会社の経営者や経理担当者にとって避けて通ることができないのが税金の支払です。
会計上の利益に税率を掛ければ支払う税金が計算できるわけではありません。また会計上では経費となっても、税務上では認められないものがあります。
今回は法人税率や法人税の種類、基礎知識から計算方法などを解説します。
このページの目次
法人税は法人が事業を行うことで得た利益(所得)にかかる税金です。
まずは法人税の概要を説明します。
法人税は法人が事業活動を通じて得た利益(所得)にかかる税金です。
所得税が個人の収入(所得)に対して、課せられる税金であるのに対して、法人税は法人の税務上の利益(=所得)に対して課税されるものです。
法人税は、所得税と同じように国に対して治める税金です。
法人税は事業年度における所得に対して課せられる税金です。事業年度とは、法人税を計算する際の基準となる期間のことです。事業年度は、法人の定款などに定めている会計期間と同じです。
また企業グループの場合に企業グループを1つの納税単位とする連結納税制度での所得に対する法人税や、特定信託の所得に対する法人税、退職年金等積立金に対する法人税などもあります。
法人には、①普通法人 ②協同組合等 ③人格のない社団等 ④公益法人等 ⑤公共法人といった種類があります。
法人の種類により、法人税の課税対象となるものと、ならないものがあります。
法人の種類 | 法人税の課税の有無 | |
①普通法人 | 株式会社、有限会社、医療法人など | すべての所得に対して課される |
②協同組合等 | 農協、信用金庫など | すべての所得に対して課される |
③人格のない社団等 | PTA、町内会、同窓会やマンションの管理組合など | 収益事業による所得のみに課される |
④公益法人等 | 宗教法人、学校法人など | 課税されない |
⑤公益法人 | 地方公共団体、日本政策金融公庫など | 課税されない |
一般的な株式会社や有限会社、医療法人などの①普通法人と、農協や信用金庫などの②協同組合等は、全ての所得に対して法人税が課税されます。
PTAや町内会、同窓会やマンションの管理組合などの③人格のない社団等では、収益事業がある場合に収益事業による所得にのみ法人税が課税されます。
宗教法人や学校法人などの④公益法人や、地方公共団体や日本政策金融公庫などの⑤公共法人には法人税は課税されません。
法人税は法人が事業を行う中で得た利益(所得)にかかる税金です。
個人の所得に対して課税される所得税と同じように国に対して治める税金です。
法人税=課税所得×法人税率
地方法人税は、国が各地方自治体に交付する地方交付税の財源となるものです。
地方という名前がついていますが、地方自治体に納める税金ではなく税務署に納める国税の一種です。
地方法人税=法人税額×地方法人税率
法人事業税は、法人が事業を行うにあたって使用する、消防や警察などの公共サービス、道路や港湾などの公共施設・設備について、維持費の一部を負担する目的で課税するものです。法人の事業所がある都道府県から課せられる地方税です。
なお、法人事業税は損金算入が認められています。
法人事業税=課税所得×法人事業税
法人住民税は、法人の事業所がある自治体から課せられる地方税です。
法人都道府県民税と法人市町村民税があります。
法人住民税は、法人税額に法人住民税率を掛けて計算される「法人税割」と、法人の資本金や従業員数などから定額に賦課される「均等割」によって構成されています。
均等割部分については、たとえ所得が赤字であっても、課税される税金ですので、注意が必要です。
法人住民税=法人税割(法人税額×法人住民税率)+均等割
①法人税②地方法人税③法人事業税④法人住民税までを、「法人税等」と呼びます。
また実効税率という言葉がありますが、実効税率は、法人の実質的な所得税負担率のことを言います。
具体的には、法人税額+地方法人税額+法人事業税額+法人住民税額の合計額が、課税所得に占める割合です。
法人税率は会社の所得に対して課税されます。
法人税の具体的な税率をみてみましょう。
法人税率は、所得の大小に関わらず一律の税率が適用されます(比例税率・固定税率)。
累進課税制度が採用されている個人所得は、所得が多いほど税率が高くなります(超過税率)が、法人税はそうした仕組は採用されていません。
また法人税率は、法人の種類や資本金の金額などにより変わってきます。
資本金規模1億円以下もしくは出資金等のない中小法人の場合の、法人税率は以下の通りです。
所得金額 | 税率 | (優遇措置)* |
800万円以下の部分 | 19% | (15%) |
800万円超の部分 | 23.2% |
*上記の法人に対しては優遇措置として、所得金額が年800万円以下の部分に15%の税率が適用されます。
その他の普通法人の場合の、法人税率は以下の通りです。
所得金額 | 税率 |
(所得に関わらず) | 23.2% |
その他の税率については国税庁のHPをご覧ください
地方法人税の税率は令和元年9月30日までは4.4%ですが、令和元年10月1日以後の開始事業年度からは10.3%と2倍以上に引き上げられます。
税率 | 税率*1 | |
地方法人税 | 4.4% | 10.3% |
*1 令和元年10月1日以後に開始する事業年度に適用される税率
地方税のため各都道府県によって異なります。
税率 | 税率*2 | |
市町村民税 |
標準税率9.7% |
標準税率6.0% |
道府県民税 |
標準税率3.2% |
標準税率1.0% |
*2 令和元年10月1日以後に開始する事業年度に適用される税率
地方税のため各都道府県によって異なります。
東京都において資本金1億円以下の普通法人の場合
税率 | 税率*3 | |
課税所得 |
3.4% | 3.5% |
課税所得 |
5.1% | 5.3% |
課税所得 |
6.7% | 7.0% |
*3 令和元年10月1日以後に開始する事業年度に適用される税率
