AI-Native SaaSとは?既存SaaSとの違い・メリット・活用事例を徹底解説

AI-Native SaaSとは?既存SaaSとの違い・メリット・活用事例を徹底解説

記事更新日: 2026/02/17

執筆: 編集部

AIの進化は、ソフトウェアのあり方を根本から変えつつある。その中で、AIをサービスの中核に据え、データ駆動型の機能や機械学習を前提として設計されたSaaSが、一部で「AI-Native SaaS」と呼ばれ、SaaS市場で注目を集め始めている。

本記事では、既存SaaSとAI-Native SaaSの構造的な違いを比較するとともに、AI-Native SaaSが持つ強みと、それに伴う構造的なコストを考察する。

さらに、国内の導入事例を通じて、次世代SaaSの活用方法と市場のトレンドを深く掘り下げる。

AI-Native SaaSとは?

AI-Native SaaS(AI ネイティブ サース)とは、AIの搭載を前提として、プロダクトのアーキテクチャや機能が根本から設計されたSaaS(Software as a Service)のことだ。

AIの急速な進化に伴い、このようにAIの搭載を前提としたSaaSは市場で増え続けている。

しかし、「AI-Native SaaS」という呼称は一部で使われ始めているに過ぎず、現時点では厳密な定義が確立されているわけではない。

ただし本記事では、既存のSaaSとの対比を明確にするため、AIの搭載を前提として根本から設計されたSaaSを「AI-Native SaaS」と呼称し、その構造や特徴を考察していく。

これまでのSaaS・AIを後付けしたSaaSとの違い

AI-Native SaaSの最大の特徴は、AIが「機能の一部」ではなく「システムの核(モデルベースのロジック)」である点だ。AIがサービス全体の価値を主導する設計であり、UI / UXからデータ構造、インフラに至るまで全てがAIを前提として構築されている。

この構造的な違いが、既存SaaSとの決定的な差を生み出す要因となる。

  これまでのSaaS AIを後付けしたSaaS AI-Native SaaS
顧客に提供できる価値 業務のツール提供と効率化 特定機能の補助・強化 課題の自律的な解決・代行
データ利用の範囲・目的 蓄積(業務の可視化・履歴の保持が主) 部分最適(特定機能の精度改善が主) 全体最適(AIがサービス価値を継続的に向上させる設計)

AIを後付けしたSaaSとAI-Native SaaSの違い

本記事で「AIを後付けしたSaaS」と分類するプロダクトは、これまでのSaaSのアーキテクチャをベースとしながら、特定の部分機能(レコメンド、簡単な予測、チャットボットなど)としてAIを追加したSaaSと定義する。

このタイプのSaaSは、AIの機能改善を通じてプロダクトの一部を最適化したり、サービスによっては特定の業務プロセスを幅広く自動化・改善したりすることが可能となる。

しかし、AIはあくまで補助的なツールという位置づけだ。AI-Native SaaSとの決定的な違いは、AIがシステム全体の核となる価値提供のロジックそのものを担っているか否かにある。「AIを後付けしたSaaS」の主な設計思想は、あくまで既存の業務効率化を補助することにある。

AI-Native SaaSの優位性・構造的コスト

AI-Native SaaSは、AIを核に持つ構造によって、既存SaaSを凌駕する優位性を持つ一方、開発・運用において新たな種類の構造的コストを伴う。ここでは、AI-Native SaaSの強みと、それに伴う代償の両面を考察する。

AI-Native SaaSの優位性

AI-Native SaaSには、既存SaaSの段階的な改善とは異なり、急進的かつ持続的に競争優位を築く「構造的な強み」があるとされている。まずは、その優位性の源泉について解説する。

1. AIモデルによる価値の継続的な自律向上

AI-Native SaaSは、ユーザーの利用データから学習・分析を行い、精度と価値を継続的に高める自律的なサイクルが可能となる。

この構造は、プロダクトの高い安全性と信頼性の確保にも貢献する。

例えば、法務分野のAI契約書レビューSaaSは、処理する契約書が増えるほど、AIが自動でより多くのリスクパターンを学習し、開発者がロジックのコードを修正しなくても、リスク検知の能力が継続的に向上する。

2. 価値提供プロセス全体の自律化

AI-Native SaaSの優位性は、単なる機能改善に留まらず、業務プロセス全体に及ぶと指摘されている。既存SaaSが人間を「ツール」として支援し、業務の一部を効率化するのに対し、AI-Native SaaSは「AIエージェント」として業務プロセスそのものを自律的に実行することを目的としている。

例えば、従来のCRMが営業担当者に「次に何をすべきか」を示唆するに留まるのに対し、AI-Nativeな営業SaaSは、見込み客の選定、パーソナライズされたメールの作成・送信、その後のフォローアップの判断までを、人間の介入なしで一連の流れとして実行する。

これにより、企業は特定の業務を丸ごとAIに任せることができ、人間のリソースをコア業務や戦略的な判断に集中させることが可能になる。これは、単なる「効率化」ではなく、組織全体の生産性を根本的に最大化することにつながるという見方がある。

AI-Native SaaSの構造的コスト

AI-Native SaaSの大規模なAIモデルの維持・運用には、既存SaaSとは異なる新たなコストが伴う。安定性や予測可能な低コスト運用を最優先とする場合は、これまでのSaaSが依然として優位な選択肢となる場合がある。

