家入一真・櫻本真理が描く「起業家にやさしい世界」とは

家入一真・櫻本真理が描く「起業家にやさしい世界」とは

記事更新日: 2019/03/11

執筆: 狐塚真子

起業に失敗したら「自己責任だ」と、強者の理論が根強く残るスタートアップ界隈。

そんな状況に待ったをかけた人物がいる。 家入一真氏(ベンチャーキャピタルNOW株式会社 以下NOW)櫻本真理(株式会社cotree 以下cotree)だ。

2018年11月より、cotreeは起業チーム向け支援プログラムである「escort(エスコート)」の提供を開始した。

NOWをはじめとする国内の主要VC各社との連携も話題になっているが、このサービスを通してお二人が目指していきたい世界観はどのようなものか、またスタートアップ界隈のメンタルヘルスケアの問題についてお話してもらった。

ベンチャーキャピタルNOW株式会社 家入一真氏

株式会社paperboy&co.(現GMOペパボ)を創業し、JASDAQ上場。退任後、株式会社CAMPFIRE創業、代表取締役社長に就任。他にもBASE、partyfactory、XIMERAの創業、駆け込み寺シェアハウス「リバ邸」の全国展開、ベンチャーキャピタルNOW設立など。

株式会社cotree 櫻本真理氏

ゴールドマン・サックス証券退社後、2014年に株式会社cotreeを設立。「やさしさでつながる社会をつくる」を理念に、オンラインカウンセリング「cotree」、頼みごとができるコミュニティの「takk!」、起業家のメンタルサポートの「escort」などを運営。

心が折れてしまうその前に気づきたい

ー今回、起業家のメンタルヘルスについて課題感を持っている家入さんと櫻本さんがどうして一緒にやることになったのでしょうか?

櫻本:今年5月にリリースした、頼り合えるコミュニティサービスのtakk!を作っている段階で、家入さんの思想に共感することがすごく多かったんです。ご相談したいなと思って、今年の6月頃にお時間をいただきました。

 

ー割と最近のことだったんですね。

家入:U2plusという、うつ病からの回復を目指すコミュニティがあったんですが、僕はその会社に株主・取締役として関わっていたんです。サービス売却後、運営者の東藤くんがCAMPFIREに来たんですが、彼に櫻本さんを紹介してもらいましたね。

takk!だったり、櫻本さんが以前からやられているオンラインカウンセリングサービスのcotreeもめっちゃいいなと思っていたので…「好きです。」って。(笑)

告白かと思いました…

家入:NOWは今後投資先も増えていきますし、支援体制の中でcotreeやtakk!のようなサービスを起業家に対して提供できるのではないかと思ったので「起業家向けのメンタルサポートサービスはできないだろうか」と相談をさせてもらいました。

ーUNLEASHのほうでescortの事業に関する記事が出ていたと思うんですが、その後反響や変化はありましたか?

櫻本:起業家さんからは特に大きな反響がありました。「ストレスが大きく、弱音を吐きたい時に相談できる人がいなかった」「利害関係なく自分のことを話せる人がいるのはありがたい」と。事業を継続していく中で自分のメンタルの状態やコントロールに対して課題意識をもっている方も多かったですし、漠然とした不安や抑うつ感・不眠症状の問題を持っている方もいらっしゃいました。

うちの会社で4年前から運営しているオンラインカウンセリングサービスでは職業別にデータをとっていますが、分析していく中で経営者からの相談の特徴が見えてきました。「家族関係が上手くいっていないので、安心できる居場所がない」「身近な人に相談できない悩みが多く、お金を払ってでも相談できる第三者を必要としている」とか。

