TOP > SaaS AI > SaaSの未来 > 【速報】AI SaaSリリースラッシュ!2025年9月に見る最新トレンド
AI市場が新たな局面を迎えるなか、企業のサービス開発の動きが活発化している。2025年9月のリリース情報には、どのような傾向が見られるのだろうか。
本記事では、各社の発表内容を整理し、その動向を考察する。
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AIサービスが9月に集中して発表される背景には、日本のビジネスサイクルやテクノロジーのトレンドが関連していると考えられる。具体例には次のような動きがあった。
日本企業の多くは3月期末決算であり、9月は上期末にあたる。この時期は、上期の成果発表や新規リリースのタイミングと重なりやすい。また、10月からは下期予算の執行が本格化するため、新規ソリューションの導入を検討する動きも活発になる。
お盆で停滞した8月を過ぎ、9月以降はIT関連の大型展示会が集中する。これにより、メディア露出や営業活動が再開し、発表時期として選ばれやすい。
2025年に入り発表された新しいAI技術(OpenAIによる開発者向けパッケージなど)を各企業が自社製品に取り込み、サービスとして完成させるまでに、およそ数ヶ月の期間を要する。その結果、多くの新サービスが9月に揃って登場した可能性がある。
AI活用はもはやスタートアップ企業だけの専売特許ではない。2025年9月、KDDIやNTTドコモ、TIS、電通グループといった日本を代表する大企業が、自社のコア事業にAIを深く組み込んだサービスを次々と発表した。
AIを専門とする企業だけでなく、長年にわたり事業を支えてきた強固な基盤とAIを融合させることで、新たな付加価値を生み出す動きが本格化している。
KDDI株式会社は、株式会社フライウィールと共同で、社内データ活用アシスタント「KDDI Conata Data Agent(コナタ データ エージェント)」の提供を開始した。本サービスは、社内に散在する文書やデータベースから必要な情報を迅速に抽出し、高いセキュリティ環境で効率的な業務遂行を支援するものだ。
同社の閉域網※サービス「KDDI Wide Area Virtual Switch 2(ワイド エリア バーチャル スイッチツー)」と連携することで、インターネットを経由せずに社内データを検索・利用できるため、情報漏洩のリスクを低減しながら、AIによる効率的な情報検索を可能にしている。
同社では、2024年11月から本サービスを社内で先行導入する実証実験を実施。その結果、これまで週に1人あたり8時間かかっていた業務の作業負荷を約3割削減できる効果を確認した。2025年7月からは、この実証結果を踏まえ、社内の法人営業部門で先行導入を進めている。導入したユーザーの80%以上が調査時間の短縮や情報が検索しやすくなったことを実感しており、「問い合わせ先がわかりやすくなった」といった意見も寄せられている。
※特定の利用者だけがアクセスできる、インターネットから切り離された閉鎖的なネットワーク
参考:セキュアな環境でAIを活用した迅速な社内文書検索を実現する「KDDI Conata Data Agent」を提供開始
TIS株式会社は、金融業界向けモダナイゼーション※サービス「Xenlon~神龍 モダナイゼーションサービス」のオプションとして、生成AIを活用した仕様書自動作成サービスの提供を開始した。本サービスは、老朽化したシステムの刷新時に、仕様書が見つからない、または内容が実態と合わないといった、現場で発生しがちな課題を解決することを目的としている。
プログラムの意図や処理構造をAIが自動的に把握・整理することで、人手による作業と比較して最大約60%の工数削減を同社社内検証で確認した。出力される仕様書は、プログラムの概要や処理内容など6つの主要項目を含み、テキストだけでなくフローチャートや表形式でも表現されるため、開発経験が浅いユーザーでもシステムの理解を深めることが可能となる。
また、エンタープライズ領域での利用を想定し、生成AIに機密情報が保管・学習されない高水準なセキュリティを確保している点が、厳格な情報管理が求められる金融業界にとって大きな利点である。
※老朽化・複雑化した既存のシステムを、最新の技術や環境へと刷新すること
参考:TIS、金融業界向けモダナイゼーションを支援する生成AI仕様書作成オプションを提供開始
NTTドコモビジネスは、AIを活用した新コミュニケーションサービス「docomo business ANCAR™(アンカー)」を発表した。本サービスは、2025年12月から順次提供される予定。
