2022年3月16日(水)、神戸市主催の「SESSA -KOBE STARTUP DEMODAY」が開催されました。
神戸市では数年前からスタートアップイベントを実施していましたが、今回はコロナ禍で初めて、オフラインとオンラインのハイブリット開催です。
「行政を変える、地域を変える、”これまで”を変える。スタートアップと”これから”を変える。」をテーマに、第1部の「GovTechサミット」では神戸市とともに成長しているスタートアップ事例の紹介を、第2部の「SESSA Startup Pitch」では国内外注目のスタートアップピッチバトルを実施しました。
この記事では、第1部に行われたGovTechサミットの模様をお届けします。
GovTechサミットの前半では、神戸市と協働による実証実験プログラムを実施し、すでに成果の出ているスタートアップ7社が登壇し、実際の取り組みやサービスをプレゼンテーションしました。
後半では、各スタートアップの好事例や苦労などのリアルについて語るパネルディスカッションを行いました。
前半に登壇したアスコエパートナーズ、あっとクリエーション、協栄産業、構造計画研究所、サグリ、Pestalozzi Technology、ラナエクストラクティブの計7社は2020年以降、社会や行政課題を詳しく知る神戸市職員と協業して課題解決に挑むプログラム「Urban Innovation KOBE(UIK)」でサービスの実証実験を行いました。
最初のプレゼンテーションは、地図活用のコンサル事業を提供しているあっとクリエーションです。
代表取締役の黒木紀男さんが登壇し、神戸市 建築住宅局 保全課とともに行った「事故防止に向けた、公共建築物点検結果の自動解析システムの実証実験」を紹介しました。神戸市では約1300の建築物がありますが、業者の点検結果はすべてExcelで届けられていました。保全課には大量のExcelが届き、すべて手作業で確認していました。
そこで、同社はサイボウズが提供しているwebデータベース型の業務アプリ構築クラウドサービス「kintone」を活用してExcelデータを自動で取り込んだり、その取り込んだデータから危険度を自動判定するシステムを開発したり、点検作業をExcelではなくiPadやkintoneに直接入力することを促したりなどの実証実験を実施しました。
その結果、業務時間が効率化され、67時間の時間削減と緊急対応の事故防止が実現しました。
次に登壇したのは、行政サービス関連コンテンツの開発を支援するアスコエパートナーズ取締役の北野菜穂さん。
神戸市ではごみの分別に関する問い合わせが多く、2020年は年間20万件を越えていました。同社が調査したところ、問い合わせ内容の8割は日常のごみに関するものでした。公式サイトに日常のごみに関するFAQが書かれているものの、ほとんどの人は「分かりづらくてたどり着けなかった」「FAQに気づいていれば電話はしなかった」と回答しており、サイト構造の複雑さが架電につながっていました。
同社は実証実験でごみの捨て方FAQをテストサイトに埋め込み、ネットモニターを対象にA/Bテストを実施し、利用者の自己解決率が向上することを確認しました。
公式サイトへのソリューション導入後、2021年12月は前年比63%まで総合コールセンターへの架電数が減少しました。また毎月、前年と比較しても応対数は減少しています。
エレクトロニクス技術商社、メーカー、SI(システムインテグレータ)の3つの事業を展開している協栄産業はイノベーション室/専門部長の青柳治美さんが登壇し、建築工事における積算チェックの改善について紹介しました。
神戸市では建築工事が増えているものの、専門性が高いため、担当している神戸市建築住宅局技術管理課・建築課の人手が足りず、担当者一人ひとりの作業が負担になっていました。その結果、積算の見積もりを誤り、契約が解除になった例もあったといいます。
そこで2021年12月より、過去の積算データを用いて、システムの効果を確認するための実証実験を開始しました。
「共通費エラーの検出率80%以上」というKPIを立てたところ、実際は91.4%と大幅に改善されました。
続いては、大企業との取り組み事例です。
神戸市から、小中学校の体育館を「学校が使わないとき、もっと一般市民に活用してもらい、親しみやすい場所にしたい」という要望がありました。そこで課題になってくるのが「鍵」の問題です。施設を借りるために鍵を取りに行ったり受け取ったりするための人的リソースが必要になるため、無人化・省人化が求められていました。
そこで技術コンサルティング企業の構造計画研究所はWeb上で施設予約できるシステム「まちかぎリモート」と、予約システムと連動したスマートロック「RemoteLOCK」の導入をサポートしました。
登壇したすまいIoT部マーケティング担当の岡田佳也さんは予約の負担が減り、老若男女問わずスムーズに利用できるようになったといいます。
