ものづくり企業が製品の品質を保つための有効な手法として「FMEA」が挙げられます。
しかし、FMEAについて聞いたことはあっても、実際にどんなメリットがあるのか、どう取り組めば良いのかが今ひとつわからない人は多いはず。
この記事では、そもそもFMEAがどんなものなのか、どんなメリットが得られるのか、実際に取り組む際の手順などを解説し、企業での活用事例も紹介します。
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そもそも、FMEAとはいったいどんなものなのでしょうか。
FMEA(故障モード影響解析)とは、製造業や工学などの分野で用いられる、設計におけるリスクや欠陥を見つけ出し、故障を未然に防ぐための手法です。
故障につながりうる不具合事象(断線、摩耗、折損など)を「故障モード」として列挙・分類し、それぞれが製品に与える影響や重要度を分析し、対策を立てます。
例えばパソコンなら、電源ユニットの劣化、HDDの破損、ディスプレイの割れなどの故障モードを分析し、「電源が入らない」といった故障を未然に防ぎます。
FMEAを実施することで、起こりうる故障を事前に想定して防止策を打ったり、実際に故障が発生した際の対策をスムーズにすることができます。
FMEAとよく似た品質管理の手法として「FTA」もよく用いられます。
どちらも故障を分析して未然に防ぐための手法ではありますが、FMEAがボトムアップ的な手法であるのに対して、FTAはトップダウン的な手法です。
FMEAは故障の原因となる事象からアプローチしていきますが、FTAは起こりうる故障自体をリストアップして、そこから原因へとブレイクダウンしていきます。
FTAは、故障がある程度パターン化されている普及度の高い製品であれば網羅がしやすいものの、未知の故障には対応しづらいのがデメリット。
新規性の高い製品の管理には、どちらかと言えばFMEAが適していると言えるでしょう。
FMEAには、その適用分野ごとにいくつかの種類があります。
製品の設計段階で用いられるFMEAの手法。
製品が故障を起こさず稼働できるよう、未然にリスクを特定して対策するために用いられ、分析結果をもとに製品改良が行われます。
製品を構成する部品やユニットごとに故障モードの分類を行い、それぞれの影響や重要度を分析、さらに故障を防ぐための対策を立てるまでが一連の流れです。
製造工程や業務プロセスにおけるFMEAの手法。
設計FMEAのような物理的な要素だけでなく、人や設備、環境などの要素に着目し「不良モード」として分析を行います。
この手法を用いることで、製造プロセスにおける事故や不良品の発生リスクを特定・防止し、さらにプロセスの効率をアップすることができます。
ハードウェアとソフトウェアの機能構成に対して用いられるFMEAで、設計FMEAの一部として実施されることもある手法。
物理的な要素である部品やユニットだけでなく、それと関わるソフトウェア上の機能やモジュールに対しても同じように分析を行います。
現代の多くの製品はハードウェア単体ではなく、ソフトウェアの制御のもとで動作しているため、今後より重要になるでしょう。
企業がFMEAを実施することで、具体的にはどんなメリットを得られるのでしょうか。
FMEAはその目的のとおり、故障モードの分析を行い、あらゆる不具合を想定することで、未知の故障や事故を防ぐことができます。
また、設計FMEAとあわせて工程FMEAにも取り組むことで、人や設備を要因とした故障・事故にも対応し、リスクを最小限に抑えられます。
実施にある程度手間がかかりますが、故障発生時のリコール対応やブランド価値の毀損リスクを考えれば、取り組んで損はないと言って良いでしょう。
FMEAで故障モードを分析して、それをフィードバックに製品改良を進めれば、故障しにくい高品質な製品の設計が可能になります。
製品の品質が高まれば、おのずと顧客満足度やブランド価値が高まり、さらに長期的には従業員のロイヤルティや企業価値そのものの向上にも期待できます。
FMEAを定期的に実施することで、製品の設計や製造工程に関する知識や、故障を防ぐためのノウハウが資料として蓄積していきます。
これによって、製品に関する知識が一部の部署や設計者に集中してブラックボックス化する事態を防ぐことにつながります。
また、蓄積したノウハウをもとに、FMEAおよび製品設計の精度をさらに高めたり、設計者の育成に用いることも可能です。
実際にFMEAに取り組む際には、以下のようなステップで進めていきましょう。
実際にFMEAの作業に取り組む前に、その事前準備として、実行チームを組織します。
製品設計部門を中心に、製造、メンテナンス、品質管理などそれぞれの専門知識を持ったメンバー5名程度で構成するのが一般的。
育成の観点では、1〜2人新人や経験の浅い設計担当者を加えるのも有効です。
次に、FMEAを適用する範囲を決定します。
