世界からも注目を集めるインフォステラのシェアリング事業とは? 倉原直美の宇宙への想い

世界からも注目を集めるインフォステラのシェアリング事業とは? 倉原直美の宇宙への想い

記事更新日: 2019/11/26

執筆: 編集部

「地上のインターネットを宇宙まで広げること」。これは株式会社インフォステラが掲げているビジョンです。

衛星用アンテナのシェアリング事業を手がけるのが「株式会社インフォステラ」。同社は、2017年にスタートアップを中心に投資活動を展開している企業数社から合わせて8億円の資金調達を受けました。

まさに地球規模の宇宙事業ですが、代表取締役を務めているのは倉原直美氏。一見、グローバルな起業家とは無縁そうに見える、普通の女性なんです。

倉原氏は、自社が開発したアンテナシェアリングプラットフォーム「StellarStation(ステラステーション)」の可能性について、こう語ります。

プロフィール

倉原 直美 共同創業者 代表取締役CEO

インフォステラの創業者兼CEO。インフォステラ(東京)は宇宙開発の新時代に向けた通信技術会社として、衛星用アンテナのシェアリングプラットフォーム「StellarStation」を開発している。これによりアンテナ保有者は、自らのアンテナの非稼働時間の貸し出し、及び、他の遊休アンテナの利用が可能になる。 九州工業大学大学院で博士号(工学)を取得。また、JAXAと協同でのイオンエンジン・宇宙プラズマ環境の研究、さらに東京大学の博士研究員として、ほどよしプロジェクトの人工衛星運用システム及び地上局開発のマネージャーを務める等の経験を持つ。衛星管制システム大手Integral Systems Japan社で衛星管制システムエンジニアとして勤務後、2016年にインフォステラを起業。

年間200基以上打ち上げられている人工衛星事業

―御社が開発された「StellarStation(ステラステーション)」ですが、国内はもとより、海外からの注目が集まっているといえます。御社のサービスである「アンテナシェアリングプラットフォーム」について、詳しくお聞かせねがえますか。

倉原:衛星のビジネスをやるには、地上にいる人が衛星からデータを受け取ったり、衛星に情報をアップロードしたりする必要があるんです。その時に必要となるのが、地上側の通信システムを含め、運用システムなんです。

それと同時に、最近盛り上がっているのが、周回衛星や、定置軌道衛星と呼ばれる人工衛星。

これらは静止衛星とは違って、地上から見たときに同じ位置にいないのですが、今、産業として注目を浴びているんです。

 

―具体的には、どのような盛り上がり方なのでしょうか?

周回衛星や、定置軌道衛星と呼ばれる衛星は、民間企業や大学などの研究機関も含め、年間200基から400基打ち上げられているんです。

 

―そのような数の人工衛星が打ち上げられているとは知りませんでした。それなら、ビジネスチャンスも潜んでいそうですね。

一般にはあまりなじみがないかもしれませんね(笑)。

このような現象がここ5年くらいの間、このペースで起こっているんです。

でも、この周回衛星を使ったビジネスをするときにネックとなるのが、周回衛星は地図上からみてずっと同じ位置にいないので、(地上側が受ける)通信量を増やしたい場合は、世界中にアンテナが必要となるんです。

ということは、かなりのインフラ構築が必要ということでしょうか。

ある地点から見た通信機器が、見えるのが10分くらい。

長くても20分。衛星の軌道と地上の位置関係にもよるのですが、何回衛星が見えるかが関係してきて、日本から見えるのはほとんどの場合で3、4回程度なんです。

1回の通信機械が10分前後、それが3、4回となると、日本の機械だと1日に1時間分の通信機会を確保できないんです。

 

―まるでインターネットの黎明期のようですね。その情報量では、事業として展開するには厳しいのではないでしょうか。

この問題に対しては、2つ問題が出てきたんです。

通信設備を持っている事業者だと、一衛星に対しては1時間位しかサービスができないんです残りの時間が空いてしまう。

通信設備の事業者にとっては、稼働率を増やすためには沢山の顧客を確保しなければならなくなってしまうんです。これが1つ目の問題。

次は、衛星からより多くのデータを取りたい事業者からは、1カ所の設備と契約をしても、1日に1時間くらいしかデータが取れないので、世界中の事業者と契約しなければならないんです。

