農業DX×脱炭素で海外6カ国に展開。自治体と連携し、法改正を実現したサグリ坪井氏インタビュー

農業DX×脱炭素で海外6カ国に展開。自治体と連携し、法改正を実現したサグリ坪井氏インタビュー

サグリ株式会社 代表取締役 CEO 坪井 俊輔氏

記事更新日: 2023/03/14

執筆: 長田大輝

「自分たちのプロダクトには大きな優位性があり、着実に成長を重ねていきたい」

衛星データを活用して農地に関する課題解決につながるプロダクトを展開する坪井 俊輔(つぼい・しゅんすけ)氏はこう語る。

AIによる農地のポリゴン自動生成技術の国内特許を取得し、衛星データを活用して農地管理における課題の解決を目指す、サグリ株式会社 代表取締役 CEOの坪井 俊輔氏に話を伺った。

現場のニーズを見出し法改正までこぎつけたアクタバ

編集部:サグリの事業概要を改めて教えてください。

坪井:我々は、サテライト・AI・グリットの三つのキーワードを掛け合わせた事業を展開しています。

衛星データを解析しながら、農業に従事する世界中の人々にサービスを届けていきたいと考えています。

事業としてはアクタバデタバサグリの三つのソリューションを展開しています。

アクタバは、衛星データで耕作放棄地の早期発見を可能にするサービスで、すでに複数の農業委員会さまにご利用いただいております。

デタバは作付け調査を簡単に把握することを可能にするサービスで、地域農業再生協議会の方々が顧客になります。

サグリは、農業従事者や農協の方々向けに土壌の状態や生育状況を一括で見える化し、土壌解析を効率化することができるサービスです。

編集部:アクタバが解析する「耕作放棄地」とは一体どのような農地なのか具体的に教えてください。

坪井:農地として使用が困難な土地だけでなく、農地に戻せる可能性が高い土地も含めて耕作放棄地と呼びます。

日本では毎年、農林水産省主導で全国の約430万ha以上の農地の状態を調査しているのですが、現在の耕作放棄地の全国平均は約10%です。

使える農地は守っていき、復元が可能な農地は適切に管理する。耕作放棄地を把握し、いかに増やさないかは重要であるとともに、非常に手間のかかる作業なため、アクタバで業務の効率化を図っています。

編集部:農地パトロールや作付け調査といった、現場の方が抱えていらっしゃる課題はどのようにして見つけたのでしょうか。

坪井:そういった現場が抱える課題は、つくば市の職員さんが見つけてくれたものです。

当時2019年はサグリとして、「令和元年度いばらき宇宙ビジネス事業化実証プロジェクト」および「つくば市未来共創プロジェクト」に参画して技術実証に取り組んでいました。

その際につくば市の担当者さんから、「市の中でこのような課題がある。衛星データが使えるのではないか」ということで、農業委員会の方におつなぎいただきました。

話を聞けば、約41,000人の方が目視で耕作放棄地を調査している、いわば戦国時代の太閤検地と同じことをされていることを知りました。

その出会いをきっかけに、現場の方に寄り添いながら今のアクタバのコアとなるアプリケーションを開発していきました。

編集部:その後2020年にアクタバをリリースされていますが、リリース後に苦労された部分はありますか?