ここでは、AI-Native SaaSが既存SaaSと比較して負いがちな、構造的なコストについて解説する。

1. 計算資源(GPU)とデータ整備の初期コスト

AIモデルのトレーニングには大規模な計算資源やデータ整備が必須であり、これには莫大なコストがかかることが知られている。AI-Native SaaSは、価値の核に大規模なAIモデルを据え、これを継続的に改善する構造のため、必然的に既存SaaSとは異なる、この種の初期投資を負いがちだ。

特に、AIモデルの学習や推論に必須となる高性能な計算資源(GPU)の調達・運用コストは非常に高い。

さらに、モデルを賢く機能させるためには、既存SaaSが扱う定型データとは異なり、大量かつ質の高い、教師データや非構造化データを収集・整備する必要がある。このデータラベリングや前処理にかかる人件費も膨大だ。

したがって、AI-Native SaaSの立ち上げは、ベンダーにとって初期の投資負担と期間が格段に大きくなる。結果的に、この高コスト構造はサービスの利用料に反映されやすく、導入企業にとっても既存SaaSより高い経済的な負担となる可能性がある。

※画像処理に特化した半導体だが、AIにおける大規模な並列計算処理に優れるため、AIの学習・実行に不可欠な計算資源として利用される

2. 開発・運用体制の複雑化と専門性への依存

AI-Native SaaSは、サービスの核がAIモデルであるため、既存SaaSよりも開発・運用体制が大幅に複雑化する。これまでのSaaSの開発は主にソフトウェアエンジニアが担当するが、AI-Native SaaSでは、高度な専門性を持つAIエンジニアや、業界知識を持つドメインエキスパート(医療や法務の専門家)といった人材が不可欠となる。

特に、AIモデルの訓練から運用、そして継続的な改善サイクルを回すための専門チームの構築は、既存SaaSと比較して、より高度で複雑な体制を必要とする。

専門人材の採用や維持には高いコストがかかる上、組織間の連携も複雑になりやすいため、ベンダーは人材と体制の面で構造的なコストを負いやすい。

AI-Native SaaSの市場トレンドと活用事例

AI-Native SaaSは、解決する課題の範囲によって大きく水平型(Horizontal)と垂直型(Vertical)に分類され、それぞれ異なる強みを発揮している。

両者は、単に解決する分野が広いか狭いかという違いだけでなく、利用するデータの種類やAIモデルの学習方法などが根本的に異なる。

  水平型(Horizontal) 垂直型(Vertical)
解決領域 汎用的なビジネス課題
(営業、マーケティング、バックオフィスなど)
特定業界の深い専門課題
(医療、金融、法務など)
データの種類 問い合わせと回答(FAQ)など業界横断的な汎用形式のテキスト、広範な言語知識が中心 独自に保有する専門データ(臨床データ、過去の判例など)
主要な導入メリット 広範な知識タスクの補助と効率化 業務プロセスの核心を担う判断・実行の代行

水平型(Horizontal)

業界横断的な汎用業務においては、LLMを活用した文書生成やカスタマーサポートの高度化が進んでいる。

この分野では、SaaS市場全体の価値創出の主戦場が「効率化」から「自律的な問題解決」へとシフトしつつある。

垂直型(Vertical)

垂直型は、特定の業界が抱える専門的かつ深い課題に特化し、その業界固有のデータと専門知識をAIモデルに組み込むことで、業務の核心を担う判断や実行を自律的に代行する。

ここでは、医療分野の専門課題に特化し、AI問診をコアに据える「Ubie(ユビー)」の導入事例を紹介する。

導入事例:専門的な情報収集を効率化し、医師・看護師の負担を軽減

Ubieは、患者の入力情報からAIが最適な質問を繰り返し、診察前に医師の判断に必要な専門情報を収集・構造化することを目的としている。

このUbieの導入事例として、社会福祉法人 恩賜財団 済生会みすみ病院のケースを紹介する。

同病院では、外来診療の問診業務を事務スタッフが紙ベースで行う体制であったため、情報の量と正確性に限界があり、結果的に医師の診察時間が長引いたり、看護師が追加で詳細な問診を行ったりするケースがあった。

Ubieを導入した結果、患者の症状や既往歴に関する情報が、AIによって構造化された形で医師や看護師に提供された。これにより、医療従事者が判断に必要な情報に即座にアクセスできる、より高度で効率的な診療プロセスを構築することが可能となった。

【具体的な成果】
医師の診察時間短縮:問診情報が充実したことで、患者一人の診療時間を5分、長いケースでは10~15分短縮された。
看護師の業務負担軽減:情報が画面に集約され、必要な情報収集や検査予測の判断が容易に。追加問診の必要がほとんどなくなった。

参考元:短い患者さんでも5分、長い患者さんなら5~15分診療時間が短縮。AI問診で必要な情報が事前に取得できるようになった

まとめ

AIをプロダクトの核に据えたAI-Native SaaSについて、既存SaaSとの構造的な違い、優位性、そして導入に伴うコスト構造を解説してきた。

AI-Native SaaSの最大のポイントは、単なるツールの提供ではなく、AIモデルが自律的に学習・最適化し、業務プロセス全体を代行・実行することで、価値を継続的に高める点にある。

また、AI-Native SaaSは解決領域によって「水平型」と「垂直型」に分類され、特に特定の専門分野の深い課題を解決する垂直型が、国内市場でも大きな注目を集めている。

両者の構造的な違いを理解し、そのメリットとコストの両面を天秤にかけることが、次世代のビジネス競争を勝ち抜くための導入戦略の第一歩となるのではないだろうか。

画像出典元:O-DAN

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