同社が提供する通信サービスを基盤とし、AIを組み込むことで、顧客体験(CX)と従業員体験(EX)の双方を向上させる。AIによる高精度な音声認識や自動応答が顧客の問い合わせ体験を最適化し、一方で通話データの活用や録音・要約機能が従業員の業務効率を高める。カスタマーハラスメント対策としても有効である。
初期費用を抑えられるSaaSモデルのため、コンタクトセンターだけでなく、営業所や店舗といった小規模な顧客接点にも手軽に導入できるのが特徴だ。
参考:AIで顧客接点を進化させる新コミュニケーションサービス「docomo business ANCAR™」を提供開始
電通デジタル、電通、電通総研は、同グループのAI戦略「AI For Growth(グロース)」に基づき、企業の「AIネイティブ化」を加速させる「AI For Growth マーケティングエージェント開発・導入・伴走支援サービス」を開始した。
これは、顧客企業のマーケティング活動を総合的に支援するAIエージェントとして機能し、マーケティング戦略の策定からAIエージェントの開発・導入、さらには運用や組織・人財変革までを総合的に支援するものだ。
同グループに蓄積されたAI関連の全アセットと、専門家の知見を融合させることで、顧客企業の課題解決に最適なAIエージェントを提供することが可能になる。
参考:国内電通グループ3社、「AI For Growth マーケティングエージェント開発・導入・伴走支援サービス」を提供開始
AIが汎用的なツールから、特定の業界や業務に深く入り込む「専門家」へと進化している。これにより、これまでテクノロジーの導入が難しかった分野でも、AIによる具体的な課題解決が期待されている。
Ubie(ユビー)株式会社は、体調不良時に適切な医療行動が取れずにいる「医療迷子」を減らすため、AIとの対話を通じてユーザーを適切な医療に案内する「医療AIパートナー」の提供を開始した。
これは、従来の「症状検索エンジン」という単発的な情報提供から、ユーザーの医療行動全体に寄り添う「伴走型」のサービスモデルへの戦略的転換を示すものだ。ユーザーの持つ症状や過去の医療情報をAIが記憶・整理し、個人の状況に合わせた具体的な行動を提案することで、ユーザーは適切な医療へとスムーズにたどり着くことが可能となる。
同社は、2030年までに「医療迷子」経験率を半減させることを目標に掲げ、社会課題の解決を事業の核に据えている。
参考:日本人の7割が経験する「医療迷子」の解決へ、医療AIパートナー「ユビー」の提供を開始
株式会社Ippu Senkin(イップセンキン)は、金融・製薬業界に特化した、個社完全カスタマイズ型「AIロープレアプリ」の本格提供を開始した。
これは、営業活動におけるトレーニング機会の不足や育成担当者の負荷増大という、業界が抱える課題を解決するサービスだ。特に高い専門性が求められる業界では、この課題が顕著になっている。
企業ごとの製品知識や商談シナリオを学習した個社専用のロールプレイングで、社員は実践に近い環境で繰り返し練習ができ、効率的にスキルを磨くことができる。すでに同業界の大手企業に展開しており、管理職の負担軽減や評価基準の統一化といった効果を実現している。
参考:日本初|金融・製薬に特化した「AIロープレアプリ」本格リリース -企業毎に完全カスタマイズ。プロンプト不要の直感的操作で営業トレーニングのDXを実現-
物流業界のDXを推進する株式会社Hacobuは、物流データを対話形式で分析できるAIエージェントサービス「MOVO AI Lab(ムーボ・エーアイ ラボ)」を公開した。
その第一弾として、同社のトラック予約受付サービス「MOVO Berth(ムーボ・バース)」を利用する企業向けに、「データ分析エージェント for MOVO Berth」の提供を開始する。
本サービスは、物流業界が抱える人手不足や市場ニーズの変化への対応といった課題を解決するために登場した。AIがユーザーの問いかけに対し、状況把握、課題特定、施策候補の提示を自動で行い、物流の現場におけるデータ活用を促進する。単なるデータ分析ツールではなく、AIが物流の最適化を自律的にサポートする存在へと進化していくことが期待されている。
参考:物流現場にAIを、エッセンシャルワーカーに翼を。Hacobu、物流×AIの実験場「MOVO AI Lab」を公開。第一弾「データ分析エージェント for MOVO Berth」を発表
売れるAIマーケティング社株式会社は、AIを活用した2つの新サービスを提供開始した。これらのサービスは、マーケティング活動におけるクリエイティブ生成や顧客コミュニケーションをAIで変革することを目的としている。