坪井:アクタバが現場の方々の助けになるという確信は最初からありました。

実際に2020年3月のリリース直後から導入いただいた自治体もいくつかあったのですが、そこから導入自治体の数をスケールすることには一定の壁がありました。

衛星データで耕作放棄地を正確に把握することができるということを、自治体の方になかなか信じていただけなかったのです。

そのために、まずは事例を着実に積み上げていくことに注力しました。

そしてそれと同時に、国のルール自体を変えていく働きかけも行いました。

2020年度の後半に農村振興局と共に行った、衛星データで農地パトロールをする実証で一定の成果を出し、2022年度に法改正が行われました。

編集部:2021年の岐阜県下呂市役所での導入を皮切りに、アクタバは自治体への導入が進んでいます。風向きが変わったと感じたことは何かありましたか。

坪井:大きく変わりましたね。

当時は法改正される前だったため、導入はされないだろうと個人的に思っていました。

しかし蓋を開けてみると下呂市の担当者さんから予想以上の評価をいただき、即決に近い形で決断いただきました。

通常だとほかの自治体での前例の有無が気になるものなのですが、第一号事例として導入いただいた形です。

編集部:そのように即決いただいた理由はどのようなものでしょうか。

坪井:理由は二つあると考えています。

一つは、中山間地域である下呂市は耕作放棄地の課題が多く、調査の負荷も大きいことです。

現場の方々はずっと違和感を抱きながらも目の前の調査業務をやらないといけない、そんな状況でした。

二つ目の理由は、下呂市役所のバイタリティーあふれる担当者さんに幸運にも出会えたことです。

自分が現状を打破するんだという気持ちで取り組んでいただき、その存在は我々にとって非常にありがたいものでした。

脱炭素領域にも注力

編集部:現在インドで脱炭素ビジネスの展開もされていますね。取り組むきっかけは何だったのでしょうか。

坪井:2年ほど前の国連関係のアクセラレータプログラムに、脱炭素に関する事業として参加していました。

ちょうど前述のAIポリゴンの特許取得や、実証でアクタバの良い結果も出てきていた時期です。

その時期、たまたまインドに出張していた際に、カーボンクレジット制度のことをインドの農協の方が語っていたのです。

まさかインドの農協でカーボンクレジットの話が出てくるとは思っておらずかなり驚きました。

当時は国内でWeb3の波が訪れていましたが、なぜ脱酸素は日本に来ていないのかと大きな違和感を覚えました。

このことをきっかけに、脱炭素ビジネスの事業検討を開始しました。

日本では、前首相がカーボンニュートラルを政策として宣言してはいましたが、プレイヤーも少なく市場も形成されていなかったため、先にインドで事業の種まきを開始しました。

編集部:アクタバやデタバ、サグリといった既存事業とはどのようにバランスを取っているのでしょうか。

坪井:私の2022年〜2023年のテーマは、脱炭素とグローバル展開です。

国内でのアクタバやデタバの導入はさらに順調に拡大していくと考えています。既存のプレイヤーも少なく、我々のプロダクトの優位性も大きいからです。

次の一手としては脱炭素事業の推進に挑戦していきたいと思っています。また、海外で事例をつくるほうが最終的に日本のためになると考えていて、今はグローバルでの事業展開に注力しています。

編集部:日本とインド以外の市場開拓についても検討されていますか?

坪井:日本とインド以外ですと、タイやフィリピンでも事業展開を検討しています

フィリピンではカーボンクレジットなどに現地の方も非常に注目しています。

カーボンクレジット創出のために新たに何か必要な行程が発生すると負担ですが、現地の方々がすでに行っている行程をしっかり評価し、経済的なインセンティブが生まれる世界にしていきたいと考えています。

外部投資家の参画で経営者として一段上のフェーズへ

編集部:学生時代には株式会社うちゅうも創業されています。当時は、どのようなことを考えながら過ごしていましたか?

坪井:当時は、経営者ではなかったと感じています。

若くて勢いがあったおかげで周囲の人を巻き込むことができました。

しかし、チームの満足度などまで考えておらずチームが崩壊したり、お金の管理も細かい部分まで理解ができていませんでした。

今は少しずつですが経営者的な思考もできるようになってきています。

今となって、上場を目指していくにあたって当たり前にできていないといけない部分が理解できてきて、自分自身でなく経営者の意思決定として判断できるようになったのが当時との違いですね。

編集部:そのようなご自身の変化は、いつごろから感じていますか。

坪井:2021年に外部投資家に出資いただいたことが大きな変化でした。

資本を外部から入れているということは、自分だけの会社ではないことを意味します。

サグリという会社は自分だけのパフォーマンスではどうしようもない領域にきています。

プラスでもマイナスでも何か変化が起きた際の責任感の重さが全く違うと感じます。

自分自身が100%株式を保有しているわけではないので、サグリに何か大きな事象が発生した際、自分の責任であると同時に、ほかのステークホルダーの責任にもなってしまいます。

表面上の話だけでないということが、実際に今の立場になると強く感じますし、自らの成長にもつながっています。

編集部:そのように外部資本も入り順調に組織が成長している中で、会社の核となる人材をどのように獲得していますか?

