働き方改革とは、簡潔にいうと「労働者の働き方を見直して改善していこう」という動きをいいます。
元々は、国が「一億総活躍社会」を実現するための手段の一つとして取り組みを始めた「政策」でしたが、今では企業における就労環境の改善という文脈の中で使用されたり、あるいは労働者個人がワークライフバランスの見直しを図る際のキーワードとして使ったりしています。
つまり、一言で「働き方改革」といっても、国、企業、そして個人の立場から様々な取り組みが行われている、ということがいえます。一方で、3者にはそれぞれ働き方改革を進めざるを得ない事情がある、という点では共通している部分もあります。
今回は、国、企業、そして個人にとっての「働き方改革」について、それぞれ背景から具体的な動きまでを説明していきましょう。
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現在の日本は「超高齢社会」あるいは「少子高齢化社会」といわれるとおり、現役世代の人口減少に歯止めがかからない状況にあります。
これにより数年前から労働市場における「売りもの」である人材の不足が顕在化してきており、建築・土木業やサービス・接客業などを中心に、求人を出しても人がまったく集まらないという状況が常態化してきています。
当然、国としては労働人口の減少を大きな問題として捉えています。
現役世代と引退後の世代の人口比バランスを是正するためには、出生率を上げて将来の現役世代人口を増やさなければならないものの、そのために実行している各種政策の効果がなかなか表れていないのが実状です。
労働市場における人材不足を少しでも解消するために、国は「一億総活躍社会」というスローガンを打ち出し、様々な取り組みをスタートさせました。
「一億総活躍社会」とは、男性・女性などの性別に関係なく、あるいは年齢にも関係なく、誰もが働ける社会のこと。
つまりは、これまでは働く人の割合が大きくなかった層の就労率を上げていくことで、労働人口減少及びそれによる国の衰退に歯止めをかけようというのです。
そして、この「一億総活躍社会」を実現するための具体策の一つとして取組が始まったのが「働き方改革」です。
「年功序列」や「終身雇用」などという言葉に代表される現在の日本人の働き方は、基本的には「男性が一つの会社で働き続けること」を想定したものであり、特に女性や高齢者などが活躍できる機会が少ない状況にあります。
この状況を改善することで、日本の労働人口を維持していこうという思惑です。
「働き方改革」という動きは、「働き方改革関連法」という形で具現化されはじめています。
2018年4月に国会で可決された働き方改革関連法は、今年2019年4月より順次施行されています。その主な内容は以下のとおり。
・時間外労働の上限規制
・有給休暇の消化義務
・高度プロフェッショナル制度
・同一労働同一賃金の推進
・衛生管理の強化
「時間外労働の上限規制」や「有給休暇の消化義務」については、どちらかというと、「働き方改革」により誰もが働きやすい環境を整えるというよりは、「働き過ぎ」という既存の問題を解決するという目的のものといえるでしょう。
「高度プロフェッショナル制度」は、基本的には「時間給×労働時間」で計算されることが多い給与を、成果を評価して報酬を決めるという仕組みを取り入れるもの。
成果を評価することで労働時間に縛られず柔軟な働き方を実現することが目的とされる一方で、事実上の「働かせ放題」の制度だという批判もあり、目的どおりの運用がされるかが今後注目されます。
「同一労働同一賃金の推進」は、女性や高齢者にも働きやすい環境構築に関係が深い政策といえます。
特に女性がアルバイトやパートとして会社を支える働きをしていることは多く、そういった働き方の待遇を向上することで、就労率の向上にも効果が出ることが期待されます。
このように、国が実行している「働き方改革」は、その多くが働き方の「ルール」を再整備するものとなっています。
これらのルール再整備を具現化するのはあくまで企業の役割であるため、国による「働き方改革」の成功可否は企業の姿勢にかかっている、といっても良いでしょう。
次に、企業が就労環境の改善などを目的として進める「働き方改革」について。
先述のとおり、企業が「働き方改革」に取り組むのは国のルール再整備に対応するという目的もありますが、一方で昨今の人材不足は企業にとっては確実にダメージとなっており、求職者に対するアピールは重要課題となっています。
そのため、企業にとって「働き方改革」は、買い手市場から売り手市場に変化を遂げた労働市場において、生き残りを図るための経営戦略という捉え方がより重要でしょう。
企業が取り組む「働き方改革」は、国の行うルール再整備に沿ったものだけではアピールとして不十分といえます。
そこで企業はオリジナルのアイディアをプラスアルファする形で、様々な手法の「働き方改革」に取り組んでいます。
・育児休暇等の新しい形の休暇制度の創設
・短時間勤務制度・フレックスタイム制度の創設
・テレワークの導入
・業務自動化などのためのシステム開発
・アウトソーシング型福利厚生の導入
育児休暇等の休暇制度やテレワークなどのような「ルール再整備」に加えて、システム開発やアウトソーシング型福利厚生などといった「就労環境の改善」を目的とした取組が行われている点が、企業が行っている「働き方改革」の特徴といえます。
「就労環境の改善」は労働者個人のみに資するのではなく、生産性の向上という意味で企業にもプラスに働くものであるため、多くの企業が積極的に取り組みを行っています。
個人から見た「働き方改革」は、国や企業とは少し違った意味合いを持ちます。
国や企業にとっての「働き方改革」は、人材不足という課題を克服するための手段でしたが、個人にとって「働き方改革」は、人生のワークライフバランスを見直すことでより良い人生を実現できるという、ポジティブな可能性が秘められた「新たな選択肢」といえます。
個人が多様な働き方の中から自らの道を選択できるようになったのは、IT技術の発達が大きく寄与しているでしょう。
インターネットの発達により個人はどこにいても世界中の人々とコミュニケーションをとれるようになり、パソコンが容易に持ち運びできる手軽なツールとなったことで、どこにいても様々な仕事ができるようになりました。
個人が取り組む「働き方改革」としては、主に以下のようなものが挙げられます。
・キャリア設計の見直し
・ワークライフバランスの見直し
・マルチタスクの導入
個人にとっての「働き方改革」は、「働き方」だけではなく「生き方」そのものを変えられる可能性がある(「リスク」という捉え方もできますが)、という点が特徴です。
そのような可能性とリスクをはらんだ新たな「働き方」の選択肢として注目を浴びているのが「フリーランス」です。
クラウドソーシング大手のランサーズ株式会社による「フリーランス実態調査2018年版」によると、2018年にはフリーランスの経済規模が初めて20兆円を突破。
フリーランス人口も1,000万人を超え、人口の約17%を占めるまでに至っています。
今回は「働き方改革」の動きについて、国、企業、個人の視点からそれぞれ背景と具体的な内容までを説明してきました。
それぞれの立場から「働き方改革」を進めていくことの目的や内容は異なりますが、すべての根本にあるのは「労働市場の変化」という大きな動きです。
これは、今回ご説明したような労働人口の減少だけに限った話ではありません。
今後は、AI技術の発達により、AIでもできるような仕事はどんどんAIに取って代わられる、という可能性が予見されています。
事実、特に金融業界では窓口業務から資産運用業務にまでAIの進出が進んでおり、大手メガバンクを中心に新規採用の数が絞られ始めています。
今現在は人手不足により売り手市場となっている労働市場ですが、そこにAIという強敵が出現することで、特に労働者個人は「働き手」として生き残るための戦略を迫られるようになるかもしれません。
こういった意味で、今後は働き方を改革するどころか、もっと根本から生き方を見直していく必要も出てくる可能性もありそうです。
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