あとスピリチュアル的なものを信じる傾向もありましたね。これは、依存できるものが少ないことの現れでもあると思います。

家入:これまでの投資先の中にも、途中で心が折れてしまって事業を辞めてしまう人もいました。心が折れてしまった後は、鞭打って「もう一回頑張れ」とか言えないですよね。

もっと早く気付いてあげられたら、違う結果があったんじゃないか」って思う事も多々あります。

「最近ちょっと、心がやばいんです」と向こうからアラートを出してくれたりとか、TwitterやFacebookを見て「なんだか発言がおかしいな」と思ったりしたときに「最近大丈夫か?」と気付けるケースもありますけど。全部が全部気付いてあげられるわけじゃないですし。

突然訪れた後輩の死

家入:僕がメンタルヘルスについて考えるきっかけがありまして。僕の後輩の起業家の話です。

彼は売却に成功して2度目の起業をしていました。ネットでは有名で、「次は何やるのか?」と期待されてたんですよ。割と明るいやつで、サシで会ったりすると「家入さんと話をしてると楽になるし、毎月会いましょう」みたいな話もしていたんですが。

その3日後かな、矢先に亡くなってしまったんです。ちょっとでも様子がおかしいと気付いてあげられたら良かったんですが、SNSの投稿も変わりないですし、兆候が無かったんです。悔しくて悔しくて。

でも、最終的には「彼自身が人生の終わりを決意をもって決めたのなら、それを尊重するしかない」と受け入れようと言う気持ちになりました。この出来事は僕自身の人生観とか死生観に大きく影響を与えているんですよね。

あと、僕自身がもともと「起業してリーダーシップを発揮してグイグイ」って感じのタイプではなくて、消去法で起業を選んだ感じで。定期的に「誰にも会いたくない」みたいなことも波のように存在します。

起業って自分でリスクを抱えることですし、自己責任の中でやることだとは思いますけど…

少なくとも投資をしたり、起業を促したりする立場の人間が「起業しようよ」という一方で、起業後のケアをせずに「起業は自己責任だ」というのは違うかなと思います。

あまりにも無責任だなと。自分が切り捨てられる側になる想像はしないのかなと思います。

業界全体を巻き込んだインフラにしていきたい

ー意外と投資家さんのほうも、サポートする側の人間として病んでる場合も多そうですよね。投資家さんから連絡は来ていないですか?

櫻本:正式なローンチに当たっては、20社近くのVCさんにスポンサー・パートナーとして連携をさせていただくことになりました。

メンタルの問題は、起業家自身のほうから助けを求めることが難しいので、投資家を含めて業界全体で「メンタルの問題は誰に起こっても珍しくない、それをケアするのも起業家にとっては必要なことである。それを自分たちはサポートしている」という空気をつくっていけると良いと思います。

ただ、まだまだ反応は二極化している印象ですね。

シード投資とかエンジェル投資をされる方はメンタルヘルスについて問題意識を持たれていて共感してくださるケースが多いんですが、大きな投資をされる方ほど「そういう人には投資しないから。」っていうスタンスでおられる方もいます。

アメリカなどではメンタルの問題を起業家が当然に向き合うべきものであり、育てるべきスキルであると捉えていることに比べると、日本ではまだまだメンタルの問題への意識が低いように思います。

ただ、理解を示してくださる投資家さんもたくさんおられるので、これから変わっていくのではないかなと。

 

ーなるほど…もう少し事業が進んでいけば、escortさんはスタートアップ領域全体のメンタルヘルスの啓蒙活動に関わっていくかもしれないですね。

櫻本:是非やっていきたいですね。起業家にとってのインフラのようになっていくと良いと思います。

以前スタートアップでうつ病を発症して、現在YOUTURNを経営されている中村さんなどはご自身の辛い経験も発信されていますよね。先人の事例って参考になりますし、失敗のストーリーって実際は多く存在するはずなのに語ろうとする人が少ないじゃないですか。

そういう方ってすごく貴重だなと思いますし、同じ問題意識を持った方と連携をしながら進めていきたいと思っています。

自分の性格や悩みについての理解を深めることから

家入:櫻本さんとescortが出来るまでにどんなサービスにしていくかということについてディスカッションをしたんですけど、沢山学びがありました。

僕は「こういうのがあったらいいじゃん!」と、思いがどんどん先走ってしまうんですが、櫻本さんから「起業家は、いきなりメンタルの問題を提起されたら『俺大丈夫だし。』って答えて、サービスを利用しようとしないはずです。」と教えてもらって。

