない場合は法律違反です。
一方、手数料が「利息」と見なされた場合は「利率制限法」の利率制限にひっかかってしまいます。
法定上の上限は「20%」です。サービスの手数料が1.7%以上あるなら、たとえ貸金業法の登録があったとしても、法律違反を問われることとなるでしょう。
預託型の違法性のポイントは、「企業からお金をあらかじめ預かったり、企業の口座からお金を引き出して従業員の口座に振り込んだりしている」という点です。
お金の預かりや出し入れは、銀行の仕事とされています。無資格でこれを行った場合は「銀行法」違反に該当する恐れがあるのです。
経済産業省には、事業に対する規制の適用の有無を事業者が照会できる「グレーゾーン解消制度」というものがあります。
ここに「サービス事業者の給与前払いが貸付に当たるか」という質問が寄せられました。(参照:グレーゾーン解消制度に係る事業者からの照会に対し回答がありました (METI/経済産業省)
これに対する金融庁の回答は「サービス事業者の給与前払いが貸付に当たらない」というものでした。
その理由としては、以下のような点が挙げられています。
一方、預託型のサービス会社も、多くは銀行と提携してお金を預かってもらったり資金移動業の登録を行ったりして法律違反にならないように勤めているところがほとんどです。
よって、適切な業者を選べば、給与前払いサービスによって法律違反を問われることはないと考えられます。
「給与前払いサービスに違法性はない」という見解が出ているとはいえ、選ぶ業者を誤ると法律違反に該当する恐れもあります。
給与前払いサービスを導入する際は、サービス内容はもちろん会社そのものも厳しい目でチェックすることが大切です。
給与前払いサービスを導入する際のポイントや注意点を見ていきましょう。
次のようなサービスを行う会社は、法律違反に該当する恐れがあります。
サービス業者を選ぶ時「好条件であること」が望ましいと考えるものです。
しかし、その条件はもしかしたら法律に違反しているものかもしれません。安易に考えず、「これは合法なのか?」を意識してチェックしていきましょう。
一口に給与前払いサービスといっても、仕組みはさまざまあります。自社の業務形態に合うものを選びましょう。
注意したいポイントは以下の通りです。
このうち、特に注意したいのが手数料です。手数料は、従業員が負担する、企業が負担する、折半する、などさまざまなタイプがあります。
また、利率もサービス会社によって異なるので、きちんと比較するのがベターです。
あまりにも手数料の従業員負担が大きいと、従業員からの不満が出る恐れがあります。
給与前払いサービスを福利厚生の一つとして導入するなら、従業員が「使いやすい」と思えるものでなければなりません。手数料や給与の引き出しなどで従業員負担が少ないものを選びましょう。
案外見落としがちなのが、提携銀行です。
給与前払いサービス会社によって、提携銀行は異なります。このとき新規口座の開設が必要だったり、近くにATMがなかったりする銀行は従業員にとって使いづらいかもしれません。
利用可能な銀行についてもきちんとチェックしておくべきです。
昨今のニーズの高まりから、給与前払いサービスを行う企業が続々と登場しています。手数料や企業側の負担などをよく比較して、従業員・企業とも納得できるシステムを導入しましょう。
ここからは、給与前払いサービスの中でも特に使いやすいと評判のものをピックアップして紹介します。
安心の大手から勤怠管理システムとしても使える汎用性の高いものまでさまざまあるので、自社にマッチしたシステムを見つけましょう。
CRIA(クリア)の良いところは企業側の費用負担が完全にゼロ円であること。初期費用も月額費用もかかりません。
CRIA側は、従業員が給与前払いを受けるときにかかる手数料で収益を得るビジネスモデルです。
またこれは多くの給与前払いサービスでいえることですが、前払い資金はCRIAが建て替えてくれるため、導入にあたって資金を用意する必要もありません。
さらに、CRIAは上場企業メタップスの子会社が運営しています。まだ世間的に普及しきっておらず、法律との兼ね合いも不安視される給与前払いサービスですが、CRIAなら急にサービスが停止するなどの不安も比較的少ないといえます。
