アジアのスタートアップ企業についての情報を日々発信している香港発のJumpstartと起業ログが、定期的に共同でアジアのスタートアップ情報を発信していくこの企画。
第6弾は、今中国から急拡大している「ライブコマース」(注:インフルエンサーなどが動画を配信し、視聴者と交流しながら商品を販売する販売手法)。
新型コロナによって高まった消費者の買い物ニーズを補い、小売業者へもさまざまな利益をもたらすライブコマースは、海外ではすでに急拡大し、今後日本でも確実にくる領域だ。
新型コロナ発生以降、ライブ配信数が40倍にも急増し、現在東南アジア・台湾で最大のeコマースプラットフォームであるShopeeの最高商務責任者 (CCO)のJunjie Zhou氏が、ライブコマースの可能性について語る!
ライブコマースは、深夜のインフォマーシャル(注:インフォメーションを中心に構成されるコマーシャル)やネット通販と同様に、顧客の好みに合ったソーシャルな買い物体験を実現するための一層魅力的で双方向性のコンテンツを提供している。インフルエンサーや小売店は様々な商品を並べて試用し、顧客はリアルタイムで商品に関して質問できるのだ。
例えば、オースティン・リーとしても知られているリー・ジャーチーは中国で最も著名な人物の一人だ。中国版Tik Tok「抖音/Douyin」で彼が持つ4000万人ものフォロワーや、独特の販売手法のおかげで、かつて彼はライブストリーミングで1万5千本の口紅の販売することができた。
今日の小売業におけるライブストリーミングの力は、それ以外のほぼ全てのeコマースのトレンドを凌駕している。このビジネスモデルは、月に9000米ドルも儲けたパク・ソヨンの動画「Mukbang」(注:自身が視聴者と交流しながら大食いをしている様子を撮影したもの)のような初期の成功例で、すでに収益性が高いことが証明されていた。しかし、正真正銘のeコマース・プラットフォームがライブストリーミングに参入したことを受けて、今では複数のブランドがそのビジネスモデルに可能性を見出し始めている。
小売業界のライブストリーミングは、2014年に中国で誕生した。eコマースプラットフォームのMogujieが、ライブ動画とそれとは別に急成長していたトレンド、「インフルエンサーマーケティング」を組み合わせた機能をリリースしたのだ。アリババの淘宝(タオバオ)も、すぐこの動きに追随した。当初は主にインフルエンサー(KOL)や著名人を活用していたが、その後は小規模な小売業者が便乗し始めた。
このトレンドは、2018年と2019年をさかいに急上昇した。顧客は魅力的でエンターテイメント性が高く、ソーシャルな買い物体験を求める一方で、小売業者は新たに顧客と交流しプラットフォームを強化するための方法を探していた。ウィズコロナ時代の今、そのようなソーシャルな要素を提供することは、ブランドを維持する上で非常に重要なのだ。
販売戦略としてのライブストリーミングの成功は、Shopeeのような中国国外のプレイヤーにも参加を促してきた。eコマースの巨大企業がライブストリーミング・プラットフォームを立ち上げようと奮闘する中、小売業者はそれとは別の収益源を収益化する機会を掴んでいる。
ほとんどの eコマースプラットフォームでは、収益がライブストリーミング機能を開発するためのコストを大きく上回る。アリババグループのニュースサイトAliziaによると、2018年、タオバオはライブストリーミングセッションを通じて151億ドル以上の流通取引総額(GMV)(注:マーケット・プラットフォームで消費者が購入した商品の売り上げの合計額)を生み出し、前年比約400%の増加を記録したという。
「コロナ前のライブストリーミングの人気は、いかに双方向のやりとりが現代の顧客の買い物体験にとって重要な要素となっているかを示している。というのも、ライブストリーミングは人々にとってお気に入りの販売人やブランドを一層身近なものにし続けてきたからだ」と、eコマースを促進するShopeeの最高商務責任者(CCO)のJunjie Zhou氏は述べる。
Shopeeは昨年3月にライブストリーミング機能を開始し、毎日平均10,000時間のコンテンツを配信した。 また、台湾と東南アジアでは、Shopeeのライブチャット上で毎時間約100万件のメッセージが記録された。Zhou氏によれば、「Shopee 9.9スーパーショッピングデー」や「Shopee 11.11ビッグセール」などの特別キャンペーンは、Shopee Liveでそれぞれ視聴数5000万回以上と6500万回以上を記録したという。
Shopeeより提供/Virvici
新型コロナの世界的流行により、何百万人もの小売業者は社会的距離規制が行われる中で数か月間にわたり閉店を余儀なくされた。しかし、そのような状況下でもライブストリーミングは人気を博してきた。中国商務部によると、2020年第1四半期の中国でのライブ配信数は400万回を超えた。
Zhou氏によると、新型コロナ発生以来、シンガポールでのブランドや販売者によるShopeeライブ配信数は40倍に増加し、平均20万通以上のメッセージが毎日のように送信された。それは、小売業者がオンラインで消費者とのつながりを深めようとしたためだと言う。