弊社では、この両方のペイン(悩みの種)を解決しようとしています。

世界中の通信設備を、「StellarStation(ステラステーション)」でどれでも使えるようにしたいです。

仮想的に一つのネットワークにしてしまいたいです。そういうプラットフォームが、この「StellarStation(ステラステーション)」なんです。

 
 

身近な情報が手に入るステラステーションの可能性

―宇宙インフラの構築と聞くと難しそうですが、情報システムを一元化するイメージなのでしょうか。

そうですね。「アンテナシェアリング」と呼ばれたりもしています。

「ステラステーション」はGoogleクラウド上でソフトウェアが動いているアプリケーションなんです。

そのソフトウェアが、世界各地にある通信設備とローカルエリアネットワークのような回線を開くことができるようになっているんです。

今、弊社のアプリケーションは、東京のサーバー上でJCP(Java Community Process)で動いているんですけれど、そこにアメリカのアンテナからデータが流れてきます。ヨーロッパのアンテナからもデータが流れてくるんです。

逆に、日本にいるオペレーターから、東京のサーバーを通じて、アメリカやヨーロッパというような通信設備にデータを送ります。

その先には衛星があるんです。(一息ついて)というようなサービスを運営しています(笑)

 

―お聞きする前は、宇宙インフラや、人工衛星という言葉から、専門用語が飛び交うような難解なサービスをイメージしていましたが、私たちの生活にとって、身近な情報となる部分も担っているサービスなのですね。

最近は、民間企業以外にも宇宙工学や、航空を専門分野とする大学でも人工衛星への参入が増えているんです。

人口衛星に、固定カメラや、UAV【Unmanned aerial vehicle:ドローンなどと呼ばれる無人航空機】のような技術を搭載して、宇宙で使いたいという研究者も増えているんです。

具体的に人工衛星が使われているサービスを説明すると、Googleマップだと最近では災害時の状況把握に使われています。

そのような地図情報にアドオンして、利用するというケースが多いです。

周回衛星を使ったサービスだと、主にリモートセンシングの技術が使われています。

カメラみたいなものを使って撮像しますが、普通の写真以上の情報を含んでいるんです。

例えば、近赤外(波長が短い赤外線)とか、光と可視光が違う波長のレンズ。そのようなレンズでものを見ると、目で見てわからない情報がわかるんですね。

例えば、「このエリアだと水分量が多い」「この作物は他のところよりも乾いている」など、物質的な情報がわかったりするんです。

 

―宇宙から地球を観測している人工衛星で、そのような地球の情報がわかるというのは、不思議ですね。

例えば、地下にどんな資源があるかどうかという、地中の情報もわかったりします! 衛星から撮像するといろんな情報が浮かび上がってくるんですよね。

そういった情報を、農業や災害監視、資源管理に使ったりしています。

 

―では、どのようなきっかけでこのようなサービスが浮かんだのですか?

もともと、大学で研究者として衛星を利用したり、開発を行っていました。でも衛星を使った情報が必要になると、毎回ネックになっていたのが、地上側のシステムが乏しいということなんです。

東大で研究者として学んでいたのですが、世界中から観測をしたり、データを下ろそうとすると莫大なお金がかかるんです。
私が大学にいた当時、見積もりを取ったら、10分間でバルク(容量)替えして50ドルとか100ドルくらいでした。

その頃作っていた衛星だと、画像を1枚下すのに10分ほどかかったんです。

画像1枚下すのに100ドルかかっていると、その画像を使って何かしらビジネスをしたいとなったら、それ以上の価格にしなければならないんです。これでは、いつまでたっても、衛星のデータサービスの価格が下がっていかないと思いました。

そこで、衛星を使ったサービスを思いついたんです。これは利用側の立場にいたから気づけたのかもしれません。

1時間に1画像が取れたら、ビジネスになるという意見が周りから出てきたんです。

―まさに、ご自身の経験からサービスに結び付いたのですね。

本当にやりたかったのは衛星を使ったデータビジネスだったのですが、この問題を解決しておかないと、絶対に成功できるはずがないって思ったんです。また、世界中みてもこのサービスが、どこにもなかったんです。これが起業のきっかけです。

 
 

起業してすぐに直面した最大のトラブル!?