セブン銀行と提携しているため、24時間365日いつでも給与を受け取れる点は、従業員にとって嬉しいポイントでしょう。
初期費用・月額利用料金ともに0円です。
ただし給与の支払い時に従業員が数百円の手数料を負担することになります。
画像出典元:ペイミー公式HP
ペイミーは2017年11月にリリースし、現在では導入社数400社以上、導入従業員数は延べ20万人以上を突破した急成長中の給与前払いサービスです。
導入費用が無料です。
人気の理由は圧倒的な使いやすさで、給与前払いがとても簡単でスムーズになると評判です。
勤怠管理システムとのスムーズな連携を実現しており、給与前払いを利用しない人でもスマホで自分が働いた時間をすぐ確認できるようになるというメリットがあります。
人材の採用や維持につながったという声も多く、例えばアルバイトの採用単価が7~8万円から1万円になったという衝撃的な事例もあります。
導入費用が無料です。
ペイミーを利用して給与前払いを受け取る際には、基本的に従業員負担で一回あたり数百円程度の手数料がかかります。
ペイミーのサービス内容の詳細、実際に導入した企業の声などは資料をご参照ください。
画像出典元:enigma pay公式HP
enigma payは数ある給料前払いサービスの中でも知名度が高いサービスの1つ。サポート体制には定評があるので、給料前払いサービスの導入にあたり不安がある企業でも安心して利用できるでしょう。
初期費用・月額利用料金ともに0円です。
ただし、サービスを利用する従業員は前払い申請ごとに数百円のシステム利用料がかかります。
楽天早トク給与は2020年4月にスタートしたサービスなので、よく知らない方も多いかもしれませんが、企業にとっても従業員にとってもメリットの大きいサービスなのでとてもおすすめです。
基本料金は半年間無料、さらにあらゆる勤怠管理ツールとの連携が可能なので、導入にあたって面倒な作業が発生しません。
導入時や運用時に、コールセンターにて手厚いサポートを受けられることも特長です。「導入後の企業の労力を最小限」にというコンセプトのもと提供されているサービスなので難しい作業も一切ありません。
従業員が給与を引き出す際には手数料が発生しますが、楽天銀行であれば利用手数料が0円。楽天銀行での受け取りであれば、従業員は申請1回につき楽天ポイントを受け取れるという楽天ならではのうれしい特典もついています。
給与前払いサービスは利用にあたって発生する手数料を企業・従業員どちらか一方に負担させるケースが多いのですが、楽天早トク給与は双方に負担させることで共に少額負担で済むスタイルになっており、バランスのよいサービスだと言えるでしょう。
料金は、月額料金として毎月固定の「基本料金」(半年間無料)と利用回数・金額に応じて課金される「従量料金」の2種類がかかります。
詳しくは資料をご参照ください。
画像出典元:THE給与公式HP
給与の前払いを希望する従業員が多い企業にうってつけなのがTHE給与。建設業・運送業の会社に特におすすめです。
従業員の手数料がかからないことが他サービスとの大きな違いで、従業員定着率の向上を期待できます。
導入時の設置作業・導入後のメンテナンス作業も、全て運営企業にお任せできます。
またTHE給与本体は勤怠管理機能も兼ね備えており、様々な給与計算ソフトと連携が可能なため、給与明細をウェブ上で確認することもできます。
さらに、ドライバー管理の機能も新たに追加され、給与前払い、勤怠管理、静脈認証など様々なシステムをオーダーメイドすることが可能になっております。
リース販売は、月額35,000~利用することが可能です。搭載機能により価格変動があります。
給与前払いサービスの導入は福利厚生の充実につながります。従業員の職場環境を向上させ、離職率の低下や求人応募数の増加が期待できます。
近年はさまざまなタイプの給与前払いサービスがあるため、「従業員が使いやすいこと」「企業側の管理が容易なこと」などをチェックしながら選びましょう。
また、中には違法性の高い業者も散見されます。サービス内容が法に則っているかどうかのチェックも必ず行ってくださいね。
画像出典元:Unsplash、Pixabay