一度に製品全体を網羅して分析するのは難しいため、1チームで分析するのは一部に限られるのが一般的です。
改めて製品の機能、部品、構造を整理したうえで、重要度や故障リスク、着手のしやすさなど複数の基準から、範囲を決定しましょう。
適用範囲を決定したら、実際にフォーマット上で故障モードを分析していく作業に入ります。
フォーマットに関しては特定のものが用意されているわけではなく、基本的には以下のような項目を網羅して自前で作成します。
故障モードの内容 | 製品への影響・不具合の原因 | それぞれの故障モードへの評価と対策 | |||||||
部品/品目 | 機能 | 故障モード | 影響 | 原因 | 影響度 | 発生頻度 | 検出難易度 | RPN | 対策 |
各項目については以下さらに詳しく解説していきます。
フォーマットが用意できたら、まずは故障モードを洗い出していく作業に入ります。
まずは想定される故障モードを以下の要素で整理していきましょう。
例えば家電製品であれば、以下のように記述していきます。
部品/品目:電源コード
機能:外部からの電力を各部品に供給する
故障モード:断線
故障モードを洗い出したら、それぞれの項目に対して、製品に及ぼす影響やその重要度を評価していきます。
フォーマットはそのまま利用して、それぞれの項目の横に以下のような情報を付け加えていきましょう。
先ほどの故障モードの例に付け加える場合、以下のようになります。
製品への影響:製品の電源が入らない
不具合の原因:経年使用による劣化
ここまで分析した内容から、それぞれの故障モードへの最終的な評価と不具合防止の対策を決定します。
上記の区分でスコアリングし、さらに3項目をかけ合わせて「RPN(危険優先度)」というスコアを算出し、数値が高いものから対策を打っていくのが一般的です。
RPNの評価によって実際のアクションが決まってくるため、スコアリングはチーム全体で慎重かつ客観的に進めていきましょう。
FMEAを実践する際には、いくつか注意すべき点もあります。
あらかじめ知っておきましょう。
故障モードの洗い出しでは、網羅性が重要です。
洗い出しで抜け・漏れが発生すると、未知の故障リスクが高まり、発生時の対策も打ちづらくなってしまいます。
洗い出しは設計者が中心となって行いますが、チームメンバーを含めて様々な視点から徹底して行いましょう。
FMEAでは、それぞれの故障モードに対して影響度や発生頻度、検出難易度を評価し、最終的なRPNを算出して分析します。
RPNの数値をもとに製品改善や工程の見直しなどを行うため、このスコアリングは極めて重要なプロセスと言えます。
設計者だけでは評価が難しかったり、偏りが生まれたりするため、品質管理や安全に関する知識を持つチームメンバーも含めて客観的に進めることが重要です。
FMEAは、対策の決定までを対象としていることが多いですが、実際には対策を行い、さらにその結果を反映して再評価を行うまでの改善サイクルが重要です。
FMEAで決定した対策を実施できているか、実施した結果故障モードのリスクは改善できているかまでフォローアップしましょう。
こうしたサイクルを徹底することで、他の部品やユニットでのFMEAや、社内にノウハウを蓄積するうえでも参考になります。
参考として、FMEAを実施して品質向上や業務改善に活かしている企業の例を紹介します。
トヨタでは、生産ラインでISO推奨のワークシートによる工程FMEAを行っていたものの、サブ工程における故障モードの抜け漏れが発生。
形骸化したワークシートを利用することで、いつのまにか故障モードの網羅性よりも、スコアリングばかりを重視する運用体制になってしまいました。
そこで、「機能の分割」「原因防止の工程」「検出方法」など、フォーマットに独自の項目を追加して、よりくわしく工程を整理できるように変更。
これによって、抜け漏れを防ぎ、より高精度な工程FMEAを可能にしました。
デンソーでは、FMEAを実施する設計担当者の知識レベルによって、故障モードの抜け漏れや詳細度のバラつきが生まれていました。
そこで、ワークシートに「FMEA辞書」という機能を埋め込み、作業時に誰でも利用できるように改善。
洗い出しの際の項目のサジェスト、見落としがちなキーワードの表示、過去データベースの参照などを可能にしました。
これによって、設計者の知識や経験によらず、誰でも均一な品質でFMEAを実施できるようになりました。
FMEAは、未知の故障や事故を防ぐことができる有効な手法で、品質や企業価値の向上にまで役立つため、ものづくり企業であればぜひ取り組みたいところです。
実際に作業を進めるうえでは、抜け漏れを発生させないようなフォーマットや体制づくり、客観的なスコアリングなどをポイントとして押さえることが重要です。
トヨタをはじめ、参考になる企業事例もいくつかあるため、それをベースにまずはチャレンジしてみると良いでしょう。
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