衛星データ×AIで農業と環境課題の解決を目指すサグリは、「耕作放棄地」に着目した実証実験を行いました。
代表取締役の坪井俊輔さんは、耕作放棄地はこの25年で倍増、全国あわせると滋賀県と同じ面積ほどあるといいます。耕作放棄地が増えると、食物自給率の低下や災害リスク増などにつながります。これらを管理しているのが市町村に設置された農業委員会ですが、毎年すべての農地を目視確認し、紙台帳や紙地図のデータを手動で入力しており、非常に非効率的でした。
サグリは人工衛星データを用いて、耕作放棄地の位置を当てて、農地全体を市町村がデジタル管理するソリューションを提案。自治体農業委員会事務局向け耕作放棄地検出アプリ「ACTABA」を提供し、台帳を反映したデジタル地図により農地を見える化しました。さらに、データの出力や蓄積も簡単にできるようになりました。
元アメフト選手の井上友綱さんが代表を務めるPestalozzi Technologyではさまざまな運動データを活用し、「将来の疾病リスク」「運動機能障害」「メンタルヘルスの不満」を予測しています。今回は同社が開発したアプリを活用し、神戸市教育委員会と協働で運動の日常化で体力アップを目指す取り組みを行いました。
児童・生徒が運動不足を解決して運動習慣をつけるために、アプリを使って運動日記を書いてもらう。
運動データを入力することで、その中で喜びや楽しみを発見し、継続的な運動習慣につなげるという内容です。運動量を数値化することで、児童・生徒のモチベーションにつながりました。
最後に登壇したのは、コミュニケーションデザインを提供するラナエクストラクティブでプロデューサーを務める湯浅祐佳さんです。
神戸市の交通局のサイトは市バスや市営地下鉄の運行情報を扱っており、多くのアクセスが集まっています。しかしさまざまなコンテンツが混在しているため、目的の情報にたどり着くのが困難という課題がありました。また、スマホのUIに適していないことも課題の一つでした。
そこで同社では、プロトタイピングを用いてユーザーの反応の観察や要望を聞きながら、より洗練されたユーザー体験を設計しました。
期間中には4つのプロトタイピングを行い、テストユーザーの各属性を5人に絞り、計20人に協力してもらいました。現サイトとプロトタイプ、両方で効果測定を行ったところ、プロトタイプのほうが平均60%の時間短縮につながりました。
パネルディスカッションには、以下3名が登壇しました。
古川さんは「Urban Innovation KOBE(UIK)」の選考段階から、サグリに注目していました。
「毎年、耕作放棄地へ足を運んでいる中で、どうにかこの作業を簡素化できないかと課題に感じていました。どうにか空から農業を把握することはできないだろうか、なんて想像していたところで、サグリのサービス内容を聞き、すぐに興味を持ちました」(古川さん)
さっそく始まった実証実験は、想像以上にうまくいったと坪井さんは言います。
「いろいろな自治体と取り組みをしているのですが、『課題をつかめていない』『スタートアップのためにやってあげている』という姿勢のところとは、コミュニケーションをうまく取れない場合がありました。一方で、神戸市は担当する古川さん自身がサグリに大きな期待を寄せていることもあり、市職員とも現場スタッフともやり取りをする上での摩擦がなく、円滑な意思疎通が図れました」(坪井さん)
ラナエクストラクティブ プロデューサーの湯浅祐佳さんも、神戸市の担当者が「交通局のサイトをどうにかしないと」という危機感が強かったため、同じ課題感を持って取り組めたといいます。
「市の職員の方からは『話している用語も含め、何をしようとしているのか分からなかった』と言われていました。ただ、最初から前向きな気持ちは伝わっていました。例えばユーザーテストで一般市民の意見をヒアリングする際、現状の課題についてより鮮明にキャッチアップしようと努めていらっしゃいました」(湯浅さん)
「神戸市も課題に対して試行錯誤していますが、自分たちで振り絞っても案が出てこないことがたくさんあります。いろいろな目線で、私たちでは想像できないような解決案を提案してくれるスタートアップには、今後もたくさん意見をもらいたいです」(古川さん)
本イベントを担当した神戸市 企画調整局 医療新産業本部 新産業課長 武田卓さんは、GovTechサミットを終えて、ハイブリット開催に手ごたえを感じたといいます。
「オンラインイベントの場合は、多くの人が参加することができます。一方で、登壇者とは登壇中以外で接点が持ちにくいため、コミュニケーションに物足りなさを感じる場合があります。オフラインなら交流する機会が多く、サービスだけでなく登壇者の人となりも知り、より興味を持ってもらうことが期待できます。今後も、オンラインとオフラインを併用しながら、参加者にとってよりよいイベントにしていきたいです」
第2部「SESSA Startup Pitch」のレポートに続きます。