納得しましたね。だからまずは、健康度が高い起業家にとっても学びがあるコーチングから始めることにした、とか。

まず性格行動特性の診断テストを受けた上で、それを踏まえてコーチングを実施していくのですが、僕自身、これまでコーチングを受けたこともなかったですし、「お前はこういう人間だ」と決めつけられるような偏見があって。警戒している部分もありました。

でも受けてみたらすごく良くって。否定もされないし、診断テストの結果の分析も踏まえつつ、自分の性格や悩みについての理解を深めてくれるんです。

櫻本:1対1で「じゃあ悩みをどうぞ話してください」っていわれても急に話せないじゃないですか。だからescortでは診断テストの結果を見ながらそれを材料にして話を深めていく形式をとっています。

話している中で、「診断テストではこんな風に出てますけど、どうですか」などと材料を提供していくと、より深い困りごとや自分の弱い部分を言語化しやすくて、自分の課題の構造理解につながったりするんですよね。

自己理解は同時に他人を理解することでもあるので、他人とどう接するべきかという事への意識が深まったり、自分の強みの活かし方を考えていくきっかけにもなったりします。

escortでは、1回目の対面コーチングと、その後のSlackでのサポートは起業家は無料で受けられます。

必要があれば、担当コーチがその人や従業員に合った精神科医や臨床心理士を紹介するなどのセーフティネットとしても機能します。1回担当コーチの目のコーチングを受けているので、その後メンタルの問題で何かあったときに相談しやすい関係づくりができるんですよね。

自分でも従業員でも、メンタルの問題って起こってしまってから「誰に相談しよう」と探すのは大変じゃないですか。「仮にメンタルの問題が起こったらいつでも相談できる第三者」との関係づくりのきっかけとして、コーチングを受けていただくイメージです。

ちなみに、1回の対面コーチングのあと、その後の対面での面談を行いたい場合や従業員にも追加でアセスメントを受けてもらう場合は有料になります。

 

ー1回あたりどのくらいの時間をかけて、どのようなアセスメントを行うんですか?

櫻本:パーソナリティのアセスメントで、Big5や動機付け理論に基づいた性格行動特性やソーシャルスタイルなどを分析します。結果をグラフ化したシートをお渡ししてそれを一緒に見ながら深掘りをしていきます。セッションの時間は1時間半くらいですね。

 

ー1時間半で深掘り出来るんですね…

櫻本:そうですね。何もない状態だと難しいですが、テーマや課題を設定して話をしたり、診断テストで示される数字を見ながら話をしていくと「確かにここは自分の問題だ」などと気付けるんですよね。

 

ー起業家の家をやっているときに6時間とか徹夜でコーチングをやっていたりしたので興味深いですね。

櫻本:ぜひ受けてみてください(笑)

 

ー起業家のフェーズによって悩みは変わってきそうだなと思うのですが、どういうケースが多いですか?

櫻本:スタートアップで多いのは、0→1が終わって、1→10で人を巻き込んでいくとき。そういうときにこそ、escortのコーチングが役に立つと思います。

0→1のときももちろん大変なのですが、それは産みの苦しみとして乗り越えなければいけないことも多い。

一方、1→10のフェーズでは、より人間力が問われる場面が増えたり、他者と関わることの難しさに直面したりして、自分自身を「人」として育てていく必要性が出て来ます。

 

ー事前申し込みを開始後、300名くらいの起業家からお申し込みがあったということですが、どんな体制で運営していくのですか?

