自治体でRPAはどう活用できるのか?分野ごとでの実例も紹介!

自治体でRPAはどう活用できるのか?分野ごとでの実例も紹介!

記事更新日: 2023/08/04

執筆: 遠藤亜美

近年、民間企業ではRPAの導入が進んでいますが、自治体でも「業務の効率化」や「労働時間の削減」「人手不足の解消」などを目的に、導入するケースが増えています。

本記事では、自治体のRPAの導入状況や具体的な業務の活用事例、導入する際の手順などを解説します。

実際にRPAを導入して業務効率化に成功した自治体の例も紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。

自治体におけるRPAの導入率は低い?

まずは、全国の自治体におけるRPAの導入状況と、将来的な予測について解説します。
(参照:「自治体におけるAI・RPA活用促進」P4〜14

自治体でのRPA導入率

令和3年度における各自治体のRPA導入率は以下のようになっています。

  都道府県 指定都市 その他の市区町村
導入済み 91%(43) 95%(19) 29%(495)
実証中 6%(3) 5%(1) 6%(108)
導入予定 7%(126)
導入検討中 2%(1) 20%(343)
*1 9%(149)
*2 29%(500)

*1:導入を検討した、あるいは実証実験を実施したが導入には至らなかった
*2:導入予定もなく、検討もしていない

この数値から、都道府県や指定都市では9割以上がRPAを導入していることがわかります。

その他の市区町村でも約6割が導入済み、あるいは導入に前向きな姿勢を示しており、少しずつではありますがRPAが浸透しはじめているようです。

導入率が低いとされている理由

上記の通り、過半数の自治体でRPAが導入(あるいは検討)されていますが、その他の市区町村の約4割は「導入しない」という結論を出しているのも事実です。

その理由としては、以下のようなケースが挙げられます。

  • 予算の獲得が難しい
  • どのような業務・分野で活用できるのかが不明
  • RPAを操作できる人材がいない

紙ベースでの管理が多い自治体において、新技術導入に向けた予算や人材の確保は簡単ではありません。

漠然と「RPAで業務を効率化できる」と言われても、具体的な導入効果をイメージしづらく、ほかの業務課題を優先してしまう、といった傾向があるようです。

将来的な予測

今後日本は、少子高齢社会の深刻化に伴い、働き手が減っていきます。

人手不足のなかで現状と同じ業務量をこなすことは不可能であるため、人の手を介さずにできる業務は、積極的にRPAに任せていく必要があるのです。

現時点ではRPAの必要性を感じていない自治体でも、数年後には必要になる可能性が十分にあります。

いざというときにスムーズに使えるよう、早めの導入検討をおすすめします。

自治体でのRPAの活用方法

自治体の業務におけるRPAの活用パターンは、大きく4つに分けられます。

  • データをシステムに入力・登録する
  • データを確認・照合する
  • データを集計する
  • 個別帳票を作成・通知する

データをシステムに入力・登録する

自治体の業務では、データの入力・登録作業が多く発生しますが、このような定型作業はRPAの得意分野です。

人が行うと膨大な時間がかかる上、誤字脱字などの人的ミスも起こりがちですが、RPAであれば、大量のデータをミスなく迅速に捌くことができます

データを確認・照合する

データの確認や照合作業も、自動化しやすい作業のひとつです。

RPAが、あらかじめ設定したルールに乗っ取って、データの正誤をチェックします。

エラーが出た場合のみ人の目で確認するという対応を取れば、大きな工数削減につながります

データを集計する

自治体には複数の申請書や明細書が届きますが、それらを目視で確認して集計する作業にかなりの労力を費やします。

RPAを活用すれば、人より遥かに短い時間で集計することができ、見やすいように一覧表などにまとめることも可能です。

個別帳票を作成・通知する

各部署や外部への帳票を作成・通知する作業も、自治体で頻繁におこなわれている業務のひとつです。

RPAを活用すれば、以下のような一連の流れを自動化することができます

  1. システム内でまとめている全体データから対象者の情報を抜き出し、帳票を作成
  2. 作成した帳票を添付して、対象者にメールを送信する

【分野別】RPA活用で見えた効果

ここからは実際に、上記のパターンにどんな業務が当てはまるのか、RPA導入の効果を得やすいといわれている、以下3つの分野を例に解説します。
(参照:「自治体におけるRPA導入ガイドブック」P10〜60