坪井:基本的に正社員の方を雇う場合は弊社COOの益⽥に任せています。

私が把握するのはチームの人件費の総額予算のみで、そのほかの意思決定は益田が担当しており、入社後の1on1も益田が行っています。

一方役員クラスは私自身が全員口説いて意思決定しています。

私が探して判断して、取締役会で提案しています。現在私が1on1しているのは社内で3名のみで全員エグゼクティブ人材です。

編集部:現在、サグリの採用で何か課題はありますか?

坪井:一年前はエンジニアが足りずに困っていましたが、現在は採用に困らない状態へ変化してきました。

このフェーズになると、次は組織における人事制度の確立や、面接の質向上が課題になってきます。

具体的には、給与交渉における制度づくり、残業費用やSOの透明化などです。

曖昧な点が発生し、社員として気になる状態が続いてしまうと、パフォーマンスを発揮して会社に貢献したいと思ってもらえなくなってしまうため、その人も会社も成長スピードが落ちてしまいます。

透明性が高い制度を社内でつくることが今は大変でもあり重要だと感じています。

スタートアップだからこそ等身大の成長も大事

編集部:過去にはどんなピッチイベントや実証プログラムに参加してこられましたか?

坪井:ICC(Industry Co-Creation ® )サミットとB Dash Campには昨年出場し、双方でメリットがありました。

実は、二つのイベントでは意図的に全く内容の異なるピッチを行いました。ICCサミットは日本の産業を共につくっていくというコンセプトのイベントです。

そこで、アーリーフェーズではなく、すでに事例が積みあがってきているアクタバが参加者層との相性が非常に良かったです。

B Dash Campはシードでグローバルな挑戦を期待するコンセプトであるため、脱炭素ビジネスとしてピッチを行いました

編集部:こちらの二つのイベントでは、具体的にどのようなメリットがありましたか?

坪井:双方のイベントで、投資家との接点が生まれたり協業できそうな大企業とつながりができたのは大きなメリットでした。

また、監査法人の方や未来につながるプレイヤーの方々との接点を持てたのも貴重な機会でした。

編集部:日本のスタートアップエコシステムに対して感じていることを教えてください。

坪井:「スタートアップとはこうでなきゃいけない」というステレオタイプが多いなと常々感じます。

赤字を掘って急成長する。それも重要ですがPMF(Product Market Fit)してからのグロースが大事だと考えています。

PMFを実現する前に多額の資金を投下するのはあまり得策ではないのではと私は感じています。

大事なのは等身大の成長です。理由はシンプルで、エクイティ・ファイナンスは残酷だからです。

PMFを実現するまでに必要な資金はそこまで多くはないと思いますので、PMFまではできるだけ小さく自己資金でやるべきだと、今のスタートアップシーンをみて感じます。

編集部:最後に、坪井さんがサグリの事業を通して実現したい世界を教えてください。

坪井:グローバルの市場で、たくさんのユーザーにサグリのプロダクトを使っていただく世界にしたいです。

2030年には、海外10カ国程度でサービス展開していく予定です

現在すでに日本を含めて6カ国で展開していますが、既存のサグリのサービスも脱炭素領域のビジネスも、広く展開していきたいです。

ものすごく野心的な挑戦に見えるかもしれませんが、その挑戦にワクワクする方はぜひお声がけください。

編集部:ありがとうございました!

編集部
 

インタビューを通じて、学生起業家だった坪井氏が、より高い視座を持った経営者として変革していくストーリーが非常に印象的だった。 国内で既存事業を成長させながら、グローバル市場でさらなる挑戦をめざすサグリ。衛星データ利活用のさらなる可能性が楽しみだ。

社名 サグリ株式会社

・住所 兵庫県丹波市氷上町常楽725-1(兵庫本社)  
    東京都新宿区西新宿7-7-26 ワコーレ新宿第一ビル 803号室(東京本社)
・代表者名 坪井 俊輔
・会社URL https://sagri.tokyo/
・採用ページURL https://herp.careers/v1/sagr

長田大輝

この記事を書いたライター

長田大輝

学生時代に宇宙工学を専攻。ビジネスコンテストやアクセラレータプログラムの企画運営に関わりながら、ライフワークとして宇宙ビジネスメディアにライターとして参画。趣味はロードバイクとラグビー観戦。

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