法人税の計算方法は
法人税=課税所得×法人税率
と非常にシンプルに見えます。
しかしその中身は若干複雑です。会社の会計で用いられる利益の計算方法とは少し異なる点があるので注意が必要です。
まずは「利益」と「所得」について考え方を整理しましょう。
「利益」とは、会計的な考え方に基づいており、会社の経営成績を示すものです。売上収入から費用・経費支払を差し引いたものです。
利益=収益-費用
「所得」とは、税務的な考え方に基づいており、税金の計算の基礎となる数字を示すものです。
税法においては税金を計算する上での収益を「益金」、費用のことを「損金」と呼びます。所得は、益金から損金を差し引いたものです。
所得=益金―損金
所得の計算については次のような流れで行われます。
会計上の利益(税引き前利益)=収益―費用
詳しくは後述しますが、法人税の計算上、益金・損金として考慮するものを加減します。
課税所得=税引き前利益+益金算入―益金不算入―損金算入+損金不算入
法人税額=課税所得×法人税率
資本金1億円以下の普通法人で、会計上の利益を300万円と仮定して、法人税額を計算してみましょう。
税引き前利益=収益-費用=300万円
益金にならないもの100万円・損金にならないもの200万円があると仮定します。
課税所得=税引き前利益+益金算入―益金不算入―損金算入+損金不算入
=300万円-100万円+200万円
=400万円
法人税額=課税所得×法人税率
=400万円×15%
=60万円
法人税額は60万円となります。
所得を算出する際にポイントとなる「益金」「損金」とは、どのようなものでしょうか。
「益金」とは、会計でいうと売上にあたるものですが、税金の計算するうえでの収益です。
「損金」とは、会計でいうと費用・経費にあたるものですが、税金を計算するうえでの費用です。
「所得」とは、会計でいうと利益にあたるものですが、税金を計算するうえでは、収益から費用を差し引いた金額、つまり益金から損金を差し引いた金額になります。
所得=益金―損金
益金とは、会計でいうと売上げにあたるもので、商品の販売やサービスの提供、資産の売却などを行った場合には益金となります。この際、金銭の受け取りがあった場合だけでなく、金銭の授受を行わなかった場合にも益金となります。
株式などの配当金などは、別の会社が法人税を支払った後の税引き後利益から支払っているものです。そのため配当金に対して課税すると、二重に課税されることになるため、受取配当金は益金にはなりません。
税金の還付は一旦税金を払い過ぎたものを再度計算して受け取るものです。そのため還付金に対して課税すると、二重に課税されることになるため、還付金は益金にはなりません。
会計上の費用と同じように仕入れや材料費などの売上を得るために必要な原価については、売上を得るためには必要なものであり、損金となります。
会計上の費用と同じように、販売費や一般管理費などの売上を得るために間接的に必要となる費用についても、売上を得るためには必要なものであり、損金となります。
固定資産を売却し損失が発生した場合や、商品が陳腐化し廃棄損が発生した場合などは事業を行う上で、発生しうるものであり、損金となります。
役員報酬や役員賞与は原則損金にはなりません。ただし定期同額給与や事前確定給与などの条件を満たすものについては損金になります。
一定の限度額の範囲内では損金として認められますが、一定金額を超える寄付金は租税回避に利用される可能性もあり、限度額を超えた部分は損金になりません。
法定年限により定められた償却限度額内では損金として認められますが、限度額を超えた部分は損金になりません。
同業種、同規模の会社に比べて明らかに過大である役員や役員の家族への給与支払いは損金とならない場合があります。
実際の所得計算にあたっては、会計上の利益額に益金と損金を加算・減算して所得金額を計算します。
課税所得=税引き前利益+益金算入―益金不算入―損金算入+損金不算入
・「益金算入」とは、会計上は収益に含めなかったが、益金として計上すること
・「益金不算入」とは、会計上は収益に含めたが、益金としては計上しないこと
・「損金算入」とは、会計上は費用に含めていないが、損金として計上すること
・「損金不算入」とは、会計上は費用に含めたが、損金としては計上しないこと
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、政府が緊急経済対策をまとめております。その中身について、法人税の引き下げなどの措置はあるのでしょうか。
(令和2年4月11日現在の情報です)
政府は令和2年4月7日に「新型コロナウイルス感染症経済対策における税制上の措置(案)」を閣議決定しました。
今後、関連税制法案が国会で審議され成立することが前提となりますが、その中での法人税に関するポイントは主に以下の通りです。
収入が大幅に減少した場合に1年間の納税猶予(担保不要・延滞税なし)を認める。
資本金1億円以下の法人に認められている青色欠損金の繰戻し還付について、資本金1億円超10億円以下の法人も適用できる。
中小企業等が特定経営力向上設備等の取得をした場合には、即時償却または7%(資本金が3000万円以下の場合には10%)の税額を控除できる。
本日現在で法人税率の引き下げという措置は検討されていません。
今後のコロナウイルス感染症の影響や、国内外の景気動向により、どのような追加の経済対策が打ち出されるかが注目されます。
法人税は法人の所得に対して課せられる税金です。
地方法人税・法人事業税・法人住民税と合わせて法人税等と呼ばれます。
法人税の計算においては、益金・損金という考え方や課税所得の計算方法は、しっかり抑えておきたいところです。
画像出典元:Burst、O-DAN
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