櫻本:まずは第1期は12月に40名。その後毎月40名ずつ、1年間でおよそ500名の起業家をサポートしていく予定です。

コーチとしては現在2名ですが、すでに育成も開始しています。コーチはある程度トレーニングを受けている人に起業家界隈の特殊性を教える必要性があると思っています。

 

「メンタルの問題に向き合うのは当たり前」という空気感を作りたい

ー今後家入さんと櫻本さんで連携をされていくと思うんですが、サービス展開やお二人が目指したい世界観があれば教えてください。

家入:この活動はVCさん投資家さん含めてもっと広がっていってほしいと思っていますね。投資した先の起業家のメンタルが穏やかであることって、投資家としても利益を最大化できると思うんですよ。

起業が失敗に終わったとしても、その後の人生は続いていくわけなので、起業した後に生きていくことが出来る環境や仕組みがあればもっと挑戦するハードルが下がると思います。場所を作るってそういうことですよね。

櫻本:環境的には誰でも起業がしやすくなって、色んな起業の形が増えていく中で、必ずしもメンタルが鋼の人だけが起業するような世の中ではなくなっていくと思います。

メンタルで問題を抱えることは珍しくなくて、先輩もこんな風に悩んでいたんだよっていう話を聞ける機会や、何かあってもサポートしてくれるという安心感や、失敗を許容して応援してくれる空気感が社会の中にに生まれればこのプロダクトとしては成功だと思っています。

何かあっても大丈夫、次の挑戦ができる、と安心して起業できるようになっていくと嬉しいですね。

起業家としても投資家としても、様々な経験をした家入さんが関わってくれているからこそ、我々もこのような取り組みができるわけなんですが。この問題に対する認知が高まっていくといいと思います。

 

ー最後に、起業家・起業家を支援する人に向けてメッセージをお願いします。

櫻本:メンタルの問題って、起こってからでは助けてって言えなくなっちゃうんですよね。気付くとお仕事に行けない状態になってしまうんです。「自分にはそんなことあり得ない」と言っている人の方が問題を抱える可能性もあって

そうなる前に抱え込まずに済むような環境にいてほしいなと思います。不安や弱さをさらけ出せるような人を作っていく、または探してもらえると良いなと思っています。家族や支援者など、まわりの人の中にもそれを支える空気が生まれていくと良いですね。

家入:そうですね。この取り組みをもっと広げていきたいと思っています。

メンター制度ってありますよね。メンターは当然責任も重い立場だと思うんですが、結局は自分の人生観に基づいていないアドバイスをすることが難しいんですよね。

僕みたいに、しんどかった時に逃げたことでどうにかなっていた経験がある人だったら「逃げろ」って言うだろうし。努力と根性で乗り越えてきた人がメンターだったら「踏ん張れ」って言うと思うんです。

なるべく「聞く」態度で接したいと思っていて。その中で複数の選択肢を提示できる「伴走者」のような立場でありたいと思っています。だからこそ、escortのように資格を持たれた方が対応しアドバイスしてくれるのが良いなと思っています。

あと最近また「自己責任」という言葉が出てきていますよね。僕はその言葉が出てきたら脊髄反射で「嫌い」と言ってしまうくらい嫌いなんですよ。

自己責任で片付けられてしまう世の中って底が抜けていて。そういう発言をする人は安全だという前提でその発言をしているわけですよね。当事者になる可能性は往々にしてあるわけで。

「日本の同調圧力が良くない」とか「空気読まないのは良くない」とか言っている割に、「自己責任だ」と言っている人が多いのは、なんか…やさしくないなって。

やさしい世界にしたいと思っています。

 

ーありがとうございました。

取材者プロフィール

栗島祐介

プロトスター株式会社代表取締役CCO (Chief Community Officer) 早稲田大学商学部卒。アジア・ヨーロッパにおいて教育領域特化型のシード投資を行う株式会社VilingベンチャーパートーナーズCEOを経て、当社を設立。HardTech領域の起業家支援コミュニティ「StarBurst」の運営総括、起業家・投資家の情報検索サービス「StartupList」の運営を行う。
狐塚真子

この記事を書いたライター

狐塚真子

津田塾大学英文学科に在学。趣味は映画鑑賞、ダンス、旅行、ライブに行くこと。

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