AIでSaaS営業の働き方は変化する。業界を俯瞰して「営業担当の未来」を考察

AIでSaaS営業の働き方は変化する。業界を俯瞰して「営業担当の未来」を考察

記事更新日: 2025/08/12

執筆: 編集部

SaaS業界ではAI活用が急速に進展し、営業職の役割がAIに代替される可能性が指摘されている。この現状と未来について、SaaS比較サイト『起業LOG』の元セールスリーダーとして多くの営業現場を見てきた有薗氏の見解を解説する。

SaaS営業はAIに代替される?されない?

AIはSaaS営業の仕事を奪うのか?SaaS業界を俯瞰する有薗が語る、営業担当の未来

──AIによってSaaS企業の営業担当は不要になると思いますか?

有薗: 結論から言うと、AIが営業担当を完全に代替することはないでしょう。私は、AIは「説明はできても、人を魅了することはできない」と考えています。人間が担っていたインサイドセールス(IS)やフィールドセールス(FS)の役割が、完全にAIに置き換わることは、まだ遠い未来の話です。

例えば、採用面接官にAIを利用したところ、応募者の辞退が増加したというニュースがありました。このことからも、AIにはまだ「人を惹きつける力」が備わっていないと感じています 。

引用:https://gigazine.net/news/20250805-ai-interviewer

有薗:一方で、AIは「入力や情報分析、整理」といったルーティンワークにおいて、圧倒的な力を発揮します。

FSの業務プロセスを例に挙げると、「商談」以外の「企業分析」「情報整理」「提案内容の整理」「議事録のSFA/CRMへの登録」「お礼メール送信」などは、AIによって大幅に簡略化できると考えています。

AIで働き方はどう変化する?

──営業プロセスの中で、AIが最も効果を発揮する部分はどこでしょうか?

有薗: 先ほども申し上げた通り、ほとんどのプロセスでAIが活用できます。

The Model式の分業制の場合、営業リストの作成はPerplex AIにやらせることで、出典元を明記できます。

IS担当は、その情報をもとにコールし、通話内容を全て録音します。その一連の情報をn8nやDifyのようなツールを使って文字起こしし、Salesforceにメモを記載。

FS担当は、Salesforce内の情報を見ながらAIに提案の方針を提案してもらい、商談のシミュレーションを行います。商談が終了したら、その録画をAIに分析させ、お礼メールの作成やネクストアクションに合わせたTODO登録を自動で行わせることも可能です。

さらに、商談内容から伸びしろを分析し、FS担当にフィードバックすることもできます。

──AIがルーティンワークを担うことで、営業担当はどのような業務に時間を割くべきでしょうか?

有薗: 大きく2つあると考えています。

1つ目は、これまで失注してしまった企業のナーチャリング活動です。多くの企業が失注後に放置しがちですが、AIにデータを渡すことで、ナーチャリングの提案から実行までを自動で行ってくれるようになります。

2つ目は、営業の「磨き込み」です。データ入力などの誰にでもできる業務はAIに任せ、商談の内容や商材のブラッシュアップなど、人間がやるべき業務のレベルアップに時間を充てるべきです。

営業組織の役割はどう変化する?

──「The Model」のような営業組織の役割は、AIの介在でどのように変わりますか?

有薗: そもそも「The Model」は、効率的に営業活動を行うための仕組みです。AIを駆使すれば、分業する必要がなくなる未来もあると考えています。一貫して顧客と関わることで顧客の解像度も高まりますし、分業制にしなくても効率的な活動が可能になるからです。

データドリブンな営業活動が重要になりますが、これを実現するには、AIにどれだけ正確な情報をインプットできるかが鍵となります。これまでは人が行っていた入力業務も、今後はAIやSaaSが担っていく方向になるでしょう。データドリブンな営業活動を実現するために有効なサービスは多岐にわたります。

【編集部厳選】AI営業支援ツール

有薗氏が指摘するように、AIは営業活動の生産性向上に不可欠な要素となりつつある。その潮流はすでに現実のものとなっており、AIを搭載した営業支援ツールは、企業の競争力を左右する基盤として広く普及し始めている。

本記事では、こうしたツールの中から代表的なものをいくつか取り上げ、その機能と特長を詳述する。

電話・Web会議の最適化支援

あらゆる会話を解析する「MiiTel」

MiiTelは、営業活動を音声解析AIだ。通話の文字起こしや要約、感情分析、さらには発話・傾聴比率のスコアリングまでを網羅的に実行する。

最大の特徴は、電話と解析が一体となったオールインワンソリューションである点だ。これにより、担当者自身の「セルフコーチング」を促し、ハイパフォーマーの会話術をチーム全体で可視化や共有が可能になる。結果として、組織全体の営業力の標準化とアポイント獲得率の向上につながるだろう。

