eKYCとは、オンラインで行う本人確認のこと。
例えば、スマホで免許証と自分の顔を自撮りしたデータを送信するだけで本人確認が完了します。店舗に出向いたり身分証明書のコピーを郵送する手間がかかりません。
2018年の法改正後から利用が開始されましたが、今後eKYCを導入する企業がさらに増えると考えられるので注目度の高い分野です。
当記事では、eKYCの基礎知識、活用シーン、eKYCサービスの選び方について分かりやすく解説します。
成功した導入事例やメリット・デメリットも説明するので、eKYCに関心がある人はぜひ参考にしてください。
このページの目次
eKYCとは、銀行口座の開設時などに義務付けられている”本人確認”をオンライン上で行うことです。
・eKYCとは『オンライン上でできる本人確認』のこと
・eKYC= 「electronic Know Your Customer」の略語
・直訳すると「電子的に顧客を知る」という意味
・読み方は「イー・ケー・ワイ・シー」
身分証明書を店員に直接見せたり、コピーを送って本人確認をする従来の方法は「KYC」と呼ばれていましたが、すべての工程をオンライン上で完結できるようになり「eKYC」という言葉が登場しました。
eKYCは『ブラウザ型』と『アプリ型』の2種類があります。
eKYCを導入する際には、どちらが自社サービスに適しているか判断しないといけません。
自社サイト内で本人確認したいならブラウザ型、自社アプリを使って本人確認したい場合はアプリ型が向いています。
次は、eKYCがどのような場面で利用されているか見ていきましょう。
eKYCが使われる代表的な場所が金融機関です。
口座を開設する際には、「犯罪収益移転防止法」という法律で本人確認が義務付けられています。そのため、実店舗で身分証明書を見せたり、コピーを送る必要がありました。
eKYCを利用すれば、それらの手間がかかりません。顧客は”身分証明書”と”自分の顔”をスマホで撮影してデータを送信するだけで即日口座を開設できます。
マッチングアプリ等のネットサービスは、なりすまし行為の予防や安全性を確保するために本人確認が必須です。
しかし、ユーザーをすべてチェックするのは相当の手間がかかります。利用開始までに時間がかかると、離脱されるリスクが高まるのが問題です。
eKYCなら厳格な本人確認を自動的に行えて、短時間で登録手続きが終わります。
加えて、年齢確認を確実に行って未成年による犯罪を予防できる、アイコンの写真がユーザー本人だと保証できる、などもメリットです。
携帯電話を販売する時には、「携帯電話不正利用防止法」という法律により本人確認が義務付けられています。
eKYCを使えば、自宅で運転免許証と自分の顔写真を撮るだけで本人確認が完了。さらに、eSIM対応の端末が手元にあれば、SIMカードの受け渡しも不要です。
自宅から申込み手続きをして、わずか5分で開通するサービスもあります。
本人確認をする手段として、eKYCは様々な場所で活躍しています。例えば、受講者が本人なのか確かめる必要があるオンライン試験を行う時です。
他には、ネット選挙をする際にも、不正投票を防ぐために厳格な本人確認ができるeKYCが用いられています。
目新しいのは、ライブチケットの転売防止のためにeKYCを利用するケースです。チケットを購入した人と当日ライブを見た人が同一人物だと確認できれば転売を予防できます。
このように、eKYCにはたくさんの活用方法があります。
eKYCが導入された背景には、犯収法の改正が関係しています。犯収法とは、「犯罪による収益の移転防止に関する法律」のことで、犯罪収益移転防止法とも呼ばれています。
これは、マネーロンダリングやテロ資金供与対策のために作られた法律です。
金融機関やクレジットカード事業者などの特定事業者に対して、本人確認をする方法が細かく定められています。そのひとつが、身分証明書を提示したり、コピーを郵送する方法です。
そして、2018年11月に行われた犯罪収益移転防止法の改正で、初めてオンラインで完結する本人確認方法が採用されました。
それまでは、オンライン上だけで本人確認する方法は法的に認められていなかったのです。
オンラインで完結する本人確認方法はこの4つ。
(1) 本人確認書類の画像+本人の容貌の画像送信