AIが縦長の1ページ型ホームページを自動構築・納品するサービスだ。納品後に顧客自身が価格を決めるという点が大きな特徴である。AIが継続的にホームページの更新を代行するため、企業の成長ステージに合わせてコンテンツを自動的に最適化し続ける。
参考:【新サービスリリース】売れるネット広告社グループ(9235)、新サービス『売れるAIホームページ制作』をリリース!〜AIによる自動構築・自由価格モデルでWeb制作市場に新潮流~
AIが顧客一人ひとりの行動データを分析し、最適な提案を自動的に届けるBtoB向けサービスだ。同社が長年にわたり実施してきたA / Bテストに基づく独自のノウハウを組み込んでおり、旅行業界では顧客に合った旅程を設計したり、店舗業界ではカスタマイズされたクーポンを即時発行したりするなど、「買うAI」時代に企業がAIに選ばれるための新たな勝ち筋を提示する。
参考:【新サービスリリース】売れるネット広告社グループ(9235)、新サービス『売れるAIワントゥワンマーケティング』をリリース!〜我々が、AI時代の“購買ルール”そのものになる〜
株式会社サイマル・インターナショナルは、クラウドベースの遠隔同時通訳ソリューション「interprefy(インタープリファイ)」シリーズを展開している。既存の遠隔同時通訳サービス「interprefy RSI」と、AI通訳サービス「interprefy AI」に加えて、新サービスとして「interprefy NOW」の提供を開始した。
「interprefy NOW」は、対面会議に特化したAI通訳サービスで、スマートフォン一つで80言語以上に対応する。二次元コードを読み取り、言語を選択するだけで、誰でも簡単にAI通訳を利用できるのが特徴だ。
長年の知見を持つプロフェッショナル企業が提供するサービスとして、質の高いコミュニケーションをサポートする。
参考:対面会議向けのAI同時通訳サービス「interprefy NOW」のサービス開始および公式ホームページ全面リニューアルのお知らせ
AIによるビジネス変革は、日本国内に留まらない。海外企業からも、特定の業務に特化したAIサービスが続々と登場している。これらの動向は、AI活用が世界共通のビジネス課題解決策となっていることを示している。
イギリスの金融テクノロジー企業Plum(プラム)は、GoogleのAIモデル「Gemini」を活用した資金管理の「副操縦士(コパイロット)ツール」を発表した。
これは、ユーザーの収支データをAIが分析し、支出の削減や貯蓄・投資の最適化を自動で行うサービスだ。AIがユーザーの行動パターンを学習し、個別の状況に合わせたパーソナルな提案をすることで、賢明な金融行動を支援する。
単なるデータ分析に留まらず、AIが金融の専門家のようにユーザーのそばに寄り添い、お金に関する意思決定をサポートするサービスとなっている。
参考:Plum unveils AI tool using Google’s Gemini to shake up personal money management
アイルランドのPayslip(ペイスリップ)社は、グローバル給与計算向けAI機能スイート「Payslip Alpha」を発表した。
本サービスは、給与要素の分類を支援する「Alpha Assist」、検証レポートの実行を自動化する「Alpha Agent」、そして給与データをリアルタイムで分析する「Alpha Intelligence」という3つの主要機能で構成されている。
本サービスは、すべての国・ベンダー・システムをまたいで一元化されたグローバルデータを基盤としており、このデータがAIの精度向上に貢献する。
高水準のセキュリティとコンプライアンス基準が中核に組み込まれており、給与計算というデリケートな業務でも安心して利用できる。
参考:Purpose-Built AI for Global Payroll
2025年9月のリリースラッシュは、主に2つの大きなトレンドが読み取れる。
第一に、KDDIやNTTドコモをはじめとする大手企業が、自社のコア事業にAIを本格的に組み込み始めたことが挙げられる。第二に、UbieやHacobuといった専門企業による、特定の業界の深い課題解決に特化したAIの開発である。
これらの動きは、AIが企業の基幹技術として定着しつつある現状を反映していると考察できる。今後、自社事業へのAIの統合は、企業の成長戦略においてますます不可欠なテーマとなるだろう。
画像出典元:O-DAN
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