  • 財政・会計・財務
  • 健康・医療
  • 組織・職員

財政・会計・財務

活用パターン 業務例
データをシステムに入力・登録する ・収入調定書の作成
・支出帳票の作成
・公会計システムへの入力
個別帳票を作成・通知する ・予算執行状況の各部署への通知
・委託実績 の委託先への通知


財務会計の分野では、歳入・歳出管理などの業務で財務会計システムを利用しますが、この入力作業をRPAに代行させることで、業務全体の効率化を図ることができます

例えば、「収入調定書」を作成する場合、業務システムなどから出力したリストをもとに、RPAが財務会計システムに転記、登録、帳票出力までを実行します。

同様の流れで、「納入通知書」や「還付命令書」の作成も可能です。

健康・医療

活用パターン 業務例
データをシステムに入力・登録する ・レセプト点検結果の入力
・健康診断結果の入力
・高額療養費申請書の入力
データを確認・照合する ・世帯情報の確認
・所得状況などの調査
・訪問先地図の作成


健康や医療の分野では、健康診断の予約・結果や、レセプト点検結果などの入力作業をRPAに任せることができます。

また、「所得状況などの調査」のような、これまで職員が個別に判断していた業務についても、判断内容をRPAへ定義付けすることができれば、自動的に処理することが可能です。

手当や減免など、審査過程で世帯の所得状況を考慮する場面も多いため、個別事例を自動で判断できるのは大きなメリットといえます。

組織・職員

活用パターン 業務例
データを集計する ・時間外勤務時間の集約・集計
データを確認・照合する ・旅費の審査
・通勤手当の審査
個別帳票を作成・通知する ・人事情報の通知
・各部署への勤怠状況の通知
・各部署・職員への研修受講状況などの通知


RPAは職員の勤怠管理や人事情報の管理などにも活用できます。

各種申請や申し込みの結果などを、職員・各部署に個別通知ができるため、職員数が多い自治体であるほど、負担の軽減につながります。

とくに「通勤手当の審査」においては、インターネット上の情報をもとに自動でルート検索などを行ってくれます。

手動でひとりずつ通勤状況をチェックするのは膨大な時間がかかるため、この部分を削減できれば大きな業務効率化につながります。

【成功実録】自治体でRPAを導入して変わったこと

それでは具体的に、RPAの導入によってどのような変化が現れたのか、各自治体の成功事例を3つご紹介します。
(参照:「自治体におけるRPA導入ガイドブック」P64〜85

  • 静岡県藤枝市
  • 東京都狛江市
  • 長野県塩尻市

静岡県藤枝市

【導入前】
藤枝市では、さまざまな市民のニーズに対応するため、新サービス提供を積極的に進めていました。しかしその一方で、新業務の追加による残業時間増加などの課題も発生しており、業務改善施策の実施が必要な状況でした

とくに、令和元年6月からスタートした「ご遺族手続き支援コーナー」の対応にあたっては、手続きに必要な故人の情報を集約するため、多くの職員が時間を割く必要があったのです。

具体的には「各課がシステム上で情報を検索してそれぞれ死亡者情報台帳に転記する」という作業が必要でした。

【導入後】
予約内容を記載した台帳をもとに、RPAが住民情報システム内を検索し、必要な情報を取得して死亡者情報台帳に転記・保存できるようになりました。

もちろん、すべての情報の入力を自動化することはできませんが、システムから取得できる情報はあらかじめ入力されているため、各担当課が情報を補完するだけで、死亡者情報台帳を完成させることが可能となったのです。