―実際に事業として実現するために、いつごろから動かれたのですか。

サービス自体はポスドクの頃に思いついたのですが、いったん、民間企業に就職しました。

入社した企業で、そのようなサービスをやったらいいなって思ったんです。イントレプレナー(社内起業)ができるのかなと思ったのですが、そんなに簡単なことじゃないんだな(笑)って気づいて。

2014年頃から、学生時代の友人が、スタートアップ企業で働き始めたんです。その時期に、スタートアップという概念を知りました。そのぐらいから、起業するために調べ始めました。

 

―学生時代から、宇宙工学の分野に就職を希望していたのですか?

私は北九州出身なのですが、小学生の頃、地元にあったスペースワールドという施設に連れて行ってもらって、衝撃を受けたんです。
「宇宙で働きたい」 「宇宙飛行士になりたい」と思って、事業団の募集要項も取り寄せてみました。

そこには、理系学部の卒業資格や、専門職での就業経験4年というような条件が書いてあり、「宇宙にかかわる勉強がしたい」という思いから、理工系の大学に進学しました。

 

―大学では、どのような研究をされていたのですか?

大学の研究室が人工衛星の研究だったんです。今度は、人工衛星関係の仕事がしたいと、より具体的になりました。地上システム側、衛星運用に進もうと絞り込んでいきました。

 

―子どもの頃から宇宙に関わる仕事がしたいという目標を、持ち続けていたんですね。起業に関しては、「このサービスなら大丈夫」というような確信はあったのですか?

私の場合は、宇宙関係の仕事がしたいというところから、すべてのモチベーションがスタートしています。

ただ起業に関しては、共同創業者が、別のスタートアップの経験があったので助かりました。正直、数千万円とか、数億円というような金額を、上場前の株と引き換えに貸してくれる人がいるなんて、想像がつかなかったですね(笑)

でもこのサービスは必要なものなので、うまくいくという確信はありました。ただ、周回衛星の産業が、どのくらいのタイミングで成長するのか。どれくらいでサービスが盛り上がってくれるのかは不安でした。

 

―お聞きしていると、目標に向かって事業も順調そうにみえますが、なにか起業に関してトラブルなどはありませんでしたか?

実は2016年1月に、共同創業者2名と起業したのですが、その年の4月か5月くらいに、まさに資金調達中に妊娠したんです。

 

―(驚いて)それも予定通りの出来事だったのですか?

実は、妊娠自体予想外の出来事だったんです。「資金調達中に代表が妊娠なんて、どうしよう…」という不安な気持ちになったのですが、心配は杞憂に終わりましたね。

前向きに投資を検討いる企業からも、「投資止める」といわれるのではないかと心配していました。
結果として、詳細な契約書に入る前に妊娠をしたことを伝えました。でも全然投資を止められるようなこともなく、安心しました。

 

―仕事はどのように続けられましたか?

妊娠中も、出張があり飛行機に乗ったり、月1ペースで動いていました。最後は、リモートワークなどを利用していましたが、出産後も1カ月で職場に復帰しました。

―産後一か月で仕事に復帰するのには、相当な覚悟が必要だったのでは?

働かない方がストレスなんです。ブランクができる恐怖というか。一カ月間、自分が見ていない間になにか起こったらという心配だったんです。実際は、そのような心配は必要なかったのですが。

でも宇宙事業は、やりたいことなので頑張りたいって思いました。

 
 

起業家に必要なのは鈍感力

―倉原さんが仕事をしているうえで、影響を受けた方っていますか?

エンジェル投資家の千葉功太郎さんです。起業の際に投資を受けているのですが、彼が主催している起業家向けの千葉道場にも参加しています。
もう一人は、千葉道場で知り合ったWealthNavi(ウェルスナビ)の取締役の柴山和久さんです。

どちらも、ロジカルに考える能力や、計画力などを尊敬しています。

―では仕事以外のプライベートの時間はどのように過ごされていますか?

子育てですね。仕事以外の時間はすべて子育ての時間にあてています。子どもと一緒にいるときには、仕事の子とは考えないようにしているんです。

―では、最後に起業に必要なものって何だと思いますか?

起業した当初は、自分がやらないといけないことが多いんです。でも、つい自分がやろうとしてしまうけれど、ほかの人に任せた方がいい部分は、任せるようにしています。
あとは、周りの意見を聞くこと。経営は答えがないことも多く、いろんな人の意見を聞くようにしています。

以前、「鈍感力があるね」って言われたことがあるんです。自分でも「なんとかなる」っていうのが大事だと思っています。多少のリスクには目をつむって、飛び込む勇気があれば、そこに入ってなんとかする。そういう気持ちが大事なのではないかなと思います。

 

―ありがとうございました。

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