「このコロナ禍で、ライブストリーミングのようなオンライン技術は、多くのビジネスにとって不可欠な存在であることが証明されてきた。」と彼は言う。「これによって、実店舗型小売業者がデジタル経済に適応し、収益源の多様化に向けた道が開かれる。そのため、ライブストリーミングは小売業者のビジネスを持続させるだけでなく、成長させる機会をも与える」と述べている。
ライブコマースは、売り手と買い手の間に直接的な繋がりを作ることで、小売業者が顧客と有意義な関係を築き、より個々の好みに合わせた魅力的なオンラインの買い物体験を提供する一助となっている。デジタル化が進む世界において、ライブストリーミングは従来のオフラインショッピングのソーシャルな側面を再現することを目的としている。
また、ライブストリーミングはブランドの信頼性を高めるほどの非常に大きな影響力を持っている。消費者は、本来ならば匿名の小売業者の名前と顔が分かり、リアルタイムで製品が試用されている様子を見られるからだ。
「ライブストリーミング体験がこれほどまでに人気を博しているのは、信ぴょう性と親密性があるからだ。マーケティングに人間的な要素を加えることで、小売業者は顧客との信頼関係はもちろん、より強固な関係を築くことができる」とZhou氏は言う。
彼は加えて、ライブストリーミングはリーチを広げ、社会性の高い人とのつながりを維持しながら、忠実な顧客基盤を築ける有力なツールだとも述べる。さらに、特にコロナ禍での販売戦略として、ライブストリーミングは小規模な小売業者が顧客を惹きつけるための追加的なプラットフォームにもなっている。
例えば、今年3月にShopeeに入社した、シンガポール人でFacebook上の人気ライブ配信販売員のLian Huat Seafood(写真下)のMax Kee氏は、同プラットフォームで定期的にライブ配信を実施したところ、1配信あたりの注文数が約50件から400件以上に激増したという。
Shopeeより提供/Lian Huat Seafood
アリババ、テンセント、TikTok、Kwai、Shopee、Twitchなどのプラットフォームは顧客の時間とお金のために激しく競い合っているものの、小規模な小売業者はライブストリーミングを印象付けるための革新的な方法を探そうと腐心している。よくあるコンテンツは、顧客の関心を失うことにもなりかねないため禁物だ。
Zhou氏は、ライブストリーミングを単なる販売手段としてだけではなく、ブランドロイヤリティ(注:特定のブランドに対して消費者が忠誠心を持つこと)を構築し消費者のエンゲージメントを向上するためにも利用するべきだと考える。そうすれば、長期的に見てもブランドに貢献するというのだ。
「オンラインショッピングの利用者の間では、魅力的なオンライン動画コンテンツへの需要が高まっている。そのため、ライブストリーミング配信事業者は、視聴者が興味を持ち、視聴者との対話を促すようなコンテンツを制作することが重要だ。」と彼は言う。「ライブストリーミングは、販売促進、購買習慣や購買行動への影響、エンターテイメントを通じたエンゲージメントなど、さまざまな機能を持つツールでもあるのだ。」
小売業のライブストリーミングは中国発だが、ここ2年でアジアを中心に急速に普及し、新型コロナの影響でさらに加速している。例えばタイでは、ブランドや販売者によるShopeeライブストリームの数は、新型コロナの流行が始まってから5倍に増えたとZhou氏は言う。
Zhou氏によると、ライブストリーミングは特に東南アジアで大幅に成長し続けている最中だという。Facebookとベイン・アンド・カンパニーの共同調査によれば、現在50%以上の人がソーシャルメディアで新商品を発見しているという。
彼は、買い物客はますます「共有可能な体験」に高い価値を置くようになっているため、eコマースにおけるエンターテイメントとソーシャルエンゲージメントの必要性は、これまで以上に説得力のあるものになっているとも言う。
世界的に見ても、eコマースプラットフォームは提供するサービスの双方向性を高めるために、ライブチャットやアプリ内ゲームのような新しい戦略を展開し、ライブストリーミング・プラットフォームの開発へ更なる投資を行っている。2019年にShopeeのアプリ内ゲームが10億回以上もプレイされたことは、こうした戦略の人気が高まっている証だ。
「東南アジアのユーザーがより魅力的でソーシャルな体験を渇望し続ける中、Shopeeは高く持続的なユーザーエンゲージメント(注:ユーザーが企業に対して持つ愛着の度合いのこと)を通して、この地域の買い物客の心を鷲掴みにする取り組みを展開していくつもりだ」とZhou氏は述べている。
プロフィール
Jumpstart
出典:JumpStart(https://www.jumpstartmag.com/jumpstart-magazine-issue-30-the-lockdown-issue/)
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