具体的な効果
  • 住民情報、個人住民税、収滞納管理、健康管理、就学などの業務で、年間1,302時間程度を削減(削減率は業務により50~98%)
  • ご遺族手続き支援コーナー資料作成業務では、年間82.5時間の削減(削減率80%)

東京都狛江市

【導入前】
狛江市では、嘱託職員3名によるレセプト(診療報酬明細書)の資格点検、内容点検などを実施しており、被保険者一人あたりの財政効果額は「都内26市中で毎年上位」に位置していました。

しかし順位は年々下がり、平成29年度には最も低い成績となったことから、レセプト点検業務の見直しが必要になりました。

【導入後】
レセプトデータを「レセプト自動点検システム」に取り込んで、AIによる診療(調剤)内容の点検処理を行います。

再審査が必要なレセプトについては「再審査請求用の外部点検結果データ」が自動作成されるので、RPAが国保総合システムを操作し、外部点検メモに基づいて再審査の申出を登録する、という流れです。

ほかにも、診療日時点における資格状況を点検し、医療機関への返戻対象となるレセプトが抽出されたら、RPAによって国保総合システムへの登録(過誤の申出)を行うこともできます。

具体的な効果
  • 年間4,212時間の削減(削減率97.5%)
  • 過誤、または再審査の件数が「月80~90件→月500~600件」に増加
  • 処理日数が「20日程度→1日~1日半程度」に短縮

長野県塩尻市

【導入前】
塩尻市では、業務複雑化と増大が市役所全体の課題となっていました

とくに保育園の受け付け窓口業務(保育園の入園申込受け付けから決定通知発送までの一連の業務)は、近年の保育ニーズの増加によって負荷が大きくなっており、繁忙期には時間外勤務が圧倒的に増加していました。

【導入後】
保育園の入園申込みを電子申請サービスによる受け付けに変更しました。

電子化することで形式的な不備については申請時に即座にチェックできるため、職員による確認の手間を軽減できます。

引き続き紙での申し込みも行ってはいましたが、令和元年度には電子申請率は97%という高い水準になりました。

また、申請内容のチェックが完了したデータをダウンロードし、RPAによって保育システムへの入力も行えます。

申請データや保育システムの登録データに基づき、利用調整に必要な帳票(利用調整児童一覧)も自動作成できるようになりました。

従来は手入力に時間がかかるため、利用調整とシステム入力を連動できませんでしたが、システム入力の時間を短縮したことで、重複作業を発生させない効率的なフローを構築できたのです。

具体的な効果
  • 保育園受付窓口業務のうち、年間2,090時間削減(削減率67.6%)
  • 臨時職員出退勤管理・賃金支払業務のうち、年間322時間削減(削減率79.1%)
  • 受付から決定通知発送までの期間を「約3.5ヶ月→約2.5ヶ月」に短縮(28.6%の削減)

自治体でRPAを導入する時に注意すべきこと

実際にRPAを導入する際は以下の点に注意しましょう。

  • 最初は小さな規模からスタートする
  • RPAを操作できる人材を確保・育成する
  • セキュリティ対策を万全にする

最初は小さな規模からスタートする

RPAを導入する際は、いきなりシステム全体を置き換えるのではなく、「簡易的な業務のみ」「特定の部署のみ」といった小さな規模からスタートすることをおすすめします。

万が一失敗した場合のリスクを最小限に抑えられるという点はもちろんのこと、検証結果を早く得ることができる、それによってほかの業務への展開がイメージしやすくなる、など多くのメリットを得ることができます。

小さな成功体験を積みながら、徐々に対象業務の範囲を広げていきましょう。

RPAを操作できる人材を確保・育成する

RPAの操作にあたっては、プログラミングのような複雑な知識は必要ありません。

とはいえ、一定ラインのITリテラシーがなければ扱うことは困難です。

各部署に利用法を浸透できるよう、定期的に勉強会を開催するなどして、RPAに携われる人材を増やしていく必要があります。

セキュリティ対策を万全にする

RPAを含むITツールには、外部からの不正なアクセス、設定ミスによる誤作動など、さまざまなセキュリティリスクが存在します。

これらのリスクを回避するためには、「RPAの作業権限を必要最低限に抑える」「パスワードを暗号化しておく」「専門の対策部署を設ける」などの対策が必須です。

業務を自動化することに伴うリスクと、その対策法をしっかり理解した上で、RPAの導入を検討しましょう。

RPAを導入するまでの5ステップ!