会話解析プラットフォーム「amptalk」

amptalkは、既存のコミュニケーションツールと連携して機能する会話解析プラットフォームだ。ZoomやDialpadといったツールに接続し、商談の文字起こし、要約、トピック分析などを実行する。

このツールの本質は、単なる分析に留まらない「セールスイネーブルメント」にある。AIによるロールプレイング機能「amptalk coach」やCRM、Slackとの強力な連携を実装。全ての商談データを個人のスキルに依存させず、「組織の資産」へと昇華させることで、営業活動全体の最適化を目指している。

インテントセールスツール

インテントセールスツール「Sales Marker」

株式会社Sales Markerが提供するインテントセールスツール。従来のアウトバウンド型ではなく、顧客の「意図(インテント)」を起点とする営業へのパラダイムシフトを提唱する。

その中核は、520万社の法人データベースと、ウェブ検索といった行動データ「セールスシグナル®」の組み合わせにある。AIがこれらを解析し、今まさに自社サービスへの購買意欲を示している企業をリアルタイムで特定するのだ。

革新性は「誰にアプローチすべきか」から「誰が今、我々のソリューションを探しているか」への視点転換にある。特定した高関心リードには「シーケンス機能」等でアプローチを自動化し、劇的な商談化率の向上を図る。

AI搭載CRM・CRM活用

顧客データを効果的に活用する「Salesforce(Sales Cloud Einstein)」

世界No.1のCRMプラットフォームに、独自AI「Einstein」を深く組み込んだソリューション。CRM内に蓄積された膨大な自社の顧客データをAIが直接活用し、インサイトを導き出す点に最大の特徴がある。

AIによるリード・商談のスコアリング、高精度な売上予測、メールの自動生成といった機能を網羅。これにより、データに基づいた再現性の高い営業活動を可能にする

その本質は、既にSalesforceエコシステムを導入済みの企業向けエンタープライズ級ソリューションであり、比類なき拡張性とカスタマイズ性で独自のAI活用を実現する。

次に取るべきアクションをAIが提案「Magic Moment Playbook」

Salesforceなど既存CRMの上で動作する、営業実行のインテリジェントレイヤー。CRM活用の「ラストワンマイル」である、データ入力の負荷やデータ品質といった課題の解決に特化する。

中核機能の「AIデータキャプチャ」が、電話やWeb会議など全ての営業活動を自動で記録・CRMに反映。そのデータを基に、次に取るべき最適なアクションをAIが提案する。Microsoft Teamsとのユニークな連携により、営業担当者が慣れた画面で作業できる点も特徴だ。

まとめ:AIは仕事を奪う敵ではなく、可能性を広げるパートナー

最後に、これからのAI時代でさらに活躍を目指す営業担当者へ、有薗氏が送るメッセージを紹介する。

──AIには真似できない、人間にしかできない営業の仕事とは何でしょうか?

有薗: 繰り返しになりますが、「相手を惹きつけること」は人間にしかできないと思います。先のAI面接官の例のように、AIは正確な説明はできても、顧客に「買いたい!」という思いを抱かせることはまだ難しいでしょう。顧客と直接対峙する場面では、人間がその役割を担うべきです。

──AI時代に勝ち残る営業担当に必要な「人間力」とは?

有薗: AIをうまく活用し、自分がやるべき業務を理解して伸ばせる人は、今後も勝ち残っていくでしょう。そして、相手の気持ちを汲み取り、将来を見越した提案ができると、より多くの成果を出せるはずです。AIの普及で、顧客は必要な情報に自らたどり着けるようになりました。だからこそ、これからの営業担当は「欲しいと思っていない人を探し出し、魅力を伝える」能力が必要です。こうした「想像力」を持った人が、AI時代を生き抜く「人間力」を備えた営業担当だと考えています。

──最後に、AIと向き合うSaaS営業担当へのメッセージをお願いします。

有薗: AIができることはAIにやらせるべきです。その空いた時間を、自社の商材や自身の営業力と向き合う時間に充てましょう。AIは仕事を奪う敵ではなく、営業担当の可能性を最大限に引き出すパートナーです。賢く活用することで、SaaS営業担当の未来はさらに明るいものになるでしょう。

 

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