(2) ICチップ情報+本人の容貌の画像送信
(3) 本人確認書類の画像または ICチップ情報送信+銀行等への照会
(4) 本人確認書類の画像または ICチップ情報送信+顧客の口座への振込+取引画面の確認
eKYCを提供しているサービスで多いのは(1)のタイプで、最も簡単な方法です。
(2)は免許証やマイナンバーカードのICチップをスキャンする必要があります。
(3)は顧客が身分証明書の画像やICチップ情報を送り、さらに銀行が利用者本人だと証明する仕組みです。
(4)は顧客の口座に金銭を振り込み、その事実が記載されたネットバンキング画面の画像等を送付させて本人確認を行う方法です。
犯罪収益移転防止法は、その後2020年4月にさらに改正され、コピーを送付する昔ながらの方法は本人確認書類が2種類に増えるなど厳格化されました。従来の方法だと余計に手間がかかるようになったので、便利なeKYCを好む顧客がさらに増えるかもしれません。状況次第では、eKYCが使えないサービスは顧客離れの危険があります。
eKYCはユーザーと事業者の両方にメリットがあるので、それぞれを詳しく説明します。
ユーザーのメリット | 事業者のメリット |
・面倒な手間がかからない ・タイムロスを減らせる |
・顧客体験が向上する ・機会損失を避けられる ・効率的に業務が行える ・コストが削減できる |
eKYCがあれば、ユーザーは面倒な思いをせずに色々なサービスを利用できます。
銀行の口座を開設するのも、携帯電話の利用申し込みをするのもスマホで写真を撮るだけなので手間がかかりません。
しかも、わずかな時間で手続きが完了するので、タイムロスが減るのもメリットです。
例えば、クレジットカードを作成する場合だと、従来の方法は以下のステップが必要です。
eKYCの場合は、これらがすべてオンラインで行えて待ち時間がほとんどありません。
スマホでクレジットカード決済ができる機能を使えば、カードが手元に届く前に利用できます。
MMD研究所が2021年7月に行った調査では、次回以降もeKYCを利用したいと回答したユーザーが85.2%もいました。
利用者からの評価もまずまずなので、eKYCの必要性がさらに高まると予測できます。
20歳~69歳のeKYC利用経験者の男女500人を対象に、次回以降もeKYCを利用したいと思うか聞いたところ、「対応していたら積極的に利用したい」が28.2%、「その都度、判断する」が57.0%、「あまり利用したくない」が14.8%となり、「対応していたら積極的に利用したい」と「その都度、判断する」を合わせて次回以降もeKYCを利用したいと回答したのは85.2%となった。
事業者はユーザーの顧客体験が向上するのがメリットです。ユーザーに快適な時間を提供できれば、売上アップにつながる可能性が高いです。
短時間で簡単に手続きが終わるので、本人確認をする際の離脱を防げるのもeKYCの魅力。eKYCを導入すれば、顧客がやる気を失わずに最後のステップまで進めます。
また、提出された書類と本人を目視で確認する従来の方法だと、従業員の負担が重く時間がかかるのが問題でした。
eKYCはAIによる自動判定で目視不要のサービスがあり、目視する場合でも数秒で判定できるので効率的に業務が行えます。
それに、書類不要のeKYCなら、紙代・郵送代がかかりません。
eKYCのデメリットは、本人確認書類(運転免許証など)を持っていないユーザーが利用できないこと。
例えば、運転免許証は使えてもマイナンバーカードには非対応のサービスだと、使いづらさを感じる顧客もいるはずです。
そして、自撮りした画像を用いるので、ブレていたり照明の反射で本人確認できないケースもあります。
確認書類は正面からだけでなく厚みが分かる写真も必要で、撮り方が少し難しいです。ユーザーが上手く写真がとれずに手間取ったら離脱リスクが上がります。
MMD研究所の2021年の調査では、「eKYCを次回以降利用したくない理由」に、
といった声が聞かれます。自撮りが難しいと感じている人が一定数いるので、簡単に撮影できる工夫が必要です。
それ以外にも、データ管理や法律関係もeKYCの課題です。新しいサービスであるからこそ、顧客が安心して使える対策を徹底しないといけません。
技術的な問題点としては、顔認証の精度が低いサービスを使うと正確性に欠けることが挙げられます。正しく判定できないと意味がないので、精度の高いサービスを選びましょう。
しかし、機能面が充実しているサービスほど費用が高い傾向があります。初期費用やランニングコストがかかるのもeKYCのデメリットです。
予算内に抑えながら自社に合ったeKYCサービスを導入するために、次は選び方について説明します。
eKYCサービスの選び方で気をつけるポイントはこの3点です。
ブラウザ型とアプリ型のどちらが良いかは一概には言えません。自社サービスの提供方法や顧客の使いやすさなどを考慮して選びましょう。
すでに自社サービスのアプリがあるなら、アプリ内にeKYCを組み込む方法がおすすめです。
自社アプリの開発費用がなかったり、顧客がアプリのインストールに抵抗感を示しそうな場合は、ブラウザ型を候補にしましょう。
(1) 本人確認書類の画像+本人の容貌の画像送信
(2) ICチップ情報+本人の容貌の画像送信
(3) 本人確認書類の画像または ICチップ情報送信+銀行等への照会
(4) 本人確認書類の画像または ICチップ情報送信+顧客の口座への振込+取引画面の確認
eKYCサービスの主な本人確認方法は、「(1) 本人確認書類の画像+本人の容貌の画像送信」ですが、場合によっては、(2)(3)(4) の方法もあったほうが良いかもしれません。
自社が必要とする本人確認方法に対応しているかチェックしましょう。
忘れてはいけないのは、顧客目線でサービスを選ぶことです。
ユーザーの求める機能が備わっているeKYCサービスにしないと、顧客体験の向上につながりません。
など、ユーザーの使い勝手も確認してください。
選び方の参考になるので、次はeKYCを導入して成功した企業の事例を見ていきましょう。
画像出典元:三井住友銀行公式HP
三井住友銀行は2019年10月に口座開設アプリにPolarify eKYCを導入。eKYCを使って銀行口座を開設できるアプリとしては国内初の取り組みです。
三井住友銀行は、キャッシュカードを郵送で送ると顧客の不在時に受け取ることができず、2~3割は戻ってきてしまうという問題を抱えていました。
顧客はキャッシュカードを受け取るまで口座番号が分かりません。
eKYC導入後は申込み当日に口座番号を知ることが可能になり、「口座番号を早く知りたい!」という顧客ニーズに答えることができました。
画像出典元:LINE Pay公式ブログ
LINE Payは2019年5月より『スマホでかんたん本人確認』の提供を開始。それまでは本人確認をする際に銀行口座と連携させる必要があり、顧客が各金融機関のwebページに移動して情報を入力する手間がかかっていました。
『スマホでかんたん本人確認』が開始されてからは、本人と本人確認書類の画像を送信するだけで済み、使い勝手が改善。
その後も銀行口座連携や郵送による従来の方法も引き続き利用可能で、ユーザーが好きな本人確認方法を選べるのも高評価につながっています。
画像出典元:楽天モバイル公式HP
楽天モバイルは2020年11月に『AIかんたん本人確認』をスタート。
『AIかんたん本人確認』を使えば、eSIM対応製品がweb申込み後5分待つだけで利用できます。手続きは、わずか3ステップ。
1. 「AIかんたん本人確認」でRakuten UN-LIMIT VIを申し込む
2. 「my 楽天モバイル」アプリをインストールする
3. アプリからeSIMを開通する
本人確認書類は運転免許証とマイナンバーカードが使えて、写真の撮り方の丁寧な説明もついています。
日本の移動体通信事業者の中で、最初にeKYCを導入したのは楽天モバイルです。
eKYCは2018年の犯収法の改正により導入が開始されたサービス。
新型コロナウイルス感染症の影響もあって、これから市場規模が拡大していくのは間違いありません。
金融機関や通信業界だけでなく、マッチングアプリやフリマアプリなどのネットサービスを安全に使うためにもeKYCが役立ちます。
本人確認で離脱するユーザーを減らしたいなら、eKYCの導入がおすすめです。
色々なeKYCサービスがあるので、比較検討して自社の目的を満たす機能があるサービスを見つけましょう。
画像出典元:O-DAN