実際に自治体でRPAを導入する際は、以下のステップを踏みましょう。

  1. 情報収集を行い導入対象業務を選定する
  2. 導入体制を整備する
  3. 利用ツールを選定する
  4. 導入前にトライアルを活用する
  5. 一部業務から徐々に本格導入する

1. 情報収集を行い導入対象業務を選定する

まず、現在人がおこなっている業務のフローと作業量を見える化し、自動化したい範囲を洗い出します

RPAが得意な業務としては、「検索・参照・登録・集計・抽出」などが挙げられますが、以下のような条件も選定する際の基準になります。

  • 典型的な活用パターンを持つ業務か?
  • 複雑な判断を必要としない業務か?
  • 大量の処理を繰り返し行う業務か?
  • 業務時間数が多い業務か?
  • 即時対応が求められず、まとめて行える業務か?

これらを踏まえて、人が行うよりも時間や工数を削減できる業務を選定しましょう。

導入体制を整備する

導入する業務を決めたら、スムーズに利用するための「担当者」を検討する必要があります。

RPAの導入を円滑に進めるためには、業務に関する詳しい知見を持ったうえで、ある程度ITの知識を持ち合わせている人員を配置することが望ましいです。

  1. 外部事業者へ委託する
  2. 情報政策担当課の職員が内製化する
  3. 業務担当課の職員が内製化する

上記の3つが選択肢として考えられますが、どれかひとつに決める必要はなく、必要に応じて複数の手段を組み合わせることも有効です。

例えば「単純なシナリオは業務担当課で作成して複雑な部分は外注する」などの進め方もよいでしょう。

利用ツールを選定する

自治体でRPAの製品を調達する方法には、2つのパターンがあります。

  • 一般競争入札:複数のツールから入札で調達する
  • 特定調達:製品を特定して調達する

一般競争入札であれば幅広い選択肢から検討できるため、自治体の状況や予算に合わせて柔軟に選べます。

しかし、RPAは段階的に導入されることが多いため、入札も複数回に分かれてしまい、さまざまなツールが自治体内で混在するリスクがあります。

特定調達の場合は、自治体でツールを統一できるため、管理の手間がかかりません

しかし、各社間での競争が発生しないため、費用は高くなりがちです。

どちらが正解というわけではありませんが、将来的な導入展開を見据えて、調達方法を検討する必要があります。

導入前にトライアルを活用する

無料か有料かは各社で異なりますが、RPAの製品にはトライアル期間が設けられているものが多くあります。

この期間を利用して、自動化したいソフトが上手く稼働するか、簡単にシナリオが作成できるか、などを確認することができます。

実際に使ってみたら「対象業務が自動化に向いていなかった」ということもあり得ますので、導入後に後悔しないためにも、トライアルは積極的に活用しましょう。

一部業務から徐々に本格導入する

トライアルで顕在化した問題点を改善したら、いよいよ本格的な運用がスタートします。

上章で解説したように、まずは小さな規模の業務からはじめて、徐々に対象範囲を広げていきましょう。

スモールスタートした業務は、導入前と比べて「どれほど課題を解消できたか」をデータ化しておくことで、今後の施策の実施に活かせます。

まとめ

今後、RPAの導入は全国の自治体で進んでいくと予想されます。

参考となる導入事例も増えてきているため、導入へのハードルは着実に下がっていると言えるでしょう。

RPAができること・できないことを理解し、成功事例も参考にしながら、各自体の状況に合った導入方法を見つけていきましょう。

画像出典元:O-DAN

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