2021年の春に世間を騒がせたフジテレビ女子アナウンサーのステマ(ステルスマーケティング)疑惑。
美容室での無料サービスを受ける対価として、SNSでの宣伝を手伝っていたということ大きく話題になりました。
ステマというと、「人を騙す」という倫理的な観点から嫌悪の対象になりがちですが、いまだにさまざまなところで行われているマーケティング手法です。
影響力の少ない一般人によるステマはさほど大きな問題にはなりませんが、影響力が絶大な芸能人が関わっている場合はちょっと事情が異なります。
今回は、芸能人が関与しているステマから、ステマの違法性、インスタでステマ活動した場合の報酬まで解説します。
ステマについての知識があれば、騙されることも防げるだけでなく、マーケティングに携わる人にとっては注意すべきものとして今後の活動にも生かせるはずです。
このページの目次
芸能人が関与したステマ騒動で最も有名なものといえば、「ペニーオークション(略:ペニオク)詐欺事件」でしょう。
この事件は、世の中にステルスマーケティングという存在を知らしめるに至った大きな事件です。
ステマと芸能人の関係を説明するには、一番適した事例です。まず、ペニーオークション詐欺事件とは何かについて解説しておきましょう。
そもそも「ペニーオークション」とは、毎回の入札ごとに手数料が必要になるインターネットオークションのことをいいます。
ペニーオークションサイトの「ワールドオークション」というWEBサイトで、2012年12月、参加者が入札しても落札できない仕組みになっていたことが発覚し、手数料をだましとっていたとし詐欺容疑で逮捕者が出ました。
と同時に、複数の芸能人に報酬を支払い、彼らのSNSを通して「激安で落札できるオークションサイト」などと発信するように依頼し参加者を集める役割を担っていたことも発覚しました。
事件発覚後には、ステマに関与した芸能人たちがこぞって詐欺そのものに関与していないことを証明するためにステマ投稿を認める事態にまで発展しました。
ペニーオークション詐欺事件では、ステマ投稿に関与していた芸能人の数は20人以上ともされています(サンスポ2012年12月15日刊より)が、8人の名前が挙がっただけに留まりました。
その背景には、ステマ投稿した芸能人にペニーオークションが詐欺行為を行っている認識がなかったこと。
さらには、ステマで「人を欺き、または誤解させる事実を挙げて広告をした」事実はあっても、適用されるはずの軽犯罪法の公訴時効(1年)を過ぎていたために立件できなかったことがあります。
公訴時効を迎えていなければ、軽犯罪法違反で罪に問われていたかもしれません。
一般的に商品やサービスを正規の方法で宣伝広告する場合、利用する媒体にもよりますが数十万円から数千万円かかります。
そこに芸能人の知名度や人気を利用するとなれば、一気に認知度アップを図ることができますが、さらにコストが数倍から数十倍にも跳ね上がります。
しかも、芸能人を宣伝広告に利用する場合、写真なども使用期限が定められるため、回収できるコストとの釣り合いが取れなければ、宣伝広告だけで赤字になりかねません。
これらを考えると、業者にとってステマ投稿はかなりうまみのある宣伝広告手法といえます。
数十万円から数百万円の報酬で芸能人自身の媒体で宣伝広告してもらえるのですから、期限なども関係なく、影響力から自然発生的に拡散が望めます。
以前はブログによるステマ投稿が多かったですが、現在はインスタでのステマ投稿が主流になっています。
特に20~30代の若い世代では、情報の獲得手段がグーグルなど検索エンジンを使うよりもインスタなどのSNSを起点にしていることが増えてきています。
ステマ業者は、そうした世の中の流れを読むことに長けており、常に流行の媒体を利用して利益を得ようと画策しています。
ステマは、発信者が社会的影響力が大きい人であるほど、効果も絶大なものになります。そのため、ステマに利用される芸能人は、たいていが名の知れた人です。
しかし、彼らにとってもメリットがなければ、わざわざPRに時間を割くことはしません。そのメリットの一つが報酬です。
芸能人がステマに関与する際、得ている報酬はいったいどれほどのものなのでしょうか?
人気美容室でのカットやネイルなどを無償で提供される代わりに、該当店のSNSに広告として登場していた行為がステマとして騒ぎになっています。
各種メディアによると、総額で数百万円相当になるほどのサービスを受けていた模様。
資金やサービスを提供されていながらPRや宣伝であることを明確にしていない宣伝活動はステマに分類されてしまいます。
当該のアナウンサーも悪意を持ってステマに及んだわけではないと思いますが、どういう行為がステマとして糾弾されるのかはあらかじめ把握しておくべきだったと言わざるを得ません。
2019年秋、M-1グランプリのファイナリストである兄弟漫才コンビ「ミキ」が、故郷の京都市PRのために行ったTwitter投稿がステマだとして話題になりました。
このとき、ミキが京都市から受け取った金額は、1ツイートにつき50万円。ミキは2回投稿をしていますので、計100万円を報酬として受け取った計算になります。
京都市をアピールするために、所属する吉本興業を通してPR契約をしていたミキ。
投稿に広告を表す「#PR」表記をしていなかったことからステマだと批判されていました。これに対して京都市側はステマではないと反論。
それでも報酬が高すぎるとして一部から批判が上がっていたことを考えると、自治体がPRにかけるコストは、民間企業以上に慎重に考慮すべきだったといえます。
ステマで紹介するための高額商品の受け取りのほか、紹介料として5~40万円の現金報酬があったとスポーツ新聞で報じられています。
ペニーオークションでは、詐欺被害に遭った消費者が存在するため、ほかのステマよりも厳しい目で見られています。
その結果、関与した芸能人の一部は現在も表舞台に現れておらず、芸能人生命を脅かす事態にもなっているのです。
できるだけ安価に広告を打ちたいのは、ステマ業者に限らず多くの事業者が考えるところです。
ステマは当たれば、大きな反響が得られます。しかし、昨今のステマの横行によって消費者の目も肥えてきています。
ステマが成功するかどうかは、マーケッターによる綿密な計画と調査が必要です。それでも成功するかどうかは、とても難しい課題といえるでしょう。
ステマは、それに関わる人たちの人生も狂わせてしまうものになりかねません。手軽に一発当てようといった甘い考えでステマをすることは避けるべきです。
インスタグラマーをはじめ、インフルエンサーと呼ばれる人たちがステマで受け取る報酬は、多いものでは数百万円に上ることもあります。
案件や自身のフォロワー数にもよりますが、影響力の大きな人になるほど、報酬額は高くなる傾向にあります。
最近では、フォロワー数の多い人のおすすめ投稿はステマかもしれないという疑惑の目が向けられるようになっています。
そのため、フォロワー数のさほど多くないインスタグラムユーザーが業者からの依頼でステマ投稿していることも。
フォロワー数が5,000人に満たないナノ・インフルエンサーと呼ばれる人たちにもステマが浸透しつつありますので、次は一般ユーザーがターゲットになる可能性もあります。
人を欺く行為でもあるステマ投稿。投稿内容やステマ業者との関わり方によっては、犯罪になることもあります。
残念なことに現在の日本には、ステマそのものを罰する法律がありません。
そもそもステマには、本人になりすましてステマ投稿する「なりすまし型」と、芸能人などのように社会的影響力を持つ人に報酬を渡して依頼するタイプの「利益提供型」の2種類があります。
なりすまし型には、ステマ業者が一般消費者になりすまして悪いレビューをして、競合を蹴落とすステマが該当します。この場合、適用される刑罰は「偽計業務妨害」「信用棄損罪」といったものになります。
その一方で、芸能人を利用した利益提供型の場合では、景品表示法違反が該当すると考えられます。
景品表示法には、消費者に対して誤解を与えるような表示をしている商品・サービスを提供している場合についての罰則規定があります。
広告には、景品表示法によって一般消費者に対して提供する商品・サービスについての誤解をさせないように表示する義務が生じます。
たとえば、実際のものよりも良く見せる・過大評価を与えるような表示を行っているものは、一般消費者へ誤解を与える要因になるため景品表示法違反になります。
ステマ投稿は、実際に使用してもいないのに良い評価を不特定多数に周知させるものですから、その点では景品表示法に抵触します。
また、ペニーオークション詐欺事件のように、誘致先が詐欺などの犯罪行為を行っている場合は、その犯罪に加担したとされるケースもあります。
景品表示法には「有利誤認表示」についての定めもあります。
たとえば、商品やサービスの価格を著しく有利に見せかけるもので、一般消費者にお得感を煽りながら、その実全く特にならないものが該当します。
ペニーオークション詐欺事件では、激安価格で落札できると謳っていましたから、この点だけを切り取れば、有利誤認表示に当たります。
ただ、オークションは一つの商品に対する価格が一定あるいは一律で決まっているものではないため、厳密には有利誤認表示に抵触しているとはいえません。
ステマ全体の違法性についてまとめると、本来広告である投稿を一般消費者に対して隠したうえ、商品を過大に評価して推薦しています。
そのため、景品表示法の優良誤認表示規制法に抵触している可能性が極めて高いといえます。
ステマが違法になるかどうかは、ケースバイケースです。しかし、人を欺くという点では、違法ではなくても倫理的にアウトです。
たとえば、グルメサイトでライバル店のランキングを落とすために書き込まれた悪いレビュー。
それを見たユーザーが来店を控えるようになるのは簡単に想像できます。ステマとしては狙い通りでも、悪いレビューを書かれたほうはたまったものではありません。
ユーザーにしても、嘘のレビューで選択の自由に影響を与えられているわけですから、ステマだとわかれば気分の良いものではないでしょう。
ものは違えど、インスタで芸能人が商品やお店を紹介するのも、これに近いものがあります。
こうしたステマが蔓延すると、その業界で正規の方法で活動している人たちにまで疑いの目が向けられるようになってしまいます。
その結果、業界への信頼感が低下して、経済活動も鈍くなってしまうことも十分考えられるのです。
インスタをはじめインフルエンサーを使ったステマが横行していますが、今後日本でもステマは規制されると見られています。
現状、打つ手のないステマで多くの消費者が混乱させられる事態が増えていること、悪質なステマ業者がいることなどから、海外ではすでにステマ規制が始まっています。
いずれ日本も海外と同じようにステマに対する厳しい罰則規定が設けられるでしょう。
芸能人がステマに関与する理由は、実際のところ本人たちに聞いてみなければわかりません。ただ、仕事の一環として請け負っているケースも多く、ステマと認識していないことも考えられます。
それでも消費者としては大変許しがたいものです。
ましてや、彼らの言葉を信じて商品やサービスを購入したり、実際に紹介された場所に足を運んでみたりした人にとっては、とても残念な気持ちでしょう。
マーケッターとして今後、広告発信する際にはステマにならないよう十分に配慮しましょう。
いち消費者として芸能人の投稿を見る場合には、ステマかどうかは自身の目によって判断することになります。情報を鵜呑みにせず、精